MENU

キャリこれ

挑戦するパナソニック コネクト株式会社と考える「ジョブ型とは何か」(中編)

インタビュー

企業

2022.10.13

いま急速に関心が高まっているジョブ型雇用。その現象を多角的に検証し、その本質を考えていくことを目的としてスタートした本連載。最終回は「総括」として、現在進行形でジョブ型制度の導入を推進していらっしゃる企業から見た「ジョブ型とは」について、連載で扱った様々な視点から検証していきます。
記事前編はこちら ■記事後編はこちら

「個人のキャリア」への影響は?

Q:では、ジョブ型制度が、個人のキャリアにどのような影響を与えるのか、に話を移していきます。JILPTの下村先生はジョブ型を導入する様々なメリットをご紹介くださいました。一方、オリンパスの井川様は「キャリアパスをどこまで作るかが悩ましい」というお話もされていました。
御社で制度を導入するに当たって個人のキャリアや働き方についてお考えになった点をお話し頂けますか。
新家様(以下新家):当社の創業者松下幸之助は「物をつくる前に人をつくる」という言葉を遺しました。私は入社してから30年経ちましたが、正直なところそれが会社の中に実装されている実感がありません。
なぜかというと、創業者が作ったキーワードと「OJT主体という幻想」の二つがあれば自然に学びの仕組みが廻るんじゃないか、という考えに寄りかかりすぎてきたからだと思っています。
これからはキャリアに対する「マインドの切り替え」が最も大事になります。その際、会社としてどういうマインドの切り替えをどのように仕掛けていくのか、という「カルチャー改革」が一番の肝ではないかと考えています。
中島様(以下中島):キャリアオーナーシップは、本来当たり前だったことを社員の皆さんに求めていくだけなんです。日本企業全体として欧米先進国企業に比べると勉強量が圧倒的に少ないというデータが出ていますが、今後益々勉強することで選択肢を増やして人生を豊かにしていくことに繋げていかないといけない、と思っています。
楠木:オリンパス・井川様が話された「キャリアパスをどこまで作り込むか(正確に作りすぎてしまうと会社が与えたものになってしまう)」という点は一考に値すると思います。
その意図は、作り込みすぎることによって社員がそれに頼りすぎて、「会社が示しているキャリアパスにはしっくりきていないが、あえてその中で選ぶとしたら・・・」といった消極的なキャリア選択に陥ったら駄目だということではないでしょうか。
それに対してオリンパス様はジョブ型制度導入の意味や自律的キャリアやキャリアオーナーシップの意味について繰り返し社員に説明されています。やはり、会社からの制度と社員個々の自律が両輪ではないと、会社側が提示するジョブディスクリプションを受け身で選ぶような消極的なキャリア選択に走りかねないという課題もはらんでいると思います。
やりたいことがあれば自ら作り出したり、社外にまで視野を広げたりするキャリア自律の啓発も併せてやっていかなければいけない、と感じています。

「組織文化」とは?

Q: さきほど新家様からお話が出た「組織文化(カルチャー)」は樋口社長も重視されていらっしゃるとお聞きしました。
新家:はい。樋口は、コンサルタントの経験を通じて経営戦略面で長けていますし、企業変革が日常的に行われている外資企業の経験をしてきたので「カルチャー改革は必須」と考えていると思います。
当社では「ビジネストランスフォーメーション3階層の改革」を策定しました。そのベースとなる部分に「企業文化の改革」があり、その上に「ビジネストランスフォーメーション改革(ハードウェア中心からソフトウェアへの事業の変革)」、そして一番上が伸び行くビジネス領域にリソースを投下する「事業立地改革」が乗っかっています。
しかし、この3階層目(事業立地改革)だけで企業変革が成り立つわけではないですよね。この5年間カルチャー改革にこだわり続け、徐々に事業の終息や企業買収などもやって来た中、当社は5年前とは全く違う姿になっています。いま申し上げたようなセオリーがもともと社長のアタマの中にあって、それを従業員が愚直に推進してきたのが実際のところです。
Q: 今までの企業文化をどう維持しどう変革するか。そのさじ加減はいかがでしょうか?
新家:従来のものとは反対方向に振り切っています。「和をもって尊しとなす」極めて日本的な集団の文化だったのですが、意思を持った一人ひとりの個人がきちっと働いて成果を出してそれが喜びに繋がることを心がけながら、社員とのダイレクトコミュニケーションを一生懸命やってきましたし、誰とでも語り合えるようなカルチャーを形成してきました。
楠木カルチャー変革という点では、各企業が掲げられるパーパスや理念が下支えになってくると思います。根底にはつねにそれらがあって、その上に新たな企業文化や組織文化が形成されていくことになると思います。
各社異なるかとは思いますが、日本企業全体の傾向としては、「自律的キャリア、学び、創造性、人間性、自分らしさ、自由」といったあたりが、今後のカルチャーのキーワードになってくるように感じています。

ジョブ型で「能力開発」はどうなるのか?

Q: 次に、ジョブ型導入に伴う能力開発について触れていきたいと思います。連載の中ではオリンパスの井川様は「(能力開発を)自らやる風土作りが必要」、PwCの土橋さんからは「よりパーソナライズされたものが必要になってくる」といったコメントがありました。
御社の新しい人材マネジメント制度における能力開発のあり方についていかがでしょうか?
新家:これは結構難しい課題ですね。ジョブ型のような世界観の中で自分のキャリアは与えられるものであっては絶対駄目だと思います。とはいえ、会社としてある程度のガイドはしないといけないでしょう。会社の戦略やパーパスに対して必要となる学びを提示して、それに対して自分で動機づけを行ってアクションする、ということになっていくのではないでしょうか。
能力開発について、どれぐらいの量、仕組みや方法を示していくのかは「企業の競争のポイント」になっていくと思います。まさに今、HRだけではなくて経営者や企画出身の者などを集めてその議論を始め、来年2023年4月には「パナソニック コネクトなりの能力開発や人材開発」を明確にしていくフェーズに入っています。
中島:当社は人材要件定義の面でも、スキルを3階層で整備しています。
パーパスの実現に向けた「コアバリューの発揮(コンピテンシー)」が一番下の土台にあり、2階層目が職種関係なく求めていく「リテラシー」の部分、3階層目が職種毎のスキルを求めていく「専門性」です。
これまでの研修を整理すると、改めてこの土台となるような「人間性を鍛える」ところが圧倒的に不足していることに気づきました。OJTに依存してきたわけです。
一方、「パナソニックって、なんとなくイイ人が人多いよね」と社外の皆様から結構言われてきました。なぜかと言うと、経営理念を学ぶ機会が他社に比べて圧倒的に多いんですね。経営理念は社員一人ひとりが本質を考える機会にもなるので、それを学ぶことによって人間力を高める効果があったのではないか、ということも議論しています。
今後は、パナソニック コネクトのパーパス、コアバリューを考え行動する機会を増やしていくことで、人間力の高いリーダーが増えていくことを期待しています。
Q:能力開発・人材開発を進めていらっしゃるお立場から、一番重要なポイントは何だとお考えですか?
中島:これまでは組織内評価に引っ張られ、言い換えれば上司に引っ張られてきました。しかし社長の樋口をはじめ、多くの人たちが外から入ってきたことで「市場価値で動いていく」オープンな変化点がきています。
そうなると「市場価値を上げていくようなプログラムや場の提供」をしていかないといけません。社員、特に市場価値をとても意識している若い社員たちへ、メッセージ性のある人材開発の取り組みを来年4月に打ち出していきたいと考えています。
Q: 今おっしゃった「市場価値の認識」は大事だと思う一方、その必要性を認識してもらうのは難しい側面もありますね。
中島:やはり「越境の経験」を多くの社員にしてもらうことだと思います。他企業との他流試合プログラムなどを公募制でやろうとしていますが、他社の人たちと触れる中で、自分の企業を冷静に見ながら、労働市場における自分の立ち位置を確認してもらいたいと考えています。
それによって内発的な動機が生まれて勉強してもらったり、新しい機会を自分たちでつかみにいくような行動変容を促したりしていきたいですね。
Q: この人材開発のシフトについて、楠木さんはどのように御覧になっていますか?
楠木:各社ごとに能力開発体系は異なってくるのかな、という印象を持っています。
ただ、ジョブ型が推進されていくと階層別・年次別といった育成体系の概念がどんどん薄れて、会社が必要とする職務を遂行していくために必要なスキルや能力体系を中心に構成されていくだろう、というのが一般的な流れとしてはあると感じています。
また、人事からの働きかけで参加してもらう指名型の形態から、自ら選んで参加するオープン型プログラムの構成比率はどんどん高まっていくと思いますし、自律的キャリアの基本的な考え方を学び、本人が内省するような機会を作りたいというニーズも高まると思います。
キャリア開発研修やキャリア相談機能は能力開発体系と共に育成体系の枠組みの中で整備をしていく、という企業は増えています。
なお、一般的な研修はオープン参加型になっていく一方、キャリアの領域では、その企業がフォーカスする年代別課題やいわゆるキャリア上の発達課題に応じた内容で企画されることが多いため、誰もがオープンにキャリアを学べるものと、年代別研修の両建てで導入されることが多くなってきました。
最近よく導入される年代としては、「ミドルシニア」と呼ばれる40代後半から50代向けの案件は多いですし、役職定年のような節目でくさびを打つような例もあります。
一方、早くからキャリア自律の考え方を知ってもらうため、入社して3年目から5年目ぐらいの早期に行うキャリア開発研修も増加傾向にあります。また、研修とキャリアカウンセリングをセットアップしたプログラムも増えてきています。
中島:今の楠木さんの話で、キャリアコンサルティングが自分の市場価値を知る上で良い機会だと思ったのですが、具体的に相談件数が増えているのでしょうか?
楠木:はい、増えています。研修の中で様々なキャリアプランニングを行うわけですが、自分が持っているスキルとマーケットとのギャップを認識して「強化すべき部分は何か」を考えるために、第三者による外部カウンセラーに相談する取り組みを導入される事例が多いですね。
■記事後編はこちら