(前編)アメリカにおけるキャリア支援の最新情報~NCDA2025グローバルカンファレンス参加報告~
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2026.1.13
2025年6月、米国アトランタで全米キャリア開発協会(以下「NCDA」という)の年次大会「グローバルカンファレンス2025」が開催されました。本大会は米国の最先端キャリア支援潮流を体感できる実務家向けの学会であり、3日間にわたって最新のキャリア理論や支援手法に関する多彩な講演やワークショップが行われました。日本マンパワーからはキャリアのこれから研究所所長の水野みちが参加してきました。それを受けて、9月27日(土)、大会参加報告会をオンラインで開催。米国のキャリア支援の現場や最新の理論、テクノロジーの活用事例、グローバルな視点などをご紹介しました。本記事ではその概要をお伝えいたします。今後のキャリア支援の在り方を考えるきっかけにしていただければ幸いです。
●報告 株式会社日本マンパワー キャリアドック事業本部 本部長・フェロー 水野 みち
●ゲスト登壇 佐久間 淳成 様
1NCDAの概要
水野:まずはNCDAについてご紹介します。NCDAは、米国の教育者・カウンセラーの団体として1913年に創立。同分野では世界で最も歴史が長く、歴代の理論家が理事に名を連ねている由緒正しい団体です。会員数は6,356人。世界中のキャリアカウンセラー、コーチ、教育機関の進路指導担当(大学勤務者が37%)、HR・人材開発の専門家、政策立案者や研究者などが属しています。大学院卒が67%、カウンセラーを専門とする人が50%を占めています。
サービス内容としては、主に以下が挙げられます。
・機関誌『Career Development Quarterly』の発行
・会員誌『Career Developments』の発行
・オンラインマガジン「Career Convergence」(毎月更新)
・NCDA公式ウェブサイト(www.ncda.org)
・出版物の会員割引
・年次大会の参加割引
・オンライン講座「The Hub」の受講割引
・スキルアップと資格取得に向けた学習機会
・資格認定によるキャリアの評価
・団体会員制度
また、日本キャリア開発協会(JCDA)との関係が深く、1999年から当時のNCDA会長ジョアン・ハリス・ボールズビー博士らがJCDA認定CDAのプログラムを共同開発しています。
2NCDA2025グローバルカンファレンスのトレンド
(1) 大会テーマ「Autonomy to Change」
水野:2025年の大会テーマは「Autonomy to Change: Evolving and Adapting Career Development in Revolutionary Times」でした。私は、「変化への主体性:変革の時代におけるキャリア開発の進化と適応」と和訳しました。
今、米国は、ダイバーシティやDEIのバックラッシュ(反動)が加速し、教育を含む各種関連予算も削られるなど、たいへん苦しい状況を迎えているとのことでした。ただ、Hopeもあると口々に語られていました。単なるキャリア教育や支援にとどまらず、社会的変化・多様性・テクノロジーの影響を踏まえたキャリア開発を模索する姿勢が強調されていたのが印象的でした。
(2) 2025年プレジデントのあいさつ
水野:2025年のプレジデントはマーティ・アポダカ(Marty Apodaca)さんです。冒頭のあいさつの要旨は次のような内容でした。
【あいさつの要旨】
開催地のアトランタは、「レジリエンス・正義・変革の歴史を持つ都市」です。特に、今回の大会が開催される6月は「Juneteenth(奴隷解放記念日)」の週で、自由と尊厳のための闘いを思い起こす特別な時期です。
大会テーマである「Autonomy to Change」は、「私たちの職業の変化」だけでなく、「私たち自身(人間、実践者、アドボケイト)としての在り方」にも問いかけるものです。単にキャリアの専門職として働くのではなく、社会変革の中でどう「違う形で現れるべきか」が問われています。キャリア開発は「単なる就職支援」ではなく、人間・可能性・正義を扱う営みです。
ここに集まった一人ひとりの存在・物語・仕事が、コミュニティを強くします。学び、つながり、前提を問い直し、未来のキャリア開発を目的と配慮をもって築きましょう。
水野:アトランタは、アフリカ系アメリカ人公民権運動の指導者として著名なマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師の故郷でもあります。キャリアの理論家であるサニー・ハンセン博士がおっしゃったように、私たちキャリアカウンセラーはチェンジ・エージェントです。マーティ会長も、「変革を推進していくために声を上げていかなくてはいけない。それがまさにアドボケイトであり、そのあり方を問われている時代である」と、オープニングのお話の中でしっかりと発信されていたのが印象的でした。DEIのバックラッシュが米国各地で起こっている今の時代だからこそ印象的だったとも言えます。
また、次の言葉がすべてを言い表しているようでした。皆さんはどのように感じられますか。
「キャリア開発は人や社会の自由・尊厳に深く関わる営みであり、AIや社会変革の真っただ中で、私たちは“仕事を超えて人を支える存在”として、新しい形で私たち自身がしっかりと社会の中で立ち現れる必要がある」
(3) 発表テーマのトレンド
大会は3日間、二つの大ホールと二十数部屋の会場で多様なプログラムが用意されていました。具体的には、基調講演、DEIシンポジウム、ラウンドテーブル、ミニセッション、ベンダーのプレゼンテーションなどです。大会前日にはワークショップを受けることも可能です。そうした中で、発表テーマとして多かったのは次の4つです。
- DEI(多様性・公平性・インクルージョン)
DEIシンポジウムが複数日程で組まれており、白人至上主義への対抗、女性のリーダーシップ、ラテン系や移民のキャリア適応など、多様な人々のキャリア課題が中心的テーマ。
- AIとテクノロジー
AI支援型キャリアカウンセリング、AIボット設計、ChatGPT活用など、AIをテーマにしたセッションが多数。
- レジリエンスとメンタルヘルス
キャリア相談を精神的健康とつなげたり、困難を乗り越える「レジリエンス」を重視したりするセッションが多かった。
- 教育・実務現場での応用
K-12、高等教育、企業・独立開業など、幅広い現場でのキャリア支援の実践共有が行われる。
3基調講演
今年は、Sonny Wongさん、Dr. Marian Higginsさん、JP Michelさんの3名が基調講演を行いました。そのうち、ここではSonny WongさんとJP Michelさんの講演概要についてご紹介いたします。
(1) Sonny Wong氏:AI時代におけるキャリア開発実践者
水野:Sonny Wongさんは、カナダ・トロント登録のサイコセラピストで、25年以上にわたって移民や失業者などさまざまな人々を対象にキャリア支援やカウンセリングを実践しています。大学でも心理療法とキャリア支援を組み合わせたテーマを取り扱っています。
今回は、キャリア開発実践者としてのご自身のキャリア・アイデンティティをどう舵取りするかというテーマでの講演でした。AIが台頭する中で、キャリア開発の実践者・支援者はAIに取って代わられるのだろうかという問いかけもありました。
【基調講演の要旨】
①現場の葛藤(ご自身の経験を紹介)
あるカウンセリングで、相談者にAIを使って即座に回答を提示したところ、相談者は満足そうに見えたが、実際には「人として理解されていない」と感じて離れていった。
②上記①に対する問い
私たちキャリア開発実践者の役割とは何か? 単なる「情報提供者」なのか? それとも「人の成長・自己理解・レジリエンスを支える専門職」なのか?
AIは私たちを補完するのか、それとも「人間的つながり」を侵食するのか?
③メッセージ
AI時代においてもキャリアカウンセリングの核心は「人と人とのつながり」。効率や技術革新に流されるだけではなく、相談者の「全人的な存在」を支える姿勢が求められる。AIの進化によりキャリア支援者の存在意義が問われている今こそ、私たちは自らの「キャリア・アイデンティティ」をどう確立するかを考えなければならない。
水野:Sonnyさんは、キャリアカウンセリングで一番重要なものは、AI時代においても「人と人とのつながり」ではないかと提示されました。相談時に口頭で言っていることだけがその人ではないはずです。その人の歴史、頭の先からつま先まで、体のぬくもりを含めたすべての「全人的な存在」を踏まえて、私たちは「キャリア・アイデンティティ」をどう支援するのか。支援者自身も人としてすべての存在で相談者と向き合っていくことによって、相手もさらに話したくなるなどの相互作用が生まれます。AIを否定しているわけではなくて、どう付き合っていくのかという方向で問いかけをされていました。
皆さんはどのようにお感じになりますか?
(2) JP Michel氏:“解決したい課題”でキャリア探索
JP Michelさんは、世界10万人以上の学生が活用する「Challenge Mindset」と「Challenge Cards」の開発者です。NCDA大会の基調講演者としてもほぼ毎年参加されています。今回は「Challenge Mindset」のお話で、非常に共感しました。
【基調講演の要旨】
水野:従来のキャリア探索は「職業タイトル(job titles)」に縛られてきました。しかしそれでは、変化の激しい社会において若者や求職者が可能性を広げることは難しいのではないかとMichelさんは言います。Challenge Mindsetは「社会の課題(challenges)」から出発してキャリアを考えるアプローチです。たとえば、気候変動を解決する、健康格差をなくす、テクノロジーと人間の共生を促す、など。 求職者が、自分が取り組みたい課題を軸にキャリアを設計することで、より主体的・創造的な選択ができるようになるということを事例と共に紹介されました
Challenge Mindsetとは、「社会の課題」から出発してキャリアを考えるアプローチと言われ、JP Michelさんが提唱しました。これを思いついたのは、若者に「職業の探し方」や「キャリアの捉え方」をインタビューした結果、現在の若者はこうした流れを望んでいるからだとのことです。
たとえば、「エンジニアになりたい」などは「職業タイトル」による仕事探しです。しかし、自分がどうなりたいかよりも、「世の中の課題を何とかしたい」「貧困・格差をなくしたい」「先進的なテクノロジーを学校教育に広げたい」などの「課題」を出発点とし、「その課題を解決するためには何の専門家になる必要があるか」「どんな仕事経験を積む必要があるか」という考え方を、今の若い人たちは求めているとのことでした。
JP MichelさんがSDGsも参考にして開発された「Challenge Cards」には、社会のさまざまな課題が載っています。たとえばメンタルヘルスのカードには、裏面に、世の中のメンタルヘルスの改善を図る職業が10~12種類ほど掲載されています。「どんな課題に興味があるか/注目しているか」を軸に職業を探索できるのです。
こうしたキャリア教育ができると、社会の負を嘆くだけでなく、「自分に何かできるのではないか」というエネルギーやパワーに変えていく方向でのキャリア支援をできるのではないでしょうか。まさにアドボカシーであり、チェンジ・エージェントとしての役割が果たせるように思います。
4AIにまつわる議論
水野:NCDA2025グローバルカンファレンスにおいて、AIやダイバーシティ推進にまつわる議論としてどのようなものがあったかをご紹介します。まず、AIにまつわる議論としては、次のようなものがありました。
- キャリア支援の実践でのAI活用
・AIを使ったキャリアカウンセリングやアドバイジング
相談者との関係性を損なわずにAIを活用する方法
ChatGPTやボット設計をテーマにした実践セッション
・AIを取り入れたキャリアレディネス教育
学生や社会人にAIを使ったスキル習得を支援する取り組み
- AIと人間性の関係
・「AIに仕事を奪われるのか、それとも補完するのか」という問い
・キャリア実践者の存在意義をどう再定義するかが重要視されている
- AIと公平性・多様性(DEI)
・AI活用が格差を広げるリスクや、逆に支援のアクセシビリティを高める可能性
・DEIセッションでも「AIが多様な背景の人にどう影響するか」が扱われていた
- AI時代のキャリアスキル
・「AI時代に必要な能力は何か」という視点で、
自律的キャリア形成(Autonomy)
レジリエンス(適応力・しなやかさ)
テクノロジーリテラシー
を育てる必要があるということや、教育方法などが紹介されていた。
水野:AIとの共生における「リスク」についてもご紹介しておきます。私自身、この大会で初めて一覧を知って勉強になりました。
2024年5月21日、EUで「欧州(EU)AI規制法」が成立しました。同法では、AIを使ったさまざまな社会インフラ、サービス、教育などのリスクを4段階に分類しています。そして、リスクの程度に応じて禁止事項、要求事項、義務が定められています。
(囲みなど、本文とは少し扱い変える)
【リスクの分類】
1)許容できないリスク
2)ハイリスク
3)特定の透明性が必要なリスク
4)最小リスク
水野:「許容できないリスク」は、人の生命や基本的人権に対して直接的に脅威をもたらすと考えられるAIシステムが該当します。
「ハイリスク」は、人の健康や安全、基本的人権、社会的/経済的な利益に影響を与える可能性があるAIシステムです。たとえば、製品のセーフティコンポーネントや、雇用・労働者の管理、警察や消防への緊急通報に関するAIシステムなどがしっかりと扱われないと、「ハイリスク」になります。
キャリア支援におけるAI活用は、おそらく「特定の透明性が必要なリスク」に該当するかと思います。深刻なリスクはないまでも、「どういう条件で誰がどう使うか」によってはリスクが考えられます。
なお、ChatGPTなどでの個人的な相談は「最小リスク」になります。
「欧州(EU)AI規制法」でインターネット検索すると詳細な情報が入手できますので、関心があればご参照ください。
プロモーションイベントの運営・実務を担当。趣味は読書といけばな。最近、涙もろいのが悩みです。
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