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いま、求められる「人材マネジメント全体のエコシステム」の構築(前編)

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2022.6.29


いま急速に関心が高まっているジョブ型雇用。その現象を多角的に検証し、その本質を考えていくことを目的としてスタートした本連載。第5回は、人事制度を設計する立場から見たジョブ型制度の動向をレポートします。
インタビューさせて頂いたのは、そのキャリアで一貫して組織人事領域に携わってこられたPwCコンサルティング合同会社・ディレクターの土橋隼人さん。様々な企業のジョブ型制度の案件に携わる中で感じた可能性や問題意識について率直にお話しくださり、特に「人材マネジメント全体のエコシステム」構築の必要性、「ジョブ型をブームに終わらせない」キャリアコンサルタントの責務について強調されました。
土橋 隼人(Hayato Dobashi)
PwCコンサルティング合同会社 People Transformation Director
会計事務所系コンサルティングファーム2社を経て現職。10年以上にわたり、組織・人事領域のコンサルティングに従事。組織・人材マネジメント戦略策定、人事制度改革(等級・報酬・評価制度の設計および導入支援)、M&A・組織再編に伴う制度統合支援、コーポレートガバナンス体制構築など、幅広い領域を支援。Employee Experienceおよびサステナビリティ経営×人事の日本における責任者。
特定非営利活動法人 日本人材マネジメント協会 理事
一般社団法人 ピープルアナリティクス HRテクノロジー協会 研究員

Q:まず、これまでの土橋さんのご経歴と現在のお仕事についてお話しいただけますでしょうか?

キャリアとしては、大学院の修士課程修了後にコンサルティング業界に入り、組織人事領域を幅広くやってきました。具体的には、M&A絡みのお話、役員報酬制度設計、人事制度設計などです。ここ4・5年は、いわゆるピープルアナリティクスと言われる、人材データをもとに機械学習などを活用しながら人事の意思決定を高度化・効率化していく取り組みやエンプロイー・エクスペリエンス(以下EX)と言われている領域あるいはHRテックの活用といった分野や、直近ではサステナビリティ経営関連プロジェクトの担当もしています。

Q:サステナビリティ経営やEX領域では、どのような内容の業務をされていますか?

サステナビリティ経営の面では、各企業様の統合報告書や中長期的な成長に向けての重要課題に、人材系の話がこれまで以上に入ってきていますので、エンゲージメントの向上やダイバーシティ領域の支援、サステナビリティの取組みを社内で進める時の社内の意識変革のサポートをしています。
またEXは、従業員の体験価値を示しエンゲージメント向上につながる概念として着目しています。多様な従業員を価値観によってカテゴリーやペルソナに分け、それに対応した施策を考えています。具体的には、従業員のジャーニーマップを描いて、どこがペインポイント(悩みや課題)になっているのかを発見して施策を考え、その際、デジタルツール(HRテック)の活用も支援しています。

Q: ジョブ型制度の案件は増えていますでしょうか?

はい。日本の大企業の方の関心が非常に高く、ジョブ型領域の引き合いは非常に増えています。その課題感は、例えば経営のグローバル化に基づくものや、外部人材を競争力のある報酬で獲得したいというニーズに基づくものなど、さまざまですね。
また、当初は経営改革や経営戦略の刷新の方向性に沿って人事戦略を変える、という文脈で「ジョブ型」という話が出てましたが、ここ1年ぐらいは、人事のメインテーマにジョブ型が浮上してきたことで「とりあえずジョブ型について知りたい、検討したい」という会社様も増えてきています。経営の理論がブームになっているみたいな状況ですね。なので、本質的に捉えて検討されている会社もあれば、広がっている誤解に基づいて検討されている会社もあるのかな、というのが正直な印象です。

Q: それは、どのような「誤解」なんでしょうか?

ジョブ型によって成果が測りやすくなる、成果主義が実現する、というのが最たるものです。
最近では聞くことは少なくなりましたが、新型コロナウイルス感染の拡大によってリモートワークが拡大し、仕事ぶりが見えにくくなっているという理由で、そうした問題を解決するためにはジョブ型での成果を測って処遇できるのでは、といった誤解が広がっていた印象があります。対面で仕事しているときに成果を評価できなかった上司が人事制度を変えたから評価できるようになるとは考えにくいです。
加えて、ジョブベースでの等級制度(職務等級制度)にしなければパフォーマンスや成果を報酬に反映するという仕組みが実現できないわけではないので、特効薬的にとらえるのも正確ではないように思います。

Q: いま取り組んでいらっしゃるジョブ型制度の案件から見えてくる特徴や傾向はどのようなものでしょうか?具体的には、2000年代の成果主義ブームとの違いなどいかがでしょうか?

2000年代の状況を全て理解しているわけではありませんが・・・私の理解の範囲における特徴としては、2000年代の成果主義ブームというのは、基本的には人事制度の改定がメインだったと思っています。あるいは、一部の企業では人件費削減・抑制のためという目的を伏せながら成果主義を導入したことによって、社員との信頼関係が崩れてしまったという部分はあったのではないでしょうか。
一方、現在のジョブ型の大きな傾向としては、担う職務に基づいて等級・報酬を決定するという制度改定の話だけではなく、採用・配置配属・育成まで範囲を広げて検討を進めて変革をされている会社様が多くなっていることです。

Q: いわゆる入り口から出口までの人材マネジメント全体の話になっている、ということですね。

その通りです。そこ(人材マネジメント全体の変革)は大きな特徴だと思っています。

Q:人材マネジメント全体の話となると、関わってくる部署も広がってくるように思います。土橋さんが担当されている企業様では、どのような部署が関わっていらっしゃいますか?

基本的にはCHROの方や人事企画・制度企画の方が多いですが、そこに留まらず人材開発のチームの方が加わるケースが増えている印象があります。もちろん、人材のポートフォリオ全体の話を最初にする時や賞与の原資の話をする時には、経営企画の方や各事業の役員の方が参加されます。

Q: ジョブ型導入の背景にある経営の意思は、どのようなものでしょうか?

皆さん、強い想いをお持ちです。経営戦略と紐づいてジョブ型を語られるケースが多いな、と感じています。経営をきちんとグローバル化させていく、DX人材や専門領域の人材をきちんと採用する、あるいは外資系の会社で活躍している人を採用したいといった強い想いを、皆さん持っていらっしゃいます。

Q: ジョブ型制度導入の背景にある事業環境については、いかがでしょうか?

いわゆるVUCAと言われている不確実で大きな変化があります。事業環境の変化が激しい、競合の会社が同じ業界から来るわけではない、思いもしない会社が突然競合相手になる、などですね。
あるいは、大企業も最近オープンイノベーションを推進する一環でスタートアップと協業する事例も増えてきていますが、求められる仕事にふさわしい報酬を払ったり、企業の成長に資するポジションに必要となるスキルを可視化して、そのスキルを補うために投資をしたりする、というニーズにジョブ型はフィットすると思います。

Q: 事業環境が大きく変化する中で経営戦略が変わり、それに対応するスキルや人材開発の在り方も変わっていきますか?

前提として、「ジョブ型雇用」と「ジョブ型の人材マネジメント」というものは若干違うと思っているんです(図参照)。メンバーシップ型雇用は職務や勤務地を限定しない契約ですよね。一方、ジョブ型は職務記述書に基づいて限定されるわけですが・・・日本企業は(図の右欄の)純粋ジョブ型へいきなり移行するわけではなく、新卒時の労働契約も総合職で採っている以上は変わらないですよね。個人的には現在混同されている「ジョブ型雇用」と「ジョブ型の人材マネジメント」というものを、整理をした方がいいかな、と考えています。

Q: わかりやすくご説明頂き、ありがとうございます。ジョブ型人材マネジメントの枠組みの中でも取組みの濃淡や幅が出てきますね。

そうなんですよね。
そのため完全に右(ジョブ型雇用・ジョブ型人材マネジメント)に振り切っていらっしゃる会社もあれば、バランスを取りながらという会社もあるかな、と今は思っています。
人材マネジメント全体の変革なので、制度、等級や報酬だけを変えても改革は完全には進まないので、配置・配属や人材開発の考え方も含めての包括的な取り組みというあり方が強くなっています。

Q: 能力開発のあり方は、どのように変わりつつありますか?

能力開発の前提になるキャリアパスやマネジメントの考え方が大きく変わると思っています。これまでの日本企業は、人事部門が強い人事権を持っていてキャリアも本人の意思というよりも会社任せでしたよね。そのため、とにかく目の前のことを頑張れば会社によってキャリアが開かれるよと言ってきました。
一方、ジョブ型のマネジメントが志向するところは、1人ひとりがキャリアに対する希望をちゃんと持って、会社の要望とすり合わせながらキャリアを構築することだと思っています。人材開発の点では、社員に、自律的にキャリアについて考えてもらい成長してもらうための取り組みを、これまで以上にやらなければならなくなるでしょう。

Q: そこで問われてくるのがマネジメントの力量だと思いますが、今後ジョブ型への移行によってマネジメントの在り方はどのように変わっていくと思われますか?

人材マネジメント全体や経営という意味では、一人ひとりお互い対等という位置づけでコミュニケーションしていくことになると思います。その中で、特にマネージャーの役割が大きくなっていくのは間違いありません。今までのマネージャーの役割は、基本的には組織運営や業務運営、PDCAを踏まえて人事評価をする、ということでした。しかし今後、部下が自律的にキャリア開発するためには、マネージャーから働きかけなければいけないので、キャリアコーチとしての役割も付与されていくのではないか、それが強く求められるようになるのではないか、と考えています。

Q: ただ、求められても今までの経験値がないのでハードルがありますね。

そう思います。キャリアコーチと言うと、部下の志向性や価値観をきちんと理解した上で、キャリアゴールやそこへの到達に向けての必要なアドバイスや支援をきめ細かく行っていくことが求められます。ただ、大多数のマネージャーはこれまでそういった関わりをしてこなかったので、ハードルがかなり高いかもしれません。

Q: 人材マネジメント全体という点では、人と組織の関係性の見直しも生まれていきますでしょうか?

はい。ジョブ型と同時に注目が集まっているのがEVP(Employee Value Proposition=企業が従業員に提供できる価値)EX(Employee Experience=従業員が企業で働く中で得られる体験)です。このベースとなるのが人と組織の関係を「対等なもの」と捉え、お互いが求めることとその多様性を理解した上で、多様性を踏まえた人事施策をやっていきましょうという考え方です。これを人材マネジメントの考え方の基本に置いて、ジョブ型を導入する会社においては、人と組織の関係性の見直しも進んでいくでしょう。
キャリアの主導権が個人側に移る中で、ひたすら会社や上司の命令に従うというわけではなくなるので、それに伴って人事施策も変わっていくでしょうし、今、日本企業の中でアルムナイ・ネットワークに注目が集まっているのも、こうした文脈の中で捉えることができると感じています。

Q: 人と組織の関係性が変わっていく中で、いまおっしゃったアルムナイの価値についてはどうお考えですか?

アルムナイは近視眼的に捉えると、再雇用などに活用できるかのように捉えられてしまうのですが、ジョブ型の文脈で捉えると、その会社の人事ポリシーを示す施策になると思っています。つまり「人と組織は対等」でお互いの成長に対して支援していくという企業文化になると、会社を卒業した後も関係性が続いていくことになると思っています。それによって中にいる人たちのエンゲージメントも上がっていくことになるのではないでしょうか。
ただ、これまで強い人事権や会社主導のキャリアというものがベースになってきた企業には、退職した人に対して「裏切り者」扱いするカルチャーが依然として残っているのは確かですね。そうした意識も大きなハードルかもしれません。

Q: ジョブ型制度の導入に伴って「組織文化」の在り方も問われますね。

ジョブ型制度を必要とする問題意識の根底になるイノベーション創出や新規ビジネス創出のためには、多様な人材を採用してコラボレーションするカルチャーが大事になっていきます。また「自律的にキャリア開発をしてください」とどれだけ会社が言ったところで、社員が納得するためには、それを支援する仕組みや組織文化が欠かせません。自律的に学んだり、お互いの学びを支援し合ったりするようなカルチャー作りというものがポイントになることは間違いありません。

Q: ジョブ型雇用にシフトする中で、人事の在り方はどのように変容していくと思われますか?

ジョブ型の人材マネジメント変革という点では、より事業部起点、つまり事業サイドに権限を移して、その事業において必要な人材をきちんと考えて採用していく、その施策をスピード感を持って進めていく形に徐々に変わっていくと考えています。
会社と対等な立場となって社員に自律的に学んでもらうことになると、年次別研修や新任マネジメント研修のような属性に基づく一律的な施策が主だったこれまでの育成の方法がパーソナライズ化されていくことにもなるのではないでしょうか。
また、人事が強く指示して社員が対応するという感じではなくなるので、コミュニケーションも従業員がベネフィットを感じてワクワクするための仕掛け作りをしていく必要性が高まると思います。

Q: その場合、HRBPや事業部門のマネジメントにもキャリアコーチ的な素養が必要になってくるということですね?

そうですね。マネージャーの役割は大きくなるとお話ししましたが、キャリアコーチの仕事までやらなければならなくなると思います。ただ、その負担を軽減する解決策はあると思います。例えば海外の会社の場合、業務管理とキャリア開発を役割として分けてしまう事例があります。
あるいは、コーチforコーチやコーチforマネージャーのような方法です。人材マネジメントをやっている現場マネージャーのマネジメント能力を上げていくためのチームサポートが人事の価値になるという考え方に基づいて、担当する部門のマネージャーに対する1on1をやってコンサルティングするような取り組みが、人事やHRBPには徐々に求められるようになっています。
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