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これからのキャリアに必要な”創造性”とは?vol.5 ~2回の降格を超えた先で見出した複業家としての生き方・中村龍太さん~

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連載記事

2022.3.24

これからのキャリアに必要な「創造性」とは何かを問う連載5回目。
前回4回目に引き続き、年齢・業界を超える「枠にとらわれないキャリア」について考えていきます。
■前回4回目 「30代で学び直し、教育の世界に飛び込んだ星野明宏さんのキャリアストーリー」
今回は、50代でIT業界・農業という複業をはじめた中村龍太さんのキャリアストーリーをご紹介します。
◆中村 龍太(なかむら りゅうた)さん
サイボウズ株式会社・NKアグリ株式会社・コラボワークス代表の複業家。
日本電気株式会社、日本マイクロソフト株式会社を経て、2013年サイボウズ株式会社と株式会社ダンクソフトに同時転職。2015年、NKアグリ株式会社に入社しIoTでリコピン人参を栽培。自営農家に加え、コラボワークス代表として事業を展開中。
2018年よりサイボウズ株式会社社長室長として、自らが経験してきた複業によるイノベーションを、社会実験によって生み出す組織づくりに邁進。
著書:
『多様な自分を生きる働き方 COLLABOWORKS: 誰にでもできる複業のカタチ』
『出世しなくても、幸せに働けます。複数の仕事で自分を満たす生き方』

1、キャリアストーリー① ~2回の降格、プレーヤーとして腹をくくる~

中村さん:「前回の星野さんは、ご自身の理想(ありたい自分)に向かい、自らを分岐、変化させていく動きでした。
僕にはそのような感覚は無く、全て連続している感じがします。僕は人生に大きな目標やパーパスはなくて、あるのは手段。できる行動から始めていく生き方をしてきました。」
まずは、やってみる、行動する。そして後から意味づけをしていくのが、中村さんの生き方なのだそうです。
色々な経験をしてきた中で、今振り返ると、降格の経験が中村さんのキャリア観に大きく影響していると言います。
中村さんは、日本マイクロソフト株式会社で働く40代中盤、会社から求められる役割が果たせず、2度の降格を経験しました。当時は苦悩と葛藤で精神的に追い詰められたこともあったとのこと。色々な人に相談し、ご自身を見つめ直されたそうです。
中村さん:「それもあって、40代後半で『あぁ、僕はプレーヤーでいい』と思いました。それから、Office365(現在はMicrosoft365)立上げの話をもらい、ひとりで市場開拓することになったのです。」
「今の自分で勝負する」- そう決意してがむしゃらに働いた結果、4年後には、マイクロソフトワールドワイドの中でアワードを受賞するほどの成果につながったそうです。
中村さん:「役職にしがみついていたら、降格がなかったら、こんな結果は出なかった。アワードを受賞し、1つやり切った感覚がありました。しかし、嬉しい反面、このあとどうするか?先々を考えモヤモヤしている自分がいて少し驚きました。」

2、キャリアストーリー2 ~意図せず始まった副業~

アワード受賞時、中村さんは49歳。今後の自分の居場所はどこだろう?と新たな悩みが生まれました。
―今の組織で働き続けるか?しかし、今の激務をこのまま続けられるのか?
―今までの実績を元に、他の企業へ転職するのか?
モヤモヤとした思いでいた時期、中村さんは自分が関心を持った様々な人に会いにいき、最終的には転職を決断。転職先として「100人いたら100通りの働き方」の働き方改革を実現しているソフトウェア開発会社サイボウズを選びます。
中村さん:「社長の青野と面接した時、前職の給与をスライドするとサイボウズの給与体系を越えてしまうことがわかり、そこがネックではとの話が出ました。
でも、僕はサイボウズに関心があったし、とはいえ家庭のために収入は下げたくなかったので『何か選択肢はないですか』と聞いたのです。すると青野から『うちの会社は副業できるから、他で稼ぎながら働くというのはどうですか?』と提案がありました。これが、僕が副業をはじめるきっかけとなりました」
マイクロソフト時代にお世話になっていた株式会社ダンクソフトが、この新しい働き方に共感、週4はサイボウズ、週1はダンクソフトで働くという働き方(副業)がスタート。
中村さん:「僕の場合、子どもの教育費を稼がなければいけない状況(MUST)があり、結果的に副業を選びました。気負ってスタートしたわけではなく、僕が努力したわけでもありません。副業を選ばせてくれた会社がそれぞれあり、本当に皆さんのおかげなのです。
-それにしても、この2社は、なぜ中村さんに「副業」と言う働き方を選んでよいと言ってくれたのでしょうか?とても気になり、その理由を中村さんに聞いてみました。
中村さん:「思い当たることとして、素のままでいることで、対面する人の信頼を得られたのかもしれません。マイクロソフトで『プレーヤーでいい』と思った時以降、自分をよく見せようという仮面や鎧をつけなくなりました。『龍太さん、そのままでいいからうちに来てね』という感覚が2社ともあったように思います。」

3、キャリアストーリー③ ~もう1つの複線・農業~

中村さんは現在、サイボウズの社長室室長・自営農業の作業者・コラボワークス代表という3つの顔を持っています。
2番目の顔、農家についても伺いました。
そもそものきっかけは、奥様とのご結婚。義理の両親が農業を営んでおり、30代中盤で義実家に同居、農業を手伝うようになりました。当時働いていたマイクロソフトでは、「百姓の龍太さん」という二つ名で呼ばれていたそう。
また、『農業をやってみたい』という同僚たちの声にこたえ、中村さん宅での稲刈りや田植えに来てもらったところ、次第に、社員100名規模のイベントになっていったそうです。
中村さん:「農業をやってみたい人たちの中には、会社でヘトヘトになっていた人や人間関係に疲れていた人もいて。数か月するとイベントには来なくなりましたが、その後、社内でイキイキと働いている様子が見れたんですよね。農業は作物をつくる以外のポテンシャルがあるんだなと気づきました
オンライン取材中に畑に立ち寄り、収穫予定の人参の様子を見せてくれた中村さん

4、キャリアストーリー4 ~農業の経験がITで活きる~

その後、農業の経験が、サイボウズで活きる時がやってきます。
転職して数年後、事務処理の目的で「kintone」を導入してくれたNKアグリ(※)の社長がサイボウズを訪れ、「経験と勘ではない農業をやりたいんです」と中村さんに語ったのです。
※植物工場による野菜の生産・販売 機能性野菜の研究開発・流通を手掛ける会社
「IoTで収穫予想ができるはず!」というNKアグリの社長に対し、中村さんは「本当にデータで収穫予測ができるかな」とやや懐疑的だったので、自分自身が、その農業にチャレンジすることにしました。会社に相談し、副業としてNKアグリの社員を始めます。
実際に取り組んだのは、野菜を栽培している現場にセンサーを設置し「kintone」と連携すること。 室温や水温、野菜の育成状況など、必要なデータを随時「kintone」に記録する仕組みを構築し、野菜生産量のコントロールや販売ロス削減につなげました。
中村さんは、NKアグリでの経験をこう語ります。
『IT×農業』で話せる人はそんなにいないので、色々な人から知識をこわれたり、自分のところに人が集まってきたりしました。金銭的な報酬は高くありませんが、新しい知識・人脈が得られる楽しさがあったんです。
本業以外で収入を得る『副業』だけでなく、スキルやつながり、貢献感等を目的とする『複業』という形もあることに気づきました。

5、キャリアの複線と伏線

「これからのキャリアに必要な”創造性”とは?vol.4」でも触れましたが、キャリアのこれから研究所は、昨年2021年ニューノーマルの時代にキャリア自律していくために必要な視点として「9つのテーゼ」を提言しました。
■ニューノーマルの時代にキャリア自律していくために必要な「9つのテーゼ」
詳細はこちら
Vol4で紹介した星野さん同様、中村さんのキャリアストーリーにも、テーゼ4のキャリアの複線と伏線があるように感じます。
中村さんの場合、農業という複線を通じ、農業のポテンシャルを感じていたことが、NKアグリでのチャレンジを後押ししました。
また、どうしてダンクソフト社での副業が可能になったかという質問に対し、中村さんは、仮面や鎧をつけず素の自分で顧客と接していたことが良かったのかもと話していました。取引先からの信頼が思いがけず、その後の副業へとつながっていく様子に、キャリアの伏線を感じました。

6、一人ひとりが異なるキャリアを歩む”ロールモデルなき”時代に大事なこと

星野さん・中村さんへのインタビューの中で興味深かったのが、お二人ともロールモデルはいないということでした。
中村さんは「今ここにいる自分を信じて、後で意味付けしたらいい」と言います。
目的を持って働くことを全否定するものではなく、「気持ちいい」「イヤ」といった自分の感覚も大事にすること。そこから「なんで好きなんだろう?」「何でモヤモヤするんだろう?」と内省し意味づけていくことの大切さを強調されていました。
中村さん:「キャリアを創造していくとしたら、なにかしらの『契機』が必要で、その契機から関心を得て、関心があるから価値に変わっていき、行動につながるのだと思います」
Vol.4でインタビューした星野さんも、同じようなことを言っていました。
星野さん:「教員との1on1で、我慢はもう美学ではないと伝えています。自分の感覚に素直になり、違和感があれば、なぜそう思うのかを考えてもらう。面倒・窮屈と思っていることは、どんどん変えたりやめたりしてよいのではないでしょうか。
一昔前まで、キャリア形成というと、将来なりたい自分をイメージし、そこに向けたマイルストーンを設定、一つずつ行動を積み重ねていくイメージでした。
しかし、VUCAの時代と言われ、複雑で先が見通しづらい現代においては、将来なりたい自分像を固めすぎない方が良いのかもしれません。まずは、今ここにいる自分や自分の感覚を大事にする。何か契機があったら、過去・現在・未来の自分をつなぎなおす。そうすることで、その時その時で最善のキャリアルートがあらわれてくるのかもしれません。
連載「これからのキャリアに必要な“創造性”とは?」では、引き続き、新しいキャリアの創造者たちのキャリアストーリーを伺い、読者の皆さまが今後のキャリアを考える際の「契機」の1つになれればと願っています。