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【前編】中原淳教授と語るこれからのキャリア発達モデル~9つのテーゼ~

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2022.4.14

キャリアのこれから研究所は、変化の激しいこれからの時代における「キャリア自律」とはどのようなものかを探求し、個人と組織の成長を促す「これからのキャリア発達モデル~9つのテーゼ~(詳細ページはこちら)」を発表しました。そして、このテーゼの体現者の一人として、中原淳教授にご自身のキャリア観をお聞きしました。

中原淳教授(なかはら じゅん 以下中原教授)

立教大学 経営学部教授。立教大学大学院経営学研究科リーダーシップ開発コース主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所 副所長などを兼任。博士(人間科学)。専門は人材開発論・組織開発論。
北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授等をへて、2017年-2019年まで立教大学経営学部ビジネスリーダーシッププログラム主査、2018年より立教大学教授(現職就任)

Blog:NAKAHARA-LAB.NET(http://www.nakahara-lab.net/)
Twitter ID : nakaharajun

民間企業の人材育成を研究活動の中心に、近年は横浜市教育委員会との共同研究など、公共領域の人材育成についても活動を広げている。2021年より、文部科学省・中央教育審議会・臨時委員。一般社団法人 経営学習研究所 代表理事、特定非営利活動法人 Educe Technologies 副代表理事、認定特定非営利活動法人カタリバ理事、一般社団法人ピアトラスト理事。
専門性:人材開発・組織開発  趣味:人材開発・組織開発
特技:人材開発・組織開発   大好物:人材開発・組織開発
「画狂老人」と号した葛飾北斎をリスペクトし、自らは「学狂老人」として一生涯、「学び」にまつわる研究を行おうとしている。現在は「学狂中年」。

中原教授は現在「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発・組織開発について研究し続けています。研究者という側面だけではなく、学びを行動に活かすフィールドをもつ実践者でもいらっしゃいます。
(この記事は、2021年12月1日に開催したオンラインイベント「キャリアの発達を通して実現できる人と社会の成長とは~新・キャリア発達モデル『9つのテーゼ』のご紹介~」から、中原淳教授の講演の一部や、研究員のコメントをご紹介するものです)
中原教授との対話を前編・中編でお届けし、後編では中原教授の言葉からインスピレーションを得た「これからのキャリア発達モデル」の研究会メンバーと参加者皆さんとの対話をお届けします。
中編:中原淳教授と語るこれからのキャリア発達モデル~9つのテーゼ(4月22日公開予定)
後編:中原淳教授と語るこれからのキャリア発達モデル~9つのテーゼ(5月上旬公開予定)

「これからのキャリア発達モデル~9つのテーゼ~」は、キャリア論や組織論、経営学といった企業組織開発に必要な視点だけではなく、「これからのキャリア」を考え生き抜いていくZ世代の価値観や、日本人を形成してきた東洋的な思想・文化といった考え方や日本社会の雇用慣行、人と組織の関係性を30年以上に渡って支援してきた株式会社日本マンパワーの現場経験などをもとに、研究会発足から議論を続けてきたものを9つの命題にまとめました。
(研究会発足までの詳細は、こちら
1つ目のテーゼは、「自分の中の多様性・複雑性を大切にしよう」です。
水野:「自分を固定的なキャラや役割にとどめず、その都度現れる自分の多様性を歓迎し、驚き、楽しもうという意味も含まれます。これは、自己理解という名のもとに、自分を狭く決めつけてしまうというキャリア教育の誤解を解消するテーゼとも言えます。」
中原教授:「人は、動いてみて、わかるんです。動いてみるから、「自分」というものが見えてきます。「自分が何をするか」という『行為』が先です。その「行為」を通して、自分の『存在』が明らかになっていく。行為が先、存在はあとです。「自分がわかって」から「動く」のではないのだと思います。『自分が何者か』が見つかったとしても、その自分もきっと変わるんですよ」
水野:「本当にそうですね。このテーゼは、『経験の中に自分が表れる』というJCDA提唱の“経験代謝”の考え方とも通じると思っています。キャリア支援の場でも、自分を既存の枠組みで狭く既定し過ぎないように、今、ここでリアルに感じていることを大切に、その時の正直な想いが生々しく表れている側面を大切にしています。1つ目のテーゼの『複雑性』という言葉は、怖いけれど挑戦してみたいとか、苦手だけど楽しいとか、関わりたくないけど気になる、というような複雑で豊かな人の内面を受容することにもつながると思っています。」
中原教授:「私は『これからの社会やキャリアは冒険である!』と思っているのです。「ひとつの村(会社)」に入村(入社)で、まったり過ごして、一生村民でいられるというモデルが、やはりもう厳しいのだと感じます。いろんな村を渡り歩きましょう。素敵な「冒険」のはじまりです。冒険の中で、さまざまな行為をして、その時々の『自分』をかりそめに探していくのでしょう。冒険の前には、武器も防具も必要です。武器と防具こそ「村」でしっかり準備をすればいいのです。業務経験という武器、そして、経験を通して培ったメンタルこそが防具でしょう。
リンダ・グラットン博士は、著書「ライフ・シフト」の中で、1社1役割にとどまることなく、今後はさらに様々な役割が増えることを指摘しました。人生100年時代、自分の中の多様性はさらに広がっていくことが予想されます。
また、自分自身の多様性が増えるということは、異なる他者の意見を聞く耳が開くことにもつながります。自分を決めつけず、閉ざさず、経験をし、多様性を楽しんでみることで、より拓けるキャリアがあると言えるでしょう。
2つ目のテーゼは、「つながりを感じよう」です。周囲とのつながり、自分とのつながりを実感することです。
水野:「中原先生は、つながりについて、どう捉えていますか?」
中原教授:「ぼくは、人とのつながりから自分を立て直したり、自身は何者かを感じたりできることを信じています。自分の研究者としての哲学の根幹に「人とともにある」ということを強く重視しています。
これはきっと、僕が子どもの頃、とても病弱で、幼稚園などにもなかなか通えず、いじめられっ子だったことも影響しているんだと思います。ぼくはずっと、親や家族、少ない友達に、サポートの手を求めなければ生きていくことはむずかしいと思っていました。僕は「弱い」です。だから、子どもの頃から『強い自己』というものを信じていないんですね(笑)
今このような場で話すという立場となってもなお、確固たる自己・強い自己というのは幻想で、変わりやすく、脆く、弱いという自己イメージを持っています。ロシアの哲学者であるミハイル・バフチン(Mikhail Mikhailovich Bakhtin)は、“ 人が生きるということは対話的である”と言っています。この感覚に近いんでしょうね。」
水野:「リモートワークの促進で、一人で仕事することが増えた人も多いと思います。中原先生は、キャリアを築く上でどんな風につながりを意識されていますか?」
中原教授:「つながりは、やはり「意図的」につくるものだと思うのです。
例えば、私には研究室という場がありますが、研究室メンバーだけで議論していくとだんだん閉鎖的な空間がうまれ、徒弟制度のような状況になってしまいそうになるのです。わたしは、そういうものが嫌いです。だから、意図して仕掛けるのです。血が濃くなり、気持ち悪い空間になりそうだったら、私は外部の人を呼び込んだり、外部に出かけていったりします。
つながりは、意図して、切断したり、接続したりするものだと思います。ちなみに、学外の素敵な方々を多数招いておこなう研究室の合宿を「キャンプ」と呼んでいました。」
水野:「私もお誘い頂いたことがありました。様々な業界の方や学生を集めて化学反応を起こすキャンプですね!」
中原教授:「そうなんです。当時”アカデミーケミストリーキャンプ”と呼んでました。経営学者がいて、その隣にダンサーがいて、こっちにはデザイナー、あそこには経営者や写真家というようなあらゆる領域の人を集め時間を共有していました。
すると、新しい考えが浮かんだり、新たなサービスや論文の種が生まれたり、ケミストリーが起こるのです。そんな風に常に自分の状態や自分のまわりにある状況をヘルシーになるよう、意図的につながりをつくる意識をしています
つながりは、化学反応を生み、ヘルシーになる。改めて中原教授のつながりの活かし方を聞かせて頂きました。
みなさんは、意図してつながりを作れていますか?
3つ目のテーゼは「年齢を超えよう」です。
中原教授:「反省も含めて言いますが…(笑) 現在19、20歳くらいの学生に教えているのですが、ついつい自分を卑下して『僕もおじさんだからなぁ』と言ってしまうんですね。おもしろいことに、自分で自分のことをそう思ったりその言葉を使ったりしていると、他者もそのような視線で私を見るのです。それに気がついてから、なるべく自分をラベリングするような言葉を自らかけないようにしています。自分のことを「おじさん」と呼ぶと、おじさんらしくなっていきますよ。」
*中原教授の自己紹介時、ご自身の在り方を示す言葉を紹介してくれました。年齢を超えてどう在りたいか、にもつながるメッセージです
水野:「そういう言葉の影響って、ありますよね!まさに、3つ目のテーゼには、年齢をはじめ、自分自身をラベリングして既定しているものを理解し、必要に応じて超えていこうという意味があります。」
中原教授:「最近の脳科学研究でも触れられているのですが、“可塑性”という概念があります。脳は簡単にコチコチに固まらず、学び続けられるのです。学びや変化を妨げているのは何かと言うと、脳そのものではなくマインドなのだと言われています。
学びを妨げているのはマインド…考えさせられる言葉です。みなさんの中にある、キャリアの発展・成長を妨げている枠組み、マインドは何でしょうか?
4つ目のテーゼは複線と伏線です。
水野:「キャリアの“複線”とは、言葉の通り、単線的なキャリアパスだけではなく、いくつかの役割や仕事を複線として歩む時代を表しています。副業、越境、2、3の専門性を持つ時代、という考え方です。一方、“伏線”とは、スティーブ・ジョブズ氏の提唱した『コネクティング・ドット(Connecting the dots)』のように、一見失敗だとか、脱線したかのように感じられる経験でも、それがいずれ伏線として意味を織りなす時が来ることを表しています。大切なのは、好奇心を持って偶然を楽しみ、その中から得ようとする意識を持てるかどうかです。」
中原教授:「自分の仕事が人生の何に繋がっているかは分からないですから、アクションし続けることで点を見つけていくのでしょう。キャリアの領域だとプランドハップンスタンス理論(Planned happenstance theory ジョン.D.クランボルツ教授が提唱する計画的偶発性理論)があると思いますが、私はこの理論を『ひょん理論』と呼んでいるんです。
『いいキャリア描いているな』とか『仕事人生をなんだか楽しんでいるな』という人には、僕は共通点があると思っていて、そのような方々にお聞きすると多くの人が『なんだかひょんなことからこうなってしまいまして…』と必ず言われるのです。
この『ひょんなこと』っておそらく誰にでも起こっているかもしれないのですが、そのひょんなことを逃さず活かして、つなげているんですよ。
学生には誰かに誘われたら乗ってみたほうがいいよと伝えています。誘われたら、やれ。迷ったら、やれ。これがゼミのテーゼですね。このような生き方は、まさにひょん理論の『ひょん』を伸ばすチャンスを掴むと思っています」
ひょん理論。なんとも軽やかな言葉で複線や伏線を育む方向性を指し示してくれた中原教授でした。ひょんを大切にしましょう!そして、ひょんにもとづいて生まれる発見や意味を大事にする。そんな視点を持ってみると、どんなキャリアが切り拓かれるでしょうか。

いかがでしたでしょうか。
前編では中原教授と「これからのキャリア発達モデル~9つのテーゼ~」の1~4つ目のテーゼをお届けしました。
中編では中原教授と共に5~9つのテーゼの対話を、後編では中原教授と「これからのキャリア発達モデル」研究会メンバーや参加者皆さんとの対話をレポートします。
中編:中原淳教授と語るこれからのキャリア発達モデル~9つのテーゼ(4月22日公開予定)
後編:中原淳教授と語るこれからのキャリア発達モデル~9つのテーゼ(5月上旬公開予定)