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キャリこれ

【後編】中原淳教授と語るこれからのキャリア発達モデル~9つのテーゼ~

イベント

2022.8.26

2021年12月1日、「キャリアの発達を通して実現できる人と社会の成長とは ~新・キャリア発達モデル『9つのテーゼ』のご紹介~」と題し、オンラインイベントを開催しました。
イベントでは9つのテーゼの実践者であり体現者でもある中原淳教授をお招きし、ご自身のキャリアストーリーとこの9つのテーゼとの関わりをお話いただきました。
■ イベントレポート 前編はこちら 中編はこちら
公開が少し遅くなってしまいましたが、イベントレポート後編では、中原教授のご講演後の「これからのキャリア発達モデル研究会」メンバーのコメント、イベント参加者との対話の様子をお届けします。

中原教授との対話から生まれた研究会メンバーの言葉 ~伊達洋駆さん~

伊達 洋駆(だて ようく)氏
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役。神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。
2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。
伊達さん:「私と中原先生とのつながりは、中原先生が、東京大学で主宰されていたラーニング・バー(多様なバックグラウンドの人が参加できる大人の学びを促進する場)です。あの時、私はまだ26歳ぐらいで、今の自分とはだいぶ違っていたことを思い出しました。
9つのテーゼには多様な自己という言葉がありますが、私自身のことをふりかえると…常に一貫した自分でいなければならないと思っており、過去と現在で言っていることが一致しているか、話していることに一貫性があるか、という半ば呪いのような信念がありました。しかし、さまざまな失敗や多くのフィードバックをもらう中で、『別に強く一貫されている必要はないんじゃないか』と思え、徐々に今の自分を築いていきました」
中原教授:「何人もの伊達さんがいたっていいんです。過去の伊達さん、未来の伊達さん、わたしの伊達さん。仕事現場の伊達さん、家庭での伊達さん。
いろんな自分がいてもいいけど、『そのことを全部含めて、こういうところが、わたしなんだよね』と思えるかどうかなんですよ。自分をひとつに束ねなくていいのです。『これがわたしなんだよね』と思えさえすれば。」

中原教授との対話から生まれた研究会メンバーの言葉 ~高橋浩さん~

高橋 浩(たかはし ひろし)氏
ユースキャリア研究所代表。日本キャリア開発協会理事、法政大学および目白大学講師。博士(心理学)。国家資格キャリアコンサルタント。公認心理師。
1987年に弘前大学教育学部を卒業後、電子メーカーに入社し半導体設計、経営企画、キャリア相談に従事。2001年、CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)を取得し、2012年にキャリアカウンセラーとして独立。2016年度~2017年度、厚生労働省委託事業セルフ・キャリアドック導入支援事業推進委員会委員、2018年度~2021年度、厚生労働省委託事業におけるセルフ・キャリアドック導入支援アドバイザーを務める。
高橋さん:「中原先生の話をお聞きし、私自身のキャリアはずっとキャリアで実験を繰り返してきたのだということを思い出しました。キャリアを形成する中で今働いていることに『違和感』を持ち、『どうにかしなきゃいけない』という想いが沸き、そこから動いて….ということが多かったです。
中原先生がおっしゃっていた『まずは行動してから考える』というところも共感します。心理学を学び始めたとき、半導体のエンジニアをしているとき、カウンセリングの世界に足を踏み入れたとき、こんな風にさまざまな場所に身を投じていく中で、その都度『自分はどう感じるのだろう、どう思うのだろう』ということを問いかけて、動いてきました。」
高橋さん:「テーゼの7つめ『ビジョンとリアリティの両感覚を磨こう』での中原先生のお話の中で、中原先生のビジョンには『自分がどうなりたい』というよりも『社会・人』が中心に出てきていたのが印象的でした。
これまで学んできた欧米のキャリア理論の多くは、固定化された自分や単一化されたキャリアに結び付けようとするものが多かったかもしれません。この9つのテーゼは一種のアンチテーゼだと思っています。確固とした自己を作り上げていくのではなく、社会や周囲の流れの中で求められる自分とありたい自分を発見し、相互作用によって創られていく、という自己観がこの9つのテーゼにはあります。中原先生のビジョンの話を聞いて、その想いが強まりました。」
高橋さんは、中原教授のお話から、過去を振り返るとともに、9つのテーゼについて新しい気づきも見出されていました。

中原教授との対話から生まれた研究会メンバーの言葉 ~齊藤光弘さん~

齊藤光弘 (さいとうみつひろ)氏
合同会社あまね舎代表。組織開発カタリスト。
組織開発や人材開発、コーチングといった手法を有機的に組み合わせながら、現場支援と研究を融合させ、メンバーが持つ想いと強みを引き出すためのサポートに取り組む。M&Aのプロセスをサポートするコンサルティングファームのコンサルタント/事業承継ファンドのマネージャーを経て、東京大学大学院にて中原淳氏に師事し、組織開発・人材開発の理論と現場への応用手法を学ぶ。2020年3月まで國學院大學経済学部特任助教など、大学でのリーダーシップ教育/アクティブラーニング型教育の企画・実施にも関わる。2022年4月より立教大学経営学研究科にて組織開発に関する講座を持つ。共著に『M&A後の組織・職場づくり入門』『人材開発研究大全』。
齊藤さん:「中原先生の研究室では2017年に『ひょんなことから』お世話になっているのですが、先生がゼミの運営で言っていることと、この9つのテーゼとが強くつながっているという印象があります。」
齊藤さん:「中原先生が研究室で『おれたちは、海軍じゃない。守るべきものはない。エスタブリッシュ(権威)にはなれないし、自ら進んでならない。自分の立ち位置を間違うな。おれたちは、海賊になるんだ。アカデミック(知的)なゲリラなんだよ』という言葉を投げかけてくださったことを思い出しました。
迎合・安住するのではなく、自分たちが環境の変化に合わせていきながら、臨機応変に行動をし、ゲリラになるくらい知的な発信をしていく。この言葉は自分の生き方にも大きな影響を与えています。
中原先生が、5つめのテーゼで『フィードバックを受けられなくなる年齢・役割になってきた』とおっしゃっていたので、中原先生へのフィードバックの機会を作ろうと皆に呼びかけたいと思います(笑)」
中原教授と親交が深い齊藤さんからは、日常の中原先生の様子や学生との親しい距離感も伝わってきました。

参加者が受けたインスピレーション

この後、300名超の参加者は、グループごとのブレイクアウトルームに分かれ、それぞれが感じたこと、疑問、考えの深まりについて対話しました。全体の場に戻ってからは、質疑応答、さらなる対話の時間となりました。
グラフィックレコーディングとともにいくつかの質問をご紹介します。
【中原教授と参加者との対話の様子をまとめたグラフィックレコーディング①】
参加者からの質問:「私たちグループでは7つめのテーゼである”ビジョンとリアリティの両感覚を磨こう”について盛り上がりました。ビジョンを持つことが大切なのは分かるのですが、ビジョンに違和感がある人もいました。ビジョンを描けない人はどうしたらいいのでしょうか?
中原教授:「ビジョンという言葉が、使う人によってイメージするものが違うんだと思うんですよね。私がいつも思っているイメージは、『こうなったらいいな』というようなもので、『同じ風景を見る』ということなんです。
だから風景を描いてみてほしいです。企業の経営者が言うような、そんな格好良いものでなくていいんだと思います。
自分が近い将来、見たい光景はなんでしょうか?そこには、仕事場のひともいるかもしれないし、家族がいるかもしれない。どんな光景が5年後に見たいのかを考えることからはじめるといいのではないでしょうか。
ビジョンなんて、小難しい言葉じゃないんです。知的妄想です。でも、妄想したものにしか、ひとは、なれないんです。
水野:「ビジョンは、肩ひじ張らずに、見たい風景をただ描けばいいって言ってもらえるとそのプロセスを楽しめそうですね。そして、自分の内側だけに留めておくものではなく、誰かと共に、言葉にして風景を共有していく。自分の内側から外側への広がりがビジョンの良さの一つなのかもしれません。」

【中原教授と参加者との対話の様子をまとめたグラフィックレコーディング②】
参加者からの質問:「4つめのテーゼ『複線と伏線を育もう』のとき中原教授が『ひょん理論』を紹介してくださいました。『ひょん』なことをキャッチするにはどんなアンテナを立てていたらよいでしょうか?
中原教授:「そうですね…例えば、最近どう?という会話や、さまざまな人に出会って話すのを増やすことでしょうか。いろんな人に出会いながら話を聞いたり、フィードバックをもらっていったりすると、言葉は違っても同じようなことを言われる時があるんですよ。本当に『ひょん』なんですよね。『この前、同じこと聞いたな』ということが起こってきて、ヒントになったりします。
会話やフィードバックは量も必要ですよね。いろんな人との関わりやフィードバックを得られるような環境を、自分から作っていくということが大事だと思います。これを専門用語では、フィードバック探索(feedback seeking:フィードバックシーキング)」といいます。自ら、フィードバックの束のなかにありたいですね。フィードバックは『ごちそう』ですから。」
水野:「クランボルツ博士のハップンスタンス理論でも言われていますが、偶然を味方につけるには、好奇心や持続性、柔軟性、楽観性、冒険心が大切とのこと。これに加えて、中原先生はアイデアや人をつなげる力も使っていらっしゃるようですね」

参加者からの質問:「コロナで働く環境が変わり、意図しないと人と人とのつながりが薄くなることを痛感します。中原教授が積極的につながりをつくるために何か工夫していることはありますか?
中原教授:「意図をもって、関わることです。確かに意図しないとつながりはどんどん薄くなっていくと思いますね。僕はいつも伝えていますが、例えば、このzoomのオンラインイベントでも、意図を持たずにみんなでいっしょに退室ボタンを押すと、それで消えてなくなるんです。
でも、振り返りの時間を持ちたいと思ったら、参加者同士で『振り返りの時間を持ちませんか』と問いかけてもいい。コミュニケーションを自ら設計してみる。例えば、会議のやり方1つでも、私のゼミでは、最初15分間は研究の話を一切せず、最近自分に起こったことでシェアしたいことをひとりずつ話してもらいます。すると、なんだか顔色悪いなとか、少し元気ないなだとか、察知できる。
ほんのちょっとのことでいいんですよ、”コミュニケーションを自ら創る”ということにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。そのためには、意図をもつことです。
水野:「中原先生、ありがとうございました!皆さま、いかがでしたでしょうか。
『これからのキャリア発達モデル』は全員に当てはまる『結論』や『正解』ではありません。このモデルを基に、自身のキャリア観を問い直し、その過程でうまれた”揺らぎ”を元に丁寧に内省し、新しい行動につなげて頂ければと思っています。
ちょっとした一歩で、次の新しい扉が様々に開いていきます。予測不可能な変化の激しい時代ですが、『これからのキャリア発達モデル』が、新しい発見や行動を楽しみながらキャリアを歩むための一助になることを心から願っています。」

~最後に~

イベントレポートを最後まで読んでくださり、ありがとうございました!!
皆さまは、『これからのキャリア発達モデル 9つのテーゼ』や中原教授のエピソードを聞いて、どんな感想を持たれましたか?
もし身近にこのレポートを読まれた方がいたら、ぜひ感想を話し合う機会を設けてみてください。
「この人はこんな風に感じたんだ」とひょんな発見があったり、「自分も〇〇をやってみようかな」と新しいチャレンジにつながっていったりするかもしれません。
イベントレポートが、何か新しいきっかけになれば幸いです。