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カゴメの事例から学ぶ「キャリア自律意識啓発セミナー」のポイント~越境学習を活用した「挑戦する風土」づくり~(前編)

イベント

2024.6.3

人的資本経営やパーパス経営が重視される中、従業員のキャリア自律、働きがい向上、イノベーティブ人材創出などに、ますます関心が高まっています。
そこで、2024年1月31日、食を通じた社会課題の解決を方針に掲げるカゴメ株式会社の人事施策をご紹介いただくセミナーを実施しました。
セミナーでは、越境学習などを活用した「挑戦する風土づくり」、イノベーティブ人材創出を目的とした人事施策紹介のほか、カゴメ様でも導入されているトップアスリートセミナーのミニ体験も実施しました。セミナーの内容を抜粋してお届けします!
<体験セッション>
〇ファシリテーター
株式会社Criacao(クリアソン)神田 義輝 様
〇登壇者
サッカー元日本代表、現FC東京コミュニティジェネレーター 石川 直宏 様
<事例紹介セッション>
〇登壇者
カゴメ株式会社 人事部 齋藤 大資 様
〇司会
株式会社日本マンパワー 取締役 金子 浩

1.企業ニーズが高まる「キャリア自律意識啓発セミナー」

株式会社日本マンパワー 取締役 金子 浩

法人営業、営業マネジャー、販促、商品・事業開発、中計策定、アライアンスを歴任。トップアスリートセミナーなどの開発に従事キャリアコンサルタント、ワークショップデザイナー。

金子:
今、社員のキャリア自律意識啓発セミナーが注目されています。啓発セミナーは、キャリア自律のマインドセットに向けて、多くの社員が入口として気軽に参加できるように設計することがポイントです。

 注目の理由として大きく3つの背景が挙げられます。まず、ジョブ型人事制度、エンゲージメント向上、リスキリングなどの環境変化により、特定層だけでなく、全社員のキャリア自律の重要性が高まっていること。また、年代別キャリア研修やキャリアコンサルティングなどのキャリア教育ではカバーしきれていない状況があること。3つめは、キャリア自律に興味がない社員も一定数いることです。

 厚生労働省が令和5年に行った調査では将来の働き方について56.5%が「なりゆきにまかせたい」「わからない」と回答。このデータは、社員の本音をあらわしているのではないでしょうか。だからこそ、多くの社員がキャリアを考える入口となり、気軽に参加できる啓発セミナーへの注目が今高まっています。

 本日は、そのキャリア自律意識啓発セミナーの好事例としてカゴメ様の取り組みをご紹介します。またその前段として、カゴメ様でも個人の自律度を高める施策として導入いただいている「トップアスリートセミナー」の一部をご体験いただきます。このトップアスリートセミナーは、株式会社Criacao(クリアソン)と弊社日本マンパワーとで開発した企業研修です。認知度の高いトップアスリートが登壇することによって、社員の興味を喚起し動機づけする狙いがあります。トップアスリートの世界に越境し、プロに共通するプロフェショナルマインドなどを学ぶことができます。

 

2.「トップアスリートセミナー」ミニ体験

 

(1) トップアスリート研修とは

トップアスリートセミナーファシリテーター 神田 義輝 氏

株式会社Criacao(クリアソン)事業開発・組織開発
リクルートキャリアにて、人材紹介ビジネスを経験後、日本プロサッカーリーグにてプロサッカー選手のキャリアデザイン、研修設計・運営、再就職支援に従事。Jリーグ、Bリーグ、JOC等のトップアスリートのキャリア関連プロジェクトに従事。

神田:
トップアスリート研修は、トップアスリートの講演・対話を通じて、企業で働く皆さまに、実務課題のヒントを持ち帰っていただくことをコンセプトとしています。
 なぜ、トップアスリートなのでしょうか。理由はいくつかあります。
 まず、アスリートからスポーツ界の話を聴くことは、越境学習になります。越境学習の効果はアカデミックでも実証されていて、異業種・異職種のプロフェッショナルの本質に触れることは自組織の価値創造に活かせると考えられます。
 また、アスリートを取り巻く環境と、今のビジネス環境は非常に似てきています。特に「激しい競争環境」「テクノロジーの進歩で勝ちパターンが続かない」「多様な価値観の中において短期間で成果を出す」など、常に変容が求められるアスリートの環境は、まさに今、ビジネスの世界で言われるVUCA(物事の不確実性が高く、将来の予測が困難な状況)と同じだと言えます。
 こうした中、長年にわたって活躍し続けるトップアスリートは、能力だけでなく、習慣化された思考や行動を持っています。そのプロフェショナルとしてのマインドやスタンスは、ビジネスでも通用するものです。
 さて、ここからは、サッカー日本元代表の石川直宏氏に、プロサッカー選手経験から得たプロフェショナルマインドについてお話しいただきましょう。

 

(2) サッカー日本元代表石川氏の「プロフェショナルマインド」

トップアスリートセミナー講師 石川直宏氏

サッカー元日本代表、現FC東京コミュニティジェネレーター
2000年、横浜マリノスでJリーガーデビュー。2002年~2017年FC東京在籍。スピードと突破力を武器に看板選手として活躍。2009年Jリーグベストイレブン受賞他

石川:
私は高校3年生の時に横浜F・マリノス(以下「マリノス」という)と契約し、翌年の2000年4月にプロデビューを果たしました。J1初ゴールを決めたのは19歳の時です。ただ、その後は監督の交代や怪我もありなかなか出場機会が得られず、2002年にFC東京に移籍しました。引退したのは2017年、36歳の時でした。この18年間のプロサッカー人生は私にとって非常に濃く、さまざまな変化・変容がありました。本日は、中でも特に大きな出来事だった「ケガ」「監督交代」を中心に、どう自分の進化につなげていったのかについてお話しします。
(1)ケガ
 私は本当にケガが多くて、合計7回も手術をしました。プロ生活で初めての大ケガは、2005年のF・マリノス戦でした。診断は右膝前十字靭帯損傷と右膝外側半月板損傷で、全治10ヵ月。その前年にアテネオリンピックで日本代表として出場し、「さらに上をめざそう」と思っていた矢先のことです。病院のベッドの上で、なかなか今の自分を受け入れることができませんでした。
 日本代表の仲間が海外で活躍し始めた時期でしたが、その時は全くサッカーの番組や試合を見たくありませんでした。
 しかし、ある日、勇気をふりしぼって、入院中にテレビをつけました。所属チームの試合で、自分がいたポジションで、違う選手が活躍している…。受け入れがたい状況でしたが、その時、サポーターの映像が流れてきたのです。そして目に飛び込んできたのが、「俺たちはナオ(※石川直宏氏の愛称)を待っている」という横断幕。衝撃でした。その時、自分はなぜサッカーをするのか、目的が変わったんです。
 それまでは、自分のキャリアをどう彩るか、自分の目標をどう考えるかと、自分だけに意識が向いていました。
 でも、大ケガをして試合に出れない、そんな状況でもサポーターが自分を待ってくれていると知って、自分のためのサッカーから、サポーターのためのサッカーへと意識や目的が変わったんです。
 自分のプレーに「元気をもらった」と言ってくれる人がいる。自分がプレーすることで、サポーターの想いを表現できる。
 でも、プレーできなければ、想いを伝える手段はありません。サポーターの想いに応えるためには、がんばってリハビリをして復帰するしかない。リハビリ期間は途方もなく長く感じましたが、目の前のことを一生懸命にやり、積み重ね、苦しいことを乗り越えていくことが、自分の進化のために必要なのだと思うと、やり抜くことができました。
 そして、復帰戦で「ナオを待っていた」という横断幕を見た時、全て報われた気がして、知らない内に涙がこぼれていました。
 最初のケガ以降、私はサポーターの方たちと、積極的にコミュニケーションをとるようになりました。活躍している時に「すごいですね」と言ってもらえるのも嬉しかったのですが、ケガの時の「待っています」「早く治してください」と声をかけてもらったことは、本当に自分のエネルギー・モチベーションになりました。ケガをしたことで、いろいろな人の想いを感じながらプレーする喜びを知ることができました。
 ケガは受け入れがたいものですが、しっかりと自分で消化しながら、変化を受け入れる。そして、周囲の人がどんな想いでいるのかを傾聴したり対話したりしながら、その先の進化につなげていく。それが自分にとっては非常に大切だったと思います。
石川直宏様
(2)監督交代
 監督交代も、選手にとっては大きな変化です。その変化を自分がどう受け入れるかで、新しい自分に出会えるチャンスが生まれます。
 私の場合、18年間の選手生活で、20回近く監督が代わりました。監督が交代すると、当然、自分に求められるものが変わります。2008年、FC東京の監督が城福浩監督になった時のエピソードをご紹介します。
 城福監督は、人もボールも動いてゴールをめざすサッカーを目指していて、私に「お前はこのままでは試合に出られない」と言いました。
 じゃあ、どうすればいいのか。監督が求めることは自分のプレースタイルではないけれど、このままでは試合に出られない。私は、監督の求めることを100%以上やることにしました。また、自分と向き合い、自分ができることを模索しました。そこでも大事だったのが対話です。「自分はこんなプレーができる。このように貢献するので、こういうプレーをしたい」という旨を監督や周囲に伝えていきました。監督の理想、チームの理想、自分の理想のすり合わせです。そうして「最適解・納得解」を得ることができました。
 結果、翌2009年のFC東京は、J1で5位の好成績を残すことができ、私自身も選手として最大の成績(キャリアハイ)となる年間18得点をあげることができました。
 このように、変化・変容を自分の進化につなげられることこそプロフェッショナルではないかと、自分は考えています。
 ~この後も参加者からの質問に対して回答しながら、石川様のキャリアストーリーや思考、行動などについて深掘りしたトークが続けられました~

 

3.【カゴメの事例】
越境学習・トップアスリートセミナーを活用した
「挑戦する風土」づくりへの取り組み

齋藤 大資(さいとう だいすけ)氏

カゴメ株式会社 人事部
人材育成や組織開発に関する施策の企画・運営、制度設計などに携わる

 

(1) 「挑戦する風土」づくりに関する課題体系
齋藤:
皆さま、こんにちは。カゴメの齋藤大資です。弊社は野菜ジュースやトマトケチャップなどの販売を通じ、実は日本国内の緑黄色野菜消費量の19.1%を提供しています。そして、弊社は「食を通じて社会課題の解決に取り組み、持続的に成長できる強い企業になる」ことを2025年のありたい姿としており、「健康寿命の延伸、農業振興・地方創生、持続可能な地球環境」を取り組む社会課題としています。
 私は人事部で、人材育成や組織開発に関する施策の企画・運営、制度設計などに携わっています。カゴメ人事部のミッションの1つが、「働きがいを高めてイノベーティブな人材を創出する」ことであり、この組織ミッションを達成するための課題として「挑戦する風土」づくりがあります。私はこれらに基づいて、「個人の自律度(キャリア・能力開発)を高める人事施策の強化」や「挑戦の場としての人事施策拡充」に取り組んでいます。その中で、所属する組織(ホーム)と所属外の組織(アウェイ)を行き来することにより、「所属組織だけでは得られない経験からの学び」を得ることができる越境学習を積極的に活用しています。

 

(2) 越境学習で得られる効果

齋藤:

 私たちは、越境学習の効果として、「キャリア自律の促進」「リーダーシップの開発」「イノベーション人材の育成」の3つがあると考えています。順にご説明します。
(1)「キャリア自律の促進」 会社の外では、「〇〇部の齋藤です」という自己紹介はあまり意味がありません。それよりも、「自分は何がしたいのか」「何ができるのか」という自分の本質的な部分を話すことで、社外メンバーとの関係の質が高まります。自分の本質的な部分を話すことで内省が深まり、キャリア自律が促されると考えています。
(2)「リーダーシップの開発」 内省が深まると、自分の価値観や強みなど、自己理解も深まります。越境の場は、自分らしいリーダーシップ開発の場でもあると考えています。また、越境学習は上下関係のないフラットな場で行われることが多いです。そのため、各個人が自分の得意分野でリーダーシップを発揮する「シェアドリーダーシップ」が身につくと考えています。
(3)「イノベーション人材の育成」 自社の前提、過去の成功体験が通用しない場で、異質な他者と共に新しい知識を生成する経験は、「イノベーション人材の育成」に寄与すると考えています。
カゴメ様1
 上の図は、弊社の越境学習施策の概念図です。横軸に「越境度合い・自社との距離感」、縦軸に「(求められるもしくは身につく)スキルレベル」を置いています。そして、越境度合いもスキルレベルも低い施策を「プチ越境」、越境度合いもスキルレベルも高い施策を「ガチ越境」と呼んでいます。
 もっとも、ガチ越境を公募しても従業員が感じる参加のハードルは高く、応募者は増えづらいと感じています。一方、プチ越境は参加のハードルが低いため、参加者を募りやすい状況です。また、プチ越境がキャリア自律をもたらし、本人の行動変容につながって、ガチ越境に踏み出す契機にもなるのではないかと考えています。ゆくゆくはリーダーシップ開発やイノベーション人材の育成にもつながっていくでしょう。さらに、公募型の越境経験の場づくり自体が、挑戦する風土醸成にもつながると思います。
 したがって、まずはプチ越境をなるべく多くの従業員に経験してもらうことによってネクストステップにつなげていくことを、現在の方向性としています。そして、プチ越境の施策の一つが「アスリートセミナー」なのです。
【後編】につづく

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