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個の妄想があふれ現実化する未来へ向けて アジア初プロマインクラフター・タツナミさんに聞く(後編)

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2024.2.22

プロマインクラフター・タツナミシュウイチさんへのインタビュー後編。
後編では、声優業からMinecraftを使ったエデュケーターへとキャリアを拡げていったタツナミさんの仕事の転機、「教えるのではなく、好奇心を引き出す環境づくりが大事では」という教育への視点、予測がつかない未来への心構えなどをお伺いします!
●インタビュアー:NPO法人ArrowArrow代表 海野千尋
●執筆:NPO法人ArrowArrow代表 海野千尋・株式会社日本マンパワー 緒方雪絵
★前編はこちら
1.キャリアが拡がる変化―ものづくりから人づくりへ

-前編で、タツナミさんのキャリアの転機にMinecraftがあったことをお聞きしました。他にもそのような転機はあったのでしょうか。
タツナミ氏プロデュース業で、『人づくり』の魅力を知ったのも、1つの転機だったと思います。自分のクリエイティブな活動が表舞台でできなくなった時期、プロデュースの仕事に携わっていました。
例えば、ボカロP(※)の方々をアニメの主題歌を創る仕事とつなげる、というようなことです。ボカロPの皆さんが、ステージで楽しそうに仕事をする姿をみて、元々僕自身もその場所が大好きだった人間でしたので、当初はとても寂しく、悔しいような気持ちもありました。
※ボカロピー/ボーカロイド・プロデューサーの略。インターネットで活動している作曲家、音楽家
しかし、そこから徐々に気持ちや視点が変わる機会が重なりました。例えば、プロデュースした方々に、「タツナミさん、本当にありがとうございました!」と何度も声をかけてもらい、時には、感謝の気持ちがつづられた手紙をもらったこと。
また、彼らが羽ばたいていく姿やアニメソング界で活躍する姿を見て、嬉しさがこみあげてきたのです。
著名なプロデューサーの方に「タツナミさん、プロデューサー向いていると思うよ!」と応援してもらったことでも、自分の気持ちが変わりました。
これまでの仕事は、自分ひとりでカメラの前に立ち、演出を決め、ものづくりをするという、自分一人で完結する仕事でした。その仕事も大好きでしたが、「誰かをプロデュースする」という仕事は、多くの人を輝かせる仕事だと気づいたのです。
プロデューサー業のおもしろさや楽しさを味わい、「これは人づくりだ」と感じたその瞬間に、それまで感じていた寂しさや違和感が消えました。今までずっとものづくりをしてきた人生でしたが、これからは、人をつくる、輝く人をつくっていくのだ、と視点が拡がってきました。
2.教育の現場で感じること-学びは上から教えるもの?

-これまでのキャリア・人生の中で、タツナミさんの価値観を大きく変えた出来事はなんですか?
タツナミ氏一番の転機だと言い切れるのは、子どもが生まれたことです。子どもが生まれたことで、日本の将来像を本気で考えるようになりました。僕自身がどうにかなったとしてもそれだけではダメで、子どもにとってより良い環境が存在していて欲しいという願いに繋がっていきました。そのために何かすべきことがあるならばやろう!という意識に変わりました。
自分ができる『社会貢献』は何かを考えたときに、Minecraftと教育とを掛け合わせていくことで、何か困っている人のための仕事となるんじゃないか、教育の場所を変化させることに繋がるのではないかと思い、教育現場に関わっていくことにチャレンジしています。

-教育の現場にいて思うことや、反対に現在の教育の課題として感じていることがあれば教えてください。
タツナミ氏:今の大人たちが子どもだった20数年前から、世界は大きく変わりました。教育のあり方も変わっていっていいのではないかと思います。
僕は、学びというものは「上の立場の者が教えるもの」だと思っていません。「子どもに教えるには、自分が全て理解していないと」と思っている教育者の方もいるかもしれません。しかし、今や、1年先の未来さえ予測がつかない時代です。毎年毎年、多くの新しい事象が発生する中で、全てを理解した上で教えるのはもう難しいですよね。
また、自動生成AIなど最先端の技術は、子どもや若者の方が詳しいです。新しいことに対する好奇心や探究心の熱量も、総じて彼らの方が高いです。
*イメージ画像 istock
こういった世界で、教育の場で大人ができることは、大きく次の3つではないかと思っています。

① 自分が知らないことであっても恐れずに知ろうとすること、
② 子どもたちの好奇心・探究心を認めてあげること
③ 自分が教えてあげられなかったとしても、こどもたちが学ぶことができる環境をつくってあげること

-タツナミさんからの教育現場の話を聞いていて、学びは遊びと重なっている、繋がっているように思いました。
タツナミ氏:それは間違いないと思います。学びは遊びだと断言できます。Minecraftの世界でもそう感じました。
Minecraftで新しくワールドを作ると最初は何もない状態なので、火起こしや道具作りからスタートします。そんな中「人間は何故火を使うようになったんだろう」とふと疑問もわいてきますが、「便利」だからだけでなく、「何か面白そう、楽しそう」と好奇心を持った結果ではないかと思うんです。
好奇心を持つことこそ、遊びや学びの原点だと思います。
3.個の妄想があふれて現実化する未来
-タツナミさんが今教えている子どもたち・学生が社会に出ていく頃、どのような未来の仕事が待っているでしょうか?
タツナミ氏全く分からないですね、たった1年で世界は大きく変わりますから。例えば、ChatGPTのような対話型AIが出現して、約1年経ちました。しかし、2年前の人類は、このような未来は、想像すらしていなかったのではないでしょうか。
世の中のほとんどの人が、対話型AI なんて遠い未来だと思っていた中、「その未来を来年にしてやろう」と思った人間がいて、水面下で着々と準備し、実現させたわけですよね。
こうなると、ワープ航法や10億光年先の宇宙人とのコンタクトだって、それは夢物語だよと、今、誰が否定できるでしょうか。
世の中のほとんどの人が想像もしないようなことを、妄想がふくらむまま、その実現に向けて動いている人がいる…そう考えると10年20年先は、全く今と姿・形を変えた社会になっているかもしれません。
そう考えると、子どもたちは可能性を秘めている存在です!彼ら個人の妄想やイメージから未来が生まれてくると思っています。イメージを具現化させる技術力と、それに必要な知識力、そして今までにないものを組み合わせて0.01から1という新しいものをつくる創造力が大事だと思います。
未来の仕事はなにか、という冒頭の問いに、あえて答えるならば、個の生み出す妄想が現実化した仕事があふれているのではないかと思いました。

-個人と社会の繋がり方も、もしかしたら今とは違っているかもしれませんね!
タツナミ氏:個が確立することで、集合体やコミュニティの中で、自分の力をどうやって発揮すればいいのか、より考えられるようになるのではないでしょうか
4.自らの手で掴み取る小さな成功の経験を積み重ねる

―タツナミさんの教育への視点、未来展望、ハッと目を開かされる言葉が多かったです!最後に、読者にメッセージを頂けますか?読者は、キャリア支援者やビジネスパーソンが多いので、タツナミさんが働く上で大事にされてきた価値観をお伺いできればと思います。
タツナミ氏:これまでの声優業や映像・音楽を創る仕事は、大好きではあるものの、常に周りを気にして、他作品や世間の評価などに追いかけられていました。多分、そこがレッドオーシャン(血で血を洗うような競争が激しい場)だったからだと思います。
やはり、誰もまだ手をつけていないブルーオーシャンを目指すことが重要ですよね。
例えば、ビル・ゲイツもスティーブ・ジョブズもイーロン・マスクも、世の中で誰もやっていない仕事・未知なるものに対して、やり続けることで何かを生み出してきています。
Minecraft×教育という分野は、僕が『優れていたから』ではなく、偶然にも僕しかやっていなかったから結果が出たのだと感じています。

―でも、ブルーオーシャンを見つけることはとても難しいですよね…。また、新しい物事に挑戦する時、周囲から「実績はあるのか、本当に効果はあるのか」と問われ、尻込みしてしまうこともあると思います。そんなとき、どのような乗り越え方があるでしょうか?
タツナミ氏自分の手で小さな成功を掴み取る経験を積み重ねる、ということでしょうか。いきなり大きな挑戦で成果を生み出す、というのは誰しも難しいでしょう。仕事だけで考えなくてもいいのかもしれません。
人目に触れない水面下の経験であっても、プライベートの出来事であっても、自分自身にとっては『経験』ですよね。小さな物事に対しての成功や達成をコツコツ積み重ねていくことが大事だと思います。
*画像はイメージです
―タツナミさんが2010年にMinecraftに出会ってコツコツとワールドを創っていったことも、まさに小さな成功や達成経験の積み上げですよね…!実体験からのお話をありがとうございます。
未来の予測がつかない今、何に手をつければいいのか迷っている方も多いと思いますが、改めてブルーオーシャンを目指す重要性や、水面下でコツコツ小さな成功体験を積み上げる必要性をタツナミさんのお話を通して感じました。
5.取材を終えて
海野:タツナミさんご自身が、未来や次世代に対して好奇心をもって見つめている眼差しがあることを感じました。また、Minecraft×教育で自ら変えていく未来がある、その実感があることも。まだ見ぬ未来をおもしろがれるか?そんな問いを受け取りました。
緒方:タツナミさんの「学びというものは、上の立場の者が教えるものだと思っていません」という言葉にハッとしました。今まで思いつきもしませんでしたが、これは、教育現場だけでなく、もしかしたら企業でも同じことが言えるかもしれません。
タツナミさんが語られた「大人たちが子どもにできること」の言い換えになりますが、「好奇心・探求心をもった社員を尊重し、自分が教えてあげられなくても、彼らが学べる環境を作ること」で、ブルーオーシャンに近づけるのでは!と思いました。