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キャリこれ

【キャリアの当たり前を超えていく】がんとキャリアの両立支援(後編)

インタビュー

個人

2021.6.15

今回は、がんとキャリアの両立支援に取り組まれているキャリアコンサルタント 砂川未夏氏インタビューの後編をお届けします。
※前編は、こちら
<インタビューの内容>
1)砂川さんご自身のがん罹患者としての体験
2)キャリアの支援者として
3)企業の取り組みの推進

後編では、3の企業の取り組みの推進についてお伺いしました。
〇ゲスト
砂川 未夏(すなかわ みか)氏

キャリアコンサルタント
キャンサー・キャリア 代表
NPO日本キャリア開発協会 治療と仕事の両立支援推進プロジェクトリーダー
〇インタビュアー
株式会社日本マンパワー フェロー・キャリこれ研究所所長  水野 みち
株式会社日本マンパワー 人材開発第1営業部  鈴木 逸保

企業が行う両立支援について

水野:私も、いくつか質問させてください。
企業で取り組まれている両立支援について、この記事を読まれている方に、もう一歩進んで知ってもらいたいことはありますか?
砂川氏:人事の中でも「労務管理」をしている方と「育成」をしている方で感覚が違うと感じることがあります。両立支援は、復帰プログラムなど労務管理の方がされていることが多いです。そのため、社労士の制度設計、窓口の設置、法的に傷病手当金を出すといったハード面での支援が中心になりがちです。
勿論、生活に切羽詰まってしまわないよう、各所と連携してその方が働けるようにしていくことはすごく大切なところだと思います。一方、内的な部分の支援は置き去りにされていて、そこにピンときていない場合があるように感じています。
水野:内的な部分の支援には、難しさもありますね。どのような支援があれば良いのでしょうか。
砂川氏:体制や制度があっても、患者本人が発信しなければ支援は始められません。患者本人が、病気になった後のキャリアの再構築を自ら進めていくことも重要です。
キャリアカウンセリングという、第三者とだから語れる。利害関係が無い中で語ることで、やはり自分を見つめることができる。このことは私自身も感じていますし、患者さんを見ていても感じます。
また、外的な支援が満たされた状態でも、「なぜだかやる気がでない」、「ここにいてはいけない気がする」というように、自分の存在価値や居場所が揺らいでいる方もいます。こういった方に対してどう支援されているかを企業様に訊くと「(支援の仕方が)わからない」と答えをいただくことも多いです。
近年の働き方改革、そして昨年起こったパンデミックの影響で、時短勤務・リモートワーク・週休3日制というように、働き方・キャリアの選択肢は増えてきています。個人個人に合わせて、生き方・働き方の幅が拡がってきている。だからこそ、病を得て、今後のキャリアや将来設計について色々揺らいでいる方に対し「自分で考えて意思決定してください」とただ突き放してしまうのは、無謀であり、もったいないことのように感じます。

支援をしている企業としていない企業の違い

砂川氏:「人はいないしお金がない。余裕もないから支援は難しい」。はじめから、このように結論付けてしまっている企業様も少なくありません。しかし、支援をされている企業様の中には、中小企業もあれば、大企業もあり、実は企業の規模はそんなに関係がないのではと感じています。
支援をされている企業様には、
「この大事な人材がどうやったらここに居続けてもらえるか」、
「どうしたら一緒に働き続けられるか」

を真剣に考えていらっしゃるところが多いなと感じています。
私の場合も、仕事を続けられた理由は「どうしたらあなたの状態に合わせて業務ができるか、そしてゆくゆくは元の業務にもどれるようになるか、それを一緒に考えよう」という上司の言葉でした。そして、実際、復帰時には1つ小さな役割を持って取り組むことができました。また、治療のため休職中の時は、「休むことも仕事」と言われたことも大きかったです。

人事戦略としての両立支援

砂川氏:今、日本人が生涯でがんになる確率は約5割、つまり2人に1人ががんにかかる時代です。また、人生100年時代を迎え、年を重ねても働くことが当たり前の世の中になりつつあります。
ずっと何一つ病気せずに働き続けられる人が、どれだけいらっしゃるでしょうか。
また病気ではなくても、育児や介護に多くの時間を割かなければならない方もいらっしゃるでしょう。
病気を持った方が働きやすいような仕組みを整え支援していくことは、多様な人たちが働きやすい環境になるための一つの起爆剤にもなるのではないかと思っています。
「この会社は、社員一人ひとりを大切に思っているんだな」と、優秀な人材がひきつけられる人事戦略にもなると思います。
自分たちの大事な人材を確保するための人事戦略に、両立支援が当たり前に組み込まれていったら、本当に嬉しいです。
鈴木:本日は、ご自身の経験、支援者として、企業に対してと様々な視点からのお話をいただきありがとうございました。
100年時代という考えの中、「定年」という概念はこの先無くなるかもしれない。従業員が、がんをはじめとする大きな病にかかることがこれまで以上にでてくると予想される。そうした中、治療のため休職をし復帰する、休職をせずとも治療をしながら働くといったことがこれまで以上にあたり前の世の中になると思われる。
そうした中で両立支援は企業の中でさらに広まっていく必要があると改めて感じた。また広まっていくためには、多くの人が、決して他人事ではなく、自分がなるかもしれない、身近な人がなるかもしれないという意識を持ち、「馴染み」を持つことが鍵なのではないかと感じた。(鈴木)