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キャリこれ

「何をやるか」の前に「何のためにやるか」それがブランディングの第⼀歩

インタビュー

個人

2021.2.18

今回記事を書いてくださったレベルフォーデザインの清水さんは、「キャリアのこれから研究所」ロゴマークのデザインからサイト設立に至るまで諸々関わってくださった方です。
サイト設立に向け何度も打合せを重ねる中、お互いの思い・会社の理念に共感し合う瞬間が多々ありました。
そこで今回は、清水さんに”デザイナーから見たキャリアとブランディング”について寄稿いただきました。
株式会社レベルフォーデザイン 代表取締役 清⽔啓介氏 プロフィール
1967 年⽣まれ、⼭⼝県出⾝。東京のデザイン事務所でキャリアを積み、1992 年フリーのデザイナーとして独⽴、1998 年に株式会社レベルフォーデザインを設⽴。ブランディング、デザイン製作を中⼼に企業の課題解決をサポートする。
2010 年に盛和塾に⼊塾し稲盛和夫⽒のもと経営を学ぶ。経営理念は「全社員の物⼼両⾯の幸福と成⻑を追求し、デザインの⼒で社会に貢献する」。デザインにできること、その価値を追求するとともに、その⼒を社会や地域に役⽴てるため、事業の拡⼤を⽬指す。
2019 年総務省による関係⼈⼝創出プロジェクトの参画をきっかけに島根県益⽥市に、⾼津川リバービア株式会社を設⽴、地元産品を使⽤したクラフトビール醸造を軸に地域ブランディングにも取り組む。

デザイナーを50 歳で卒業した理由

デザイナーとして最前線の制作に携わるのは45 歳がピークです。あくまでも個⼈的な⾒解ですが。
私の会社は企業のブランディングを軸にした、デザイン製作会社です。約30 年間にわたりデザイナーを募集してきました。
昔を振り返って感じる現在との⼤きな違いは男⼥⽐率です。30 年前、新卒のデザイナー志望の約80%が男性でしたが、現在は逆転して約80%が⼥性となっており、時代の流れが反映されているように感じます。
そして、現在デザイナーとしてのキャリアを積んだ経験者の応募は、圧倒的に50 才前後の男性が多く⾒られるようになりました。応募があるのは⾮常に嬉しいことなのですが、時代の流れとともに、そのような現状を⾒て、私⾃⾝もその年齢になり複雑な気持ちになることも多々あります。
何歳まで最前線でデザイン制作に携われるのだろうか?と。
プロスポーツ選⼿に引退があるように、デザイナーにも引退や選⼿⽣命、引き際というものがあるとすれば50 歳ではないかと思います。プロスポーツ選⼿の引退の理由は、怪我、年齢による体⼒の低下、そしてメンタル⾯でのモチベーションの低下と⾔われ、その多くは20〜30 歳代がほとんど。40 歳を超えて活躍できる選⼿はごくわずかで、プロ野球選⼿でいうと現在905⼈中40 代は11 ⼈で1.2%。
では、デザイナーはどうでしょう。幼少期に絵を描くこと、モノづくりが好きなことをきっかけにその道を⽬指すことが多いようで、そこから学校で学び、技術を磨く。社会に出て⼿に職と⾔われるクリエイティブ⼒を⾝につけてさらに成⻑を⽬指す。
その過程でその道を断念する⼈も数多く⾒てきましたが、ここまではスポーツ選⼿も含め、どの業界もあまり変わらないように思います。
怪我や体⼒の低下というのは個⼈差があるかもしれませんが、デザイン業界ではそれが少ない分⻑く仕事ができるのだと思います。
ただ「スキル」という、デザイナーの源泉となるデザイン技術や表現⼒、アイデアや発想⼒に関しては、残念ながら年齢により低下するのではないかと感じています。
低下というより、⼀定の年齢から成⻑が鈍化、もしくは停滞するイメージのほうが近いかもしれません。簡単に⾔うと⾃分のデザインが「あれ?なんか古いな。」という感覚です。

成⻑が⽌まったと感じる瞬間

私は現在53 歳。
グラフィックデザイナーとして会社員で5 年、フリーで5 年、経営者として23 年、30 年以上クリエイティブの仕事に携わってきました。
その中で「成⻑が⽌まった」と感じる瞬間がありました。
まだ未熟な20 代、とにかくかっこいいものをデザインする。それがデザイナーだと思っていました。
だから、ただひたすら仕事に没頭していました。そもそも好きなことなので仕事という意識もなかったように思います。
それは今も変わりません。全⼒で⾃分が納得いくまでデザインをしていたので、ほとんどのものは⾃分の中では「いいデザインだ」と⾃画⾃賛の毎⽇でした。
しかしそう感じるのはその時だけ。
1 年経って1 年前の「いいデザインだ」を⾒直した時に、全くそう感じない⾃分がいることに驚くのです。
「あれ?イマイチだな。ここ、もっとこうすれば良くなるのに。これで本当にクライアントの期待に応えられたのだろうか。」と感じ、申し訳なく思ったりもするのです。
さらに1 年経って1 年前のデザインを振り返ると全く同じ感覚、「あれ?イマイチだな」。これが約20 年以上繰り返されます。
そして45 歳で突然、同じように1 年前のものを振り返った時に、「いいデザインだな」と思ってしまった⾃分に衝撃を受けたのです。その翌年も同じ感覚が続き、私は50 歳で第⼀線から退くことを決意したのです。
私は、⾃らデザインしたものを振り返った時に、改めてイマイチだなと感じられるというのは成⻑の証だと思うようになりました。
だから、振り返って「いいデザインだな」と感じた時にデザイナーとしての成⻑が⽌まってしまったのだと思ったのです。
残念ながら、45 歳以降その感覚は変わりませんでした。
仕事としては振り返ったときに、⾃らがベストだと思えるデザインを提供できているので、本来そうあるべきで、喜ぶべきことかもしれません。
しかし、デザイナーとしての成⻑という意味ではそれが⾃分⾃⾝のキャリアの分岐点になりました。
「ここで製作の最前線から卒業しよう」
そう決意したのが50 歳だったので、その年代の求職者が増えている理由もこれに近いことが影響しているのではないでしょうか。
その分岐点での判断を左右する⼀つに、個⼈におけるブランディングが必要だと思っています。ブランディングという考え⽅は企業だけのものでなく、キャリアを形成するうえで個⼈にとってもあてはまる重要な要素なのです。

ブランディングで⼤切なのは「何のために」

ブランド「Brand」の語源は古ノルド語の「brandr(ブランドル)」、焼印をつけるという⾔葉からきており、⾃分の放牧している家畜が他者のものと紛れないように焼印を押すという⾵習に由来していると⾔われています。
そして中世ヨーロッパでは、品質を保証し、信頼のために出所表⽰をすることで、⽣産者を識別し、他の⽣産者の製品と区別するための⼿段として⽤いられてきました。
現在のブランドの定義は「ブランドとは、商品やサービスを競合他社から明確に区別し識別させるための名称、⾔葉、デザイン、シンボル、その他特徴である(アメリカン・マーケティング協会より)」とされています。
そして、私が考える企業のブランディングとは「らしさ」を引き出し、それを価値に変えて時代や環境、ニーズに合わせ、正しく伝わる表現で魅⼒的にデザインすること。その⽬的はファンをつくること」です。
ファンになってもらうということは、⾃分で「私はやさしい⼈です!」と⾃ら⾔うのではなく、相⼿の⽅から「あなたはやさしい⼈だね!」と喜んで⾔ってもらえるようになること、それが広告とブランディングの違いです。
私はこれまで約900 社の企業や商品のブランデイング、デザイン制作に携わってきました。
企業には歴史があり、⽂化があり、創業者のもつ哲学や想い、⽬的があります。
その中でも特に⼤切なものが経営理念です。
経営理念には⼤義名分が必要で「何のために経営をするのか」が重要な要素となります。
その経営理念を軸に、⽂化や想い⼀つひとつの集積がその企業「らしさ」を作り上げていきます。永続している企業の多くにはこの「らしさ」が必ずあります。
商品やサービス、簡単なスキルは真似されても、「らしさ」は簡単にコピーできませんから、それが差別化や強みとなり、ブレない軸になっていきます。だから企業の在り⽅が問われる今、その「らしさ」が⾏動や考え⽅にも結びつきやすく、ブランディングという観点が重要視されているのではないでしょうか。
残念なことにその「らしさ」が正しく表現されていない、うまく伝えられていない企業が数多く存在しているのも事実です。

「らしさ」と「スキル」は違う

ブランディングは個⼈のキャリアを形成する上でも重要な考え⽅といえます。
それは、個⼈にも「らしさ」があり、それが選択の幅や基準にもなるからです。
「らしさ」は様々な経験をすることで気づき、明確になり、時間をかけて構築されることも多いと感じています。そうすることで導き出された、ブレない「らしさ」はその⼈の本質とも⾔えるかもしれません。
そこで⼤切なのが、その⼈の「らしさ」は、その⼈が「何をやるか」「何ができるか」というスキルを伴うことは違うということ。「らしさ」の中⼼は「何のためにやるか」という⽬的や想いがなくてはなりません。
「何のためにやるか」が中⼼にあり、その想いに対して広く共感され、万が⼀スキルがなかったとしても、そのスキルを持った、同じ想いの⼈が集まりファンになることで、⼀⼈ではできなかったことが、できるようになる場合もあります。
想いは同じでも違うスキルを持った⼈が集まれば、やり⽅も変わってくるし、できることも増えるでしょう。できることが増えると場合によっては、やりたいことも変わってくるかもしれません。まずは「らしさ」につながるブランディングの第⼀歩、「何のためにやるか」を考えなければいけません。これは企業も個⼈も同様なのです。

何のために仕事をするか

私は30 代前半のころ、デザイナーとして多忙な毎⽇を過ごす中、仕事はうまくいっていたのに、法⼈化し社員が増えるとなかなかうまくいかないことに悩んでいました。
いいデザインはできても経営はできない。今考えると、デザインすることと経営することがまったく違うのは当たり前のことで、経営が上⼿くいかなかった要因の⼀つは、「いいデザインをする」ことが中⼼になっていたからなのです。
いいデザインをすること、そのデザインこそが「私らしさ」だと考えていました。そのために全てをデザインのスキルだけに頼っていました。
何のためにデザインをして、何のために経営をしているのかを深く考えていなかったのです。リーダーがそれを考えなければ、若いスタッフも考えることはありません。
そこで私は「デザインスキル」=「私らしさ」を考え直し、それを変えるため、経営を学び、企業理念で⼤切な「何のために経営をするのか」を徹底的に考えました。
これを個⼈で⾔うならば、「何のために仕事をするのか」を考え抜くことと同様だと思います。あくまでも個⼈の持っているスキルは、この「何のために」を可能にするための⼿段にすぎないと考えるようになりました。
ですからスキル中⼼でそれだけに頼りすぎると、⼀時的には上⼿くいったとしても今の時代、それだけで継続できる可能性は低くなります。それは、時代の変化が速くなるにつれ、培ったスキルがあっという間に古くなったり、ニーズに合わなくなったり、新たな仕組みやサービスで代替されてしまい、最終的に変化への対応が困難になるケースを数多く⾒てきたからです。
スキルは⼤切で磨かなくてはいけないのは⾔うまでもありませんが、個⼈のブランディングとしても軸になるのは「何のためにやるか」ということです。
そしてそれを考え続け、発信し⾏動することで共感する⼈が現れ、応援してもらったり、助けてくれる⼈が増えれば、「らしさ」が価値となり、キャリアの形成に役⽴つのではないでしょうか。
冒頭にお話しした、キャリアのある求職者の多くは、デザインという仕事が⼤好きで、⾮常に優れたスキルを持ち、様々な賞を受賞されている⽅も多くいらっしゃいます。
それは本当に素晴らしいことなのですが、その優れたスキルや成功が実は次のキャリアへの⾜かせになっているように思います。そのスキルを決して無駄にしないためにも、次代を⽬指す若い⼈へしっかりと伝える必要があり、キャリアを積んだ⼈にしかできないことがあるはずだと思っています。
年齢や職業に関係なく、今⼀度「らしさ」について考えてみてはいかがでしょうか。
あなたは何のためにやりますか?