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ジョブクラフティングと経験学習をベースとしたトレーニー育成プログラム 両備システムズ様の事例【後編】

連載記事

2021.12.3

これからのキャリア開発に大切な「ジョブクラフティング」 連載第5回目。
今回は、ジョブクラフティングと経験学習をベースとしたトレーニー育成プログラムを2019年から導入し、効果をあげている株式会社両備システムズ様の取組みをご紹介しています。
両備システムズ様では、3年間の新人教育(=トレーニー育成プログラム)のストーリーラインを描き、一つひとつの施策を連携させながら効果を高めていく取組みをされています。弊社のジョブクラフティング研修もこのトレーニー育成プログラムの総仕上げ、そして次の自律ステージへの出発点として位置づけられています。
■記事前編は、こちら
記事後編では、トレーニー育成プログラムの個別施策、効果、今後の展望について、引き続き株式会社両備システムズ 人財戦略部 リーダー 三上紀子様にお話を伺いします。
【株式会社両備システムズ様 会社概要】
本社所在地:岡山県岡山市南区豊成二丁目7番16号
代表者  :代表取締役社長 松田 敏之
設立   :1969年12月
資本金  :3億円
事業内容 :公共、医療、社会保障分野および民間企業向け情報サービスの提供
(システム構築、アウトソーシング事業)、ソフトウェア開発、
データセンター事業、ネットワーク構築サービス、セキュリティ事業、
ハードウェア販売および保守サービス
コーポレートサイトhttps://www.ryobi.co.jp

3,コロナ禍、関係を深めるのに役立っている「情報シート」

※上記GROWシートは、2021年11月時点のものです
秋本:具体的な話に戻りますが、トレーニー育成プログラムで使われているGROWシートの「№5.振り返りシート」で経験学習の振り返りの10分ダイアローグの説明があり、「質問は三つを目安にします」と書いてありますが、これはトレーニーやメンバーにある程度お任せしている解釈でよろしいのでしょうか?
三上様:そうですね。実は各シートには狙いがあります。例えば「情報シート」には自分の取扱説明書があるんですけれど、 トレーニー以外のメンバーが書く際には、「この仕事のどんなところが好きか」、「この仕事の大変なところは何か」、「大変なときに、どのように乗り越えているか」などを書いてくださいとガイドしています。これはトレーニーが両備システムズという会社で働くイメージや将来のキャリア像を描くヒントをもらうために、各チームのメンバーに自己紹介いただいてる狙いがあります。
今、飲みニケーションが減っていますし、営業も先輩と同行する場合でもオンライン中心になると、先輩の背中を見て学ぶ機会が激減しています。新入社員が「先輩はどうだったんですか」と聞ければいいんですけど、まだ信頼関係をつくる機会がなくて。そのため、先輩社員には「自ら自己開示してくださいね」とすごく言っていますね。

秋本:この「情報シート」はすごく良いですね。最初からオープンな関係にしやすいというか、早く腹を割ってかかわれる効果がありますね。
三上様:その通りですね。いろんなきっかけによって話を膨らませてもらいたいですね。新入社員は何を話していいか正直わからないんですよ。年の離れた責任者と、歳が近いとは言えども10歳くらい離れている場合がある先輩社員と何を話していいかわからないというところがあるので、そのアイスブレイクという位置づけです。

4,入社3年目の総仕上げ ジョブクラフティング研修

秋本:「情報シート」を拝見するとジョブクラフティング的な要素が込められていますね。
そういった意味では、ジョブクラフティング研修を受ける前にジョブクラフティングの種が埋められているんですね。また経験学習の種もキャリアビジョンを描くという種も入っています。素晴らしいですね。いろんな仕掛けが入っていますね。
三上様研修でできることは限られているというか、どうしてもインプットが中心になります。実際に行動に移すのは一定時間かかると思っているので、3年かけて種をまいておくようにしています。
秋本3年目のキャリアセミナーを受けたときに「あのときに何かやったな」と過去の点と点を繋げてもらうわけですね。そして独り立ちしてもらう狙いが素晴らしい。
三上様:それも「経験学習」になっているということです。キャリアセミナーを受けても、自分ごとにしなければ動けないことを痛感しています。
自分で3年間いろんな経験をしてみて、失敗しながらも、この経験が必要だったと思ったり、 チームのメンバーの考え方を取り入れたり、これらのことを「そういうことか」と繋げながら、3年目にビジョンを立てることができたら、新入社員は自信を持って独り立ちしやすいと考えています。
※ジョブクラフティング研修は、担当業務に対して様々な視点で分析しながら、「やらされ感」を減らし、「やりたい感」を増やすことを狙いとしています。研修後の事後課題として「経験学習」を実践し、担当業務で成果を上げながら成長していくプロセスを身に付けていきます。

5,トレーニー育成プログラム 効果と今後の展望

秋本:改めて思いますけど、新入社員の育成を点ではなく面で考え、ひとつひとつの点と点が繋がっている。ここまでは各施策へのトレーニーやメンター、育成責任者のご反応をお話しいただいていますが、過去に比べて何%良くなっているなど、数値的なものは取っていらっしゃるのでしょうか?
三上様:はい。定期的に役割ごとにアンケートを実施しています。
秋本:アンケートはどんな項目で取っているのですか?
三上様:定点観測の項目は、「定期的に活動しているか」と「今のプログラムに満足していますか」というもので、5段階の指標(満足、やや満足、どちらとも言えない、やや不満足、不満足)へのチェックと、その理由を書いてもらっています。あとは「人事部門にお願いしたいこと」を書いてもらっています。
秋本:どのような結果が出ていますか?
三上様:1年目は「満足度が高く、どちらとも言えないが少ない」のですが、2年目は「どちらとも言えない」が増えていきます。その理由が、KPIのゴール指標がないため、今の活動で本当にいいのかわからないという理由から、「どちらとも言えない」と回答する人が増えている状況です。
秋本:定性的なコメントにはどのようなものがありますか?
三上様:「相談先が明確だから、相談しやすい」、「目標や振り返ったことを見える化できる、共有できる」、「シートに沿って進めていけば、成果が出るようになっている」など、すごくポジティブなコメントをいただいています。
一方で課題は「人材ローテーションによってチームがリセットされたり、雰囲気が変わってしまう」、「時間をかけられない」、「成長の判断軸がわからない」などが挙げられます。今度これらをどう改善していくのかが課題です。
秋本:そうですよね。「成長の判断軸が、●●資格を取れました」という感じじゃないでしょうね。
三上様:その通りですね。そこがむずかしいと感じているところですね。
秋本:今までお話をお伺いし、改めて本当に素晴らしいお取り組みだと感じました。御社プログラムの一部をお手伝いできて本当に光栄です。
「新入社員や若手社員の離職を減らしたい」「モチベーションを上げたい」と悩んでいる企業様はとても多いです。しかし、人事部メンバーの人数もあり、理想はあるがなかなか難しいという企業様も多いです。
御社はまさに理想を具体的な形にされたわけですが、今後はさらにどんなことを考えていらっしゃいますか。
三上様:今回、1期生が出るとはいえ、途中でコロナの状況もあったので、一度プログラムの内容を決めたら終わりではなく、その都度、見直しを行っていきたいです。プログラムを、これからも変化させていくということですね。そこで大事にしたいのは、人事としての一つの軸、おすすめのルートを伝えつつも、現場がいま置かれている状況下で、柔軟に変えていく風土をもっともっと醸成していくことです。定期的な振り返りで「こうだからこうしていく」と必ず決める、「メンバーみんなが納得した上で動く分には全然構いません」というスタンスをずっと通していきたいです。そしてトレーニーがこのプログラムに関わり、みんなが実感してもらえれば万々歳ですね。
~秋本より最後に一言~
両備システムズ様のトレーニー育成プログラムは、新人教育を戦略的に設計し実施している非常に良い取組みだと思います。3年間の活動の一つひとつとジョブクラフティング研修が点と点で繋がってることは、研修を受講する3年目社員にとっても、「今までの活動をこの研修で集大成するのだ」という納得感と「ここから独り立ちするんだ」という動機づけを図るという効果を生みだします。ぜひ新人教育を設計する際に、今回の事例を参考にしていただければ幸いです。

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