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第2回目キャリTERAレポート「今、キャリア支援者は『越境』のために何ができるのか?」

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イベント

2021.9.15

企業内でキャリア支援に携わっている方やキャリアコンサルティング資格保有者が対話・情報交換できる場所『新キャリTERA』。
第2回目テーマは「今、キャリア支援者は『越境』のために何ができるのか?  ~最新研究と実践の複合的視点で考える~」と題して2021年8月3日に実施しました。
■第1回目キャリTERAレポートは、 こちら
今回のゲストは、法政大学大学院政策創造研究科教授の石山恒貴さんと、株式会社the creative journey代表の酒井章さん。モデレーターは、キャリアのこれから研究所所長 兼 日本マンパワーフェロー 水野みちです。
また、グラフィックレコーディングは、久々江 美都(くぐえ みやこ)さんにご担当いただきました。
■ゲストのプロフィールは、こちら
【記事 目次】
1.「越境学習とは」
2.「越境学習の効果:ルーブリック」
3.「私の越境ストーリー」
4.「質疑応答:キャリアコンサルタントと越境」
5.「質疑応答:越境学習における伴走者の役割」

1.「越境学習とは」

まず水野から今回のテーマを取りあげた経緯と進め方についてお話しした後、石山先生のお話がスタートしました。
石山先生は長年、越境学習の研究をされてきましたが、以前は世の中であまり認知されていなかったそうです。
越境学習という言葉は10年くらい前から提唱されていましたが、当初は会社にいるだけでなく、会社の外でも学んだ方がいい、という認識が中心の考え方だったそうです。
越境学習は、自分の心の中のホームだと思う場所とアウェイだと思う場所を行ったり来たりすること
石山先生は越境学習をこのように表現されました。
ホームは、よく知っている顔馴染みの人がいて、安心できるけれど刺激がない場所。
アウェイは、そこに行くと知らない人がいて社内用語も通じないし、居心地が悪いけど刺激がある場所。
ホームとアウェイの境目となる境界があって、その境界を行ったり来たりすることで
例えば、会社(ホーム)では当たり前だと思っていたことが、会社の外(アウェイ)では通じないことに気づく等、自己を再認識する機会になります。
常に同じ時に二つ以上の場に属していて、行ったり来たりすること
石山先生は越境学習をこのようにも表現されました。
「仕事・副業などの有給ワーク」の他に「家事・育児・介護などの家庭ワーク」、「地域や社会に貢献するボランティア・NPOなどのギフト・地域ワーク」、「社会人大学院などの学びの場などの学習・趣味ワーク(キャリアコンサルタントの勉強会も)」と人生には4つの役割があると言われています。
この二つ以上の役割を行ったり来たりする状態が越境学習であり、キャリアで考えると、パラレルキャリアとも言えます。

2.「越境学習の効果:ルーブリック」

人材育成として、大企業から海外のNGOやベンチャー企業へレンタル移籍するような越境学習の取り組みや、プロボノと呼ばれる自身のスキルを活かして行うボランティアが増えてきているそうです。
・大企業の若手社員がベンチャー企業で働き、経営者と一緒に仕事をすることで一段上の経営視点を身につける
・新興国のNGOで働き、仕事の進め方やスピード感を体感、社会を意識することで視野が広がる
石山先生は、越境学習の効果として、越境者が、所属組織だけで通じていた暗黙の前提に気づけること、また自分が大事にしたい価値観を再認識できることも挙げていました。
また、石山先生の研究室では、2020年、経済産業省が進める越境学習の効果指標研究に参画されています。効果的な越境体験に向けてのルーブリック)も、2021年3月に公開されています。
※ルーブリックは、学習の到達度を評価するための評価基準表のこと
ご興味のある人は、ぜひこちら(https://co-hr-innovation.jp/rubric/)から詳細をご覧ください。
経済産業省主導の越境研究の中で、「他の職場で働き始める(越境する)と、これまでの仕事の仕方との違いに衝撃を受け、もがき苦しみながら適応していくが、実は元の職場に戻った後(越境後)にも、疎外感があったり、企業がなかなか変わらないことに衝撃を受けたりする」という『越境のプロセス』も明らかになったそうです。

3.「私の越境ストーリー」

続いて、キャリアコンサルタントで、これまでに数多くの越境を経験され、ご自身でも越境の仕組みを創ってこられた酒井章さんに講演いただきました。
酒井さんのお話は、衝撃を受けた幼少期の思い出から始まりました。
「私の一番最初の越境は小学生の時に連れて行ってもらった1970年の大阪万博です。
本当に生まれて初めて『世界」というものに触れた衝撃がありました。これが私のキャリアの原点になっていると思います。
いつか、こんなことやりたい。
人をワクワクさせることだとか、海外の仕事に関わっていったのは、この体験があったからだと思います。」
このようにお話されながら、酒井さんはご自身の越境経験を紹介してくれました。
〇45歳でシンガポールに赴任し、企業内大学(Dentsu Network Asia-college)を設立
アジア全体でメディア業界の転職率が30%を超えるため、赴任先も3年に1回全社員が入れ替わるような環境。その中で、現地スタッフの定着率を高めたいとの気持ちから、ナショナルスタッフのための企業内大学(Dentsu Network Asia-college)を設立しました。これが初めて自分で越境という仕組みを作った経験です。
〇NPO 二枚目の名刺 (https://nimaime.or.jp/) に参加
「新しい働き方の実態を知りたい」と参加し、社会を変えようとする若い人たちの情熱に触れました。
〇汐留地区にある企業の方々と「ライフワークス コンソーシアム」を立ち上げ
業種業態の異なる企業の方とともに「働き方を作り変えよう」という思いでコンソーシアムを立ち上げ、社内学童保育、超短時間労働、がん支援、キャリアカウンセラーコンソーシアムの取り組みをつくりました。
〇アルムナイ
OBOGのネットワークの取り組みをつくりました。終身雇用から終身信頼関係という考え方で、定年前に企業を辞めた方たちとのネットワークです。
越境経験を振り返った時、そこに『自分の中の「境(さかい、枠、限界)」を超える』というテーマが見えてきたそうです。
自身で意図的に越境してみる段階から、自身で越境の仕組みをつくってみる段階へと、越境経験が展開してきたことを語っていただきました。

4.「質疑応答:キャリアコンサルタントと越境」

石山先生、酒井さんのお話のあと、参加者同士の対話を行いました。お二人の話を聞いて、感じたことや活かせそうなこと、疑問などをシェアし合いました。
その後、石山先生・酒井さんと質疑応答を重ね学びを深める時間となりました。対話の一例をご紹介します。
【 質問 】
酒井さんのバイタリティーはどこからくるのか、是非お聞きしたいです。
酒井さん:
「常に好奇心を持って、いつも新しいものを求めているところはあります。
やっぱり自分が本当にワクワクしたこと、万博での原体験が残っていて、
気がつかないうちに、導かれていったのかなっていうふうには感じています。」
石山先生からも酒井さんの越境経験について、コメントがありました。
石山先生:
「酒井さんが青山学院大学ワークショップデザインのコースでコンサルタントの人と同じチームになった時、効率よりもアイディアをじっくり考えることが自分の軸だと感じたという話がとても印象に残りました。
酒井さんが越境してご自身の軸(ライフテーマ)を見つけられたのがすごく良い話だなと思って聞いていました。」
~キャリアコンサルタントの越境経験とは~
酒井さんの回答の後、石山先生ご自身の経験についても、お話がありました。
石山先生は企業に勤めていた頃に、CDA(キャリアデベロップメントアドバイザー、現在のキャリアコンサルタント)資格を取得されたそうです。
「CDAの方は、資格の勉強だけではなく、勉強会を開いたり、ボランティアで学生のキャリアカウンセリングなどをされたりする方が多くいらっしゃいました。私はそれが普段の自分と違う感覚がすごくありました。このキャリアコンサルタントの学びの場と会社を行き来したことが私の原体験の一つになっています。
キャリアコンサルタントは、このような越境経験を実感として持っている方が多いので、越境者のキャリア支援もしやすいのではないかと思います。」
水野も同意します。
自分が当たり前としていたことと違うことを経験するのが越境の醍醐味ですね。越境によって、自分の中の当たり前が揺さぶられたり、葛藤したり、時には何か否定されたような気持ちにもなります。モヤモヤした気持ちにもなるけれど、そこから新しい気づきが生まれ、自分の枠組みが広がっていきます。
また、越境者だけでなく越境者の所属する組織にも、新しい枠組みや価値観をもたらせるのが越境の効果だと思います。

5.「質疑応答:越境学習における伴走者の役割」

企業が実施する越境学習の取組みについても、質問がありました。
【 質問 】
自社では、越境する人に対し、定期的に研修エージェントの「伴走者」がいて、メンター役をしているとの話を聞きました。
越境での学習を促すのに伴走者は必要ですが、介入しすぎるとアウェー感が薄くなり、刺激がなくなります。適度な介入がいいのではと思われます。
もし適度な介入があるとしたら、どんなものが考えられますか?
石山先生:
「企業における越境の取組みでは、それを支援する伴走者の役割があります。この役割についてはルーブリックの研究においても議論がありました。
伴走者が手取り足取り支援しすぎると、学習につながらないのですが、越境者の話を誰かが関心を持って聴き、対話の中で本人が経験を意味づけることは重要です。これはキャリアコンサルタント的な役割ではないかと思います。」
~越境を経験した社員への必要な支援とは~
石山先生はルーブリックの調査でのインタビューが印象的だったそうです。
「越境を経験した方々は、元の職場に戻った後、時間が経つと、誰からも関心を持ってもらえなくなることに一番ショックを受けていました。
越境者への支援として、継続的に話を聴き、一緒になって越境経験を職場に還元することを考えるような取組みが重要ではないかと思います。」
酒井さんも、海外赴任から帰ってきたとき、同じように感じたそうです。
「経済成長めざましいアジアから、停滞する日本に帰ってきたとき、私は日本社会がスローモーションのように見えました。とにかくスピード感を持っていかなくちゃいけないとの気持ちから行動したところ、ハレーションもありました。その経験から、越境者本人と送り出し元の両方に伴奏していく支援が必要だと感じました。」

結びにかえて

今回もたくさんの方がオンラインで参加されました。それぞれのフィールドでキャリアコンサルタントとして活躍されている方同士が熱心に対話し合い、学びを深める場になりました。
ご興味のある方は、ぜひ次回ご参加ください!
~ゲストのご紹介~
石山 恒貴(いしやま のぶたか)氏のプロフィール
法政大学大学院政策創造研究科 教授。
博士(政策学)。NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。越境的学習、キャリア形成、人的資源管理等が研究領域。人材育成学会常任理事、日本労務学会理事、人事実践科学会議共同代表、一般社団法人シニアセカンドキャリア推進協会顧問、NPO法人二枚目の名刺共同研究パートナー、フリーランス協会アドバイザリーボード等。
主な著書:『日本企業のタレントマネジメント』中央経済社、『地域とゆるくつながろう!』静岡新聞社(編著)、『越境的学習のメカニズム』福村出版、『パラレルキャリアを始めよう!』ダイヤモンド社、『会社人生を後悔しない40代からの仕事術』(共著)ダイヤモンド社、Mechanisms of Cross-Boundary Learning Communities of Practice and Job Crafting,(共著)Cambridge Scholars  Publishing.主な論文:Role of knowledge brokers in communities of practice in Japan,Journal of Knowledge Management, Vol.20,No.6,2016.受賞:経営行動科学学会優秀研究賞(JAASアワード)(2020)、人材育成学会論文賞(2018)、人材育成学会奨励賞(2016)、日本の人事部HRアワード書籍部門入賞(2018)(2019)(2020)
酒井 章(さかい あきら)氏のプロフィール
株式会社the creative journey 代表 キャリアのこれから研究所プロデューサー
1984年広告代理店に入社。クリエイティブ部門、営業部門を経て、2004年からのアジア統括会社時にアジアネットワークの企業内大学を設立。帰任後は人事部門でキャリア施策開発に携わる一方、NPO法人二枚目の名刺メンバーとして活動。東京汐留エリアの企業・行政越境コンソーシアム(LifeWorkS project Shiodome)を立ち上げる。2019年4月に独立し、㈱the creative journey設立。
国家資格キャリアコンサルタント、青山学院大学社会情報学部プロジェクト教授、早稲田大学エクステンションセンター WASEDA NEOプログラム・プロデューサー、筑波大学大学院・働く人の心理支援開発研究センター 客員研究員。アルムナイ研究所所長、武蔵野美術大学大学院修士課程(クリエイティブリーダーシップコース)修了