MENU

キャリこれ

いま、求められる「人材マネジメント全体のエコシステム」の構築(後編)

PICK UP

連載記事

2022.6.29


■前編は、こちら

Q:ジョブ型雇用にシフトする中で、働き手のキャリアにはどのような影響が出てくると思われますか?

会社側からいきなり「自律的なキャリアを」と言われても、現場は準備もできていないですし、そんなことを今までやってこなかったので難しいのではないでしょうか。
ジョブ型制度では、会社の中のポジションやジョブが可視化されます。人事部長になるためには、こういうスキル・経験を積む必要があるといった前提条件があり、そのポジションについてもらう任用基準やプロセスが透明化されていくわけです。それによって自分が就きたいポジションやジョブと自分のスキルとのギャップが把握できるようになります。その場合、会社がそのギャップを埋めるための手段を用意したり薦めたりすることや、隣りで伴走するといった取り組みがやはり最も大事なのではないか、と思っています。

Q: その場合、「透明化」がキーポイントになってきますね。

その通りです。ジョブ型になったけれども、任用や解任の仕組み、何を頑張れば求めるポジションに就けるのか、チャンスをつかめるのか、といったことがブラックボックスのままだと、社員の立場にしてみれば「自律的なキャリア開発をしてよ」と言われても、どのような行動を取ればいいかわかりません。自律的なキャリア開発と透明性の高い仕組みは両輪の関係になると考えています。

Q: HRテックやピープルアナリティクスは有効となりますね。

例えば、海外では、過去の異動履歴などをインプットし「あなたの経歴や志向性だと、将来CMOになるためにこの部署のマネージャーを経験するのが最適なルートですよ」といったキャリアトラックを可視化するツールが提供されています。
あるいは、自分が担当したいジョブを選択すると、自分の今のスキル・経験とのギャップが示され、それを埋めるための方法をレコメンドをする仕組みなどの構築を制度設計とともに支援することもあります。

Q: 世代別のキャリアには、どのような影響が生じると思われますか?

世代によって一律の影響は出ない、と思っています。例えば、若手の中でも、ワークライフバランスを強く重視する人もいれば、キャリアを強く重視する人もいて十人十色ですよね。あえて申し上げるとすれば、若手に対してはゴールをきちんと示した上で、そのために必要なギャップを伝え、伴走者として次のチャレンジに向けての支援をするマネージャーやキャリアカウンセラーの存在がポイントになっていくでしょう。
ミドル層以上は、これまでに構築した価値観が強いと思いますが、やはり意識改革は大事だと思います。ただ、そのやり方は慎重に進めなければいけないでしょう。
経営環境が変わる中で「学び直し」がキーワードになっていますが、今後の自分のキャリアにとって求められることは何なのか、何を変えないといけないのかを、マインドチェンジを含めて学び直していくことが大事になっていくと思います。

Q:大きなテーマにもなっている女性活躍推進あるいは女性のキャリアという点では、いかがでしょうか?

ジョブ型の人材マネジメントを導入される企業は、「性別や属性に関わらず活躍できる環境作りをしていく」という方針を立てています。そのため、女性に限らず、担当する仕事に応じた報酬を受け取ることができます。また、何を達成すればそのポジションに任用されるかがジョブ型では明示されています。
今まではブラックボックス(暗黙知)だった、言葉にして明示されないその企業固有のカルチャーを学ばなくてもよくなるのは、全ての社員にとってプラスに働いていくのかな、と感じています。

Q:先ほども少し触れて頂きましたが、ジョブ型の人事制度を運用する中で、キャリアコンサルタントの役割として、どのようなものが求められていくと思われますか?

「自律的なキャリア開発」はいま、多くの企業で錦の御旗のように語られていますが・・・掛け声だけになってしまいがちにもなっている、と感じています。
自律的なキャリア開発をマネージャーがキャリアコーチとして支援していくためには、キャリアコンサルティングのスキルや知見を持った人たちがそこに入り、カウンセリングのスキルを提供したり実際にコンサルティングを行ったりすることで、ジョブ型の人材マネジメントをブームに終わらせない大きな役割を担っていく可能性があると考えています。

Q: キャリアコンサルタントという存在が「現在のジョブ型人材マネジメントをブームで終わらせないために重要」というすごく力強いお言葉を頂きましたが、キャリアコンサルタントの役割・提供価値あるいは期待されている職務など、もう少し詳しくお聞きできますか?

ジョブ型への移行とともに「自律的なキャリア開発が求められる」と、ただ言っただけでは従業員も動けませんよね。
また、本人だけでなくマネージャーにとっても、キャリアのゴールをどのように設定すべきか、ゴールとの間のギャップはどのように認識すべきか、それを埋める道筋は何か・・・という具合にわからないことだらけなのではないでしょうか。
だからこそ、キャリアコンサルタントがキャリアのプロとして適切な情報を提供するところに価値が出てくると思います。具体的には、人事制度設計の議論に関与いただいて、制度内容やコミュニケーション内容・方法について、キャリアの目線からもコメントいただくのが良いのではないかと思っています。人事制度の見直しは、とかく報酬面に注目が集まりがちですが、人材マネジメントの改革と捉えたときには報酬だけでなくキャリア構築等も重要な要素になるためです。
また、従業員に、自社の取り組みが「自分にとってメリットがあることだ」と感じてもらうことも必要です。企業における教育・研修は、ともすればワクワクしない部分も多いですよね、従業員が進んで活用したくなる仕掛けづくりが重要ではないでしょうか。改革の目的や従業員へのメリットを正確に伝えるために、キャリアコンサルタントの役割は大きいと思います。

Q: 今の話をお聞きし、これまでは「やらなければいけないもの、会社が与えるもの」だった仕事が、キャリアコンサルタントの介在でやりたい仕事として意味づけされたり、自分でキャリアを作っていけるような職場に変わっていったり・・・。ひいてはEmployee Experienceやエンゲージメントも高まっていく。そのような役割を、キャリアコンサルタントが担っていく可能性もあるのかな、と感じました。

そのとおりですね。日本企業のマネージャーの方々は、それ(やりたい仕事に意味づけをしたり、社員が自らキャリアをつくって行くことの支援)が苦手だと思っています。会社の命令だから従うべきだというカルチャーや、必死に頑張ってこそ報われるといったコミュニケーションが多かったのではないかと思います。
一方、「自律的なキャリア開発」を志向するからには、本人の希望通りの仕事しか与えてはいけないとなるのも正解ではないと思います。「この仕事は一見するとあなたの希望ではないかもしれないけれど、こういう位置づけがあるんだよ」とか「こう頑張ったらこれに繋がるんだよ」というコミュニケーションをマネージャーができるかどうかが大事だと考えています。

Q:ジョブ型になっていくのはある程度仕方がないと受け止めつつ、終身雇用が前提だった世代にとっては不安、危機感あるいは「約束が違うじゃないか」といったネガティブな気持ちも発生しがちだと思います。それを防ぐためにも、今後のゴールを示し、そのゴールに向けて行うべきリスキリング(スキルの磨き直し)を明確にすると同時に、任用基準を明らかにした上で、マネージャーやキャリアカウンセラーが伴走することが大変重要だと改めて感じました。

私も、全てのケースにおいて「ジョブ型への移行が適切です」と推しているわけではありません。その会社の戦略に応じて適切な制度のあり方があるので「今回、ジョブ型じゃなくてもいいんじゃないですか」といったご提案をすることもあります。私たちが人事制度の改定をさせていただく時の役割は「心理的契約の結び直しのサポート」だと思っているんです。
この「心理的契約」は、神戸大学の大学教授が研究されているテーマです。人と組織の関係性も、ジョブ型になるとこれまでの契約とは全く違ってくるので明確な説明が必要ですし、信頼関係もこれまで以上に大事になってきます。個人に責任を押し付けて「キャリア開発は自分でやってね、会社としてはもう何も言えないからね」というのは正しくないと思います。
既存のメンバーシップ型に慣れている人はマインドを変えなければなりませんし、その過程で不安も発生することでしょう。それぞれの人が抱えることになる不安に寄り添ってメッセージを変えていくこと、つまり「相手の状態に応じたメッセージの発信」は、今後かなり大事になっていくと思います。
働く側としても、提示されたジョブにつくための条件は何なのか、そのプロセスは誰が決めるのか、といった部分がクリアにならないと頑張れないですよね。その意味で「対等な信頼関係」を構築するために、今ご説明したような取り組みは当然やるべきことだと考えています。

Q: キャリアの取り組みは、効果が見えにくいために経営から理解されない側面もありますが・・・・

自律的にキャリア開発ができたり、キャリアの見通しが立ったり、あるいはキャリアの広がりがあったりということは、人材獲得やエンゲージメント向上に大変役に立ちます。例えば、学生の皆さんの話を聞いていると、就職先を選ぶ際のポイントのひとつに「ファーストキャリアとして魅力的か」を挙げていることがあります。アルムナイの取り組みなど、社内外でのキャリアの広がりを示す企業はそのような人材を獲得しやすくなると思っています。

Q: いま、ホットな話題となっている「人的資本経営」のトピックも、お仕事の中で増えて来ていますか?

はい、大変多くなっています。「人的資本開示」というお題で企業から問い合わせをいただくこともありますし、「サステナビリティ経営」という文脈でお話しに来られる企業もあります。
経営に対する人事部門の価値、人事の価値を上げていくという意味で、この人的資本経営の取り組みはとても重要だと思っています。その一方で、日本企業にありがちな「チェックリストを埋めて開示すればいい」というような取り組み方は望ましくありません。いわゆる人的資本経営をするためには「これをやらないといけない」と捉えるよりも、「あるべき経営戦略に向けて現状はどうあるべきなのか」というストーリーを立てた上で、何をやるべきなのか、どういった情報開示をするのが良いのか、という視点で考えることが大事だと思います。

Q: 最後に、今後の日本における「人材マネジメント全体のエコシステム」のあり方は、どのようにお考えになりますか?

その企業の事業戦略・経営戦略から求める人材が決められて、その獲得や育成あるいは引き留めのためにどういうことをやっていくのか、ということを前提として考えることが必要だと思っています。
その戦略に基づいて、ジョブ型の人材マネジメントを志向するということであれば、人事制度だけではなくて人材マネジメント全体の変革に着手していく、ということが重要になります。人材マネジメントの「エコシステム」を変えていく、ということでしょうか。
そうではないと目指す姿が実現しませんし、ただ報酬が変わるだけになってしまいます。制度だけだと従業員に伝わりにくく協力もしてもらえません。人材マネジメント全体を変えていくとともに、社員にとってのベネフィットを伝えることで信頼関係を高めることが大事になっていくと思います。