MENU

キャリこれ

ウェルビーイングの国スウェーデンより(前編)

未分類

2023.5.17

今月から、連載「キャリア×グローバル」がスタート。この連載を通じて、世界各国のキャリア観やキャリア支援のトレンド等をお届けします!
お話を伺ったゲスト: 北欧ウェルビーイングプロジェクト代表 小林麻紀さん
インタビュアー: キャリアのこれから研究所所長 水野みち

※小林さんの詳細なプロフィールは、こちら
みなさんは、スウェーデンと聞いて何を想像しますか?
ノーベル賞、福祉が充実している、幸福度が高い、グレタさん、イケアやH&Mなどデザイン性の高いブランド、など。うちの息子が大好きなマインクラフトというゲームを作ったMojangも、音楽ストリーミングのSpotifyも、オンライン会議ソフトの先駆けであるSkypeもスウェーデンの企業が生みの親です。スタートアップや学び直しに大変積極的な国です。
日本に住む私たちにとってイノベーションのヒントが隠されているのではないでしょうか。今回は、そんなスウェーデンに移住し、ウェルビーイングやIDGs(※)の取り組みを行う小林さんにリアルなスウェーデンでの生活やキャリアについてインタビューをしました。
※IDGs(内的成長目標)に関する紹介記事は、こちら

1:小林さんがスウェーデンに興味をもったきっかけは何だったのでしょう?

◆スウェーデンとの出会い
私は現在スウェーデンに住んでいますが、帰国子女などの縁があったわけではありません。生まれは新潟、その後立川で育ちました。立川高校を卒業、一橋大学に進学したところ、北欧スウェーデンとの交流サークルがあったのです。そこで出会ったスウェーデン人の人たちがとてもいい人ばかりで、すっかり魅了されました。気がついたら、交換留学プログラムを利用して大学3年の末にはスウェーデンに行っていました。

◆やりたいことを残して死にたくない
大学卒業後、日本の大手メーカーで原材料の調達に2年半従事しました。そんな中、2011年の東日本大震災をきっかけに「やりたいことをやり残して死にたくない」と強く思うようになり、2012年の夏から、スウェーデンの大学院で2年間勉強しました。
とはいえ、2年間いると少し飽きてもきます(笑)。このままだとスウェーデンで自分のキャリア形成ができないのではないかと思い、日本に帰国しました。日本では、マネジメントコンサルティング会社で経営コンサルティングの経験を積み、2017年の夏に、再びスウェーデンに戻ってきました。

◆スタートアップの経験
エコシステムに興味が芽生え、ヴィンテージショップのオンラインマーケットプレイスを起業しようとしていたフランス人の女性とスタートアップに参画しました。2年ほどやりましたが、いろいろと実践の難しさも経験し、一旦会社を閉じました。
その後、北欧のスタートアップ、そしてそのエコシステムの中で築いたネットワークを活かしたく、北欧のスタートアップ企業と日本企業をつなげる会社を立ち上げました。しかし、実際の投資経験がないことに課題を感じていた頃、ストックホルムにある商社の駐在オフィスで北欧のスタートアップとイノベーションの種を見つけて投資に繋げるという新規事業開発の仕事を発見。そこにシフトするような形で働き始めました。

◆「起業休暇」の取得
スウェーデンにある会社は、従業員に色々な休暇を与えなければいけません。その中には、従業員が希望を申請すると与えられる1年間の学業休暇や、「起業休暇」というものもあります。これは、会社員が会社を辞めずに6ヶ月間起業するために休める制度です。その制度を申請し、今の「北欧ウェルビーイング」をプロジェクトとして立ち上げました。
※「起業休暇」は、人口が少ないスウェーデンでグローバルなビジネスを生み出すための戦略の1つとして、国の法律で定められているそうです。
<上の画像は、スウェーデンの気候変動系スタートアップカオスマップ。国を挙げて起業家を支援しています。>
https://www.ignitesweden.org/full-release-of-the-swedish-climate-startup-map/

2:スウェーデンの魅力はどのようなところですか?

◆人の心の独特な「ゆとり」
最初にスウェーデンに行くと決めた時、正直、日本から出たいという気持ちが先で、海外に行ければどこでも良かったんです。だから、国自体には何の期待もなく行ったというのが本音です。
冬の真っただ中の2月にスウェーデンに降り立ち、寒くて暗い景色を前にしながらも、すごく惚れ込んだんですよね。日本にはない、人の心の独特な「ゆとり」みたいなものを肌で感じたから、とも言えます。他のヨーロッパ、例えばフランスとかイギリスにはないようなマインドがあるんです。

<ストックホルム商科大学の友人達。2017年夏の写真>

◆いつ何歳からでも人生をやり直せる国
また、やりたいと思ったらどんな道でも切り開いていける国なんだということも感じました。例えば、複雑な事情を抱える貧困家庭で、日本であれば高校進学を諦めなければならないような家の子でも、自分の夢を持てる社会なんです。親が「うちはお金がないから医学部に行かせられません」という経済的理由で学業を諦めさせるようなことはありません。
また、いつ何歳からでも人生をやり直して勉強し直すことができます。学費が基本的に無料という制度面もありますが、年齢を問わず挑戦する人を応援する文化や空気感も伴っています。
年齢を問わず、挑戦する人を応援する文化や空気感
じつは私自身、そこまで裕福な家庭で育っていなくて、一橋大学の法学部に進学したのは、地元の国立で、「家から自転車で通えて安いから」という理由からでした。お金のかかる医学部に行くとか、芸術系に行くなんていう選択肢は最初からなかったのです。
しかし、スウェーデンの子供たちは、何にでもなれます。その中から自分が本当にやりたいものを選択できるというところに、アメリカンドリームに似たものを強く感じました(笑)。

◆学び直しのしやすい国
子供だけでなく、大人になってからの学び直しの機会や補助も豊富です。周囲の友人を見ても、高校卒業後10年以上雑貨屋の店員をやっていた人が、手に職を身につける必要性を感じたからとITエンジニアを目指したり、マッサージ師をしてきたけれど、さらに専門的に人を癒したいからと30歳になってから医大に通う人もいたりします。
「学び直し」に抵抗がない人が多いです。年齢を重ねてからも、これまでのキャリアをがらっと変えて学び直し、キャリアの幅を広げる人は多く、例を挙げるときりがないくらいです。

◆全部が「加点主義」
繰り返しになりますが、スウェーデンの外の環境は寒くて暗いのですが、人の温かさが全ての教育に絡んでくるんです。先生たちも親も子供を叱るということをしません。減点教育観、減点主義みたいなところがない。全部が加点主義なんです。
<上の写真は、12月24日、冬至の日の午前11時30分、ストックホルム。太陽は9時ごろに顔を出したかと思えば、低空飛行して3時には沈みます。>
<こちらの写真は、6月24日、夏至の頃の午後22時の様子。>
また、先生がすごく心に余裕がある態度で生徒に接してくれるので、自分をそのまま認めてもらえる感覚がありました。いいところを褒めてもらえ、引き上げてくれるような、自分を否定されないという安心感で、外は寒いけれど心は暖かいような、ほっこりした心の温かさにつながっていきました。
もちろん、子供の頃から厳しく躾けられたり、怒られたりするということを経験していないので、日本人から見たらフラフラしてるように感じるかもしれません。でも、性善説で育つことの効果が大人の様子からも分かるんです(笑)

◆息が吸える環境

ホームステイも学生同士での交流もたくさんしましたが、人を差別してはいけないと徹底的に教育されている国なので、差別を感じたことはありません。スウェーデン人には全ての人を同等に扱って壁を作らない雰囲気や場があります。,

※補足:2015年の欧州連合差別報告書によると、スウェーデンは欧州連合で人種差別の程度が最も低い国だそうです(ウィキペディアより)

日本にいる方が、人と違っていてはいけないという息苦しさがありました。スウェーデンにいると、自分が自分でいられて、全ての自分を受け入れてもらえる感覚があるんです。
スウェーデンの良いところというと、「デジタル化が進んでいる、天災が少ない、地震もなくて自然が豊か」といった点がよくあげられますが、行ってみると、さらに本当に「息が吸える環境だな」と感じます。
<上の写真は、変な帽子を被って寒中水泳をするイベント「World Swim Hat Day」からの一コマ。老若男女が堂々と水着を晒し、コスプレを楽しんでいます。年齢を問われたり、容姿について過剰なジャッジを受けないことも息のしやすさの一つ。>

◆グレタさんがたくさんいる国
スウェーデンの有名人と言えば、環境活動家のグレタ・トゥーンべりさん。ただ、グレタさんが特別というわけではなく、かなり個々人が本気で環境のことを考えています。自分がベジタリアンになるとか、CO2削減のために飛行機に乗らないとか、そういった行動で「世界を変えられる」と信じているスウェーデン人は多くいます。そのピュアさに、心を動かされることもよくあります。
商社に勤務していた時、イスラエルのイノベーションハブから来た方に、フードテックのスタートアップのハブを作っている創業者の方を紹介したことがありました。多くの場合、スタートアップというとまずはビジネスの話で、いかに投資して儲かるかという話になりがちです。
しかし、そのスウェーデンの創業者は、なぜフードテックが必要なのか、なぜ世界の食料システムを変えていく必要があるのかを、地球規模の観点でSDGsも含めて力説していました。商談を終えた後、イスラエルの担当者が、「最初、何かの宗教団体の人たちかと思った」と言っていたのが面白かったです(笑)こんなにSDGsを本気で信じている人がいるのかと、カルチャーギャップを味わいました。
北欧、特にスウェーデンの人たちは純粋にビジネスを通して世界を良くしようと、本気で信じてやっている人が多いんです。だから、IDGsのような考え方も出てくるのだと思います。
<難民保護を叫ぶデモの先頭に立つスウェーデン人の若者たち(外国生まれ含む)2017年夏のプライドパレードにて>
小林さんのお話からは、実際に住んでいるからこそ見えてくるスウェーデンの包容力ある文化や国民性を感じました。そして、それは歴史や地政学的な影響もあったとは思いますが、明確なビジョンをもとにした政策的・教育的な取り組みによる側面もとても強いことが改めて伝わってきました。
<この続きは後編で!
スウェーデンの良くないところは?スウェーデンから見える日本は?
スウェーデン人のキャリア観や、小林さんがこれからやっていきたいことは?> 後編はこちら

小林麻紀氏プロフィール

スウェーデン在住の起業家、会社員兼ボディワーカー。 一橋大学法学部卒、ストックホルム商科大学General Management修士取得。 大手メーカー、大手総合商社、外資系コンサルタント、海外スタートアップCOOを経験。
一方、副業でヨガ・笑いヨガ・呼吸法のインストラクター資格を取り、2022年には呼吸法・寒冷暴露・瞑想で心身をととのえるオランダ発の究極の健康法「ヴィム・ホフ・メソッド」で日本人女性初のインストラクターとなる。
2022年11月よりイノベーションを促進するためにスウェーデンで新設された「会社員が起業するための6ヶ月の無給休暇」を取得し、幸福先進地域・北欧から、日本のウェルビーイング向上につながるヒントを届けるため「北欧ウェルビーイング」プロジェクトを立ち上げた。

RECOMMENDED