「関西ここからキャリア」レポート5~キャリア開発施策の立案・運用・振り返り・改善におけるデータ活用のポイント~
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2026.2.6
関西に拠点を持つ企業の人事担当者の方々に向けて、キャリア開発に役立つ情報をご提供するとともに、参加企業様同士で情報共有、意見交換をしていただく「関西ここからキャリア」。
2025年11月に開催した第5回セミナーのテーマは「キャリア開発施策におけるデータ活用」でした。
人的資本経営の推進が求められる中、データを活用した実効性の高いキャリア開発支援の重要性が高まっています。セミナーでは、押さえておきたいデータ活用の基本を学び、後半では参加企業の皆さまが感じている課題について、活発な議論と情報交換が行われました。
本記事ではその内容の一部を再構成してご紹介します。
【登壇者】
株式会社日本マンパワー HR法人ソリューション本部 コンサルティング部 浅香孝平
1なぜ今、キャリア開発施策におけるデータ活用が必要なのか
キャリア開発施策におけるデータ活用が、今、重要性を増しつつあります。
①人的資本経営の加速
一番大きな背景に、企業が「人材の価値」を定量的に把握し、投資対象として扱う必要性が高まっていることがあります。経営層が人材育成の成果を説明責任として求められる時代になってきています。
②キャリアの多様化と自律化
終身雇用や年功序列が崩れ、社員一人ひとりが自分のキャリアを考える時代になりました。多様なキャリアをどう支援していくか、キャリア開発施策の設計が重要になってきています。
③施策の属人化・成果の不透明さ
①②であげたような背景がありつつ、キャリア施策の実施が特定の担当者のスキルに依存し、担当者が変わると施策の質が変わってしまう「属人化」、キャリア面談や研修が「やって終わり」になりがちである「効果検証の不十分さ」が問題になっています。

また、今、人的資本経営の一環として、多くの企業で、組織への貢献意欲をはかる「エンゲージメント調査」を実施されています。しかし、現状把握は進んでいるものの、仮設を立てて実行・検証していくPDCAサイクルを回すのが難しいというお声をよく伺います。
それは、なぜなのでしょうか。
2定量・定性データを両方活用することで、精度の高い現状把握と施策立案が可能になる
(1) 定量データと定性データの違い
ここで、データ活用の第一歩として、データの種類について整理しておきたいと思います。データには大きく分けて「定量データ」と「定性データ」の2種類があります。
「定量データ(量的データ)」は、数値で表現できる測定可能な情報です。例えば、売上高、社員数、研修の受講時間、離職率などが該当します。収集方法は、データ集計やWebアンケートが中心です。
今、多くの企業で行われている「従業員エンゲージメント調査」の結果も、この定量データと言えるでしょう。
一方、「定性データ(質的データ)」は、数値で表現できない質的な情報です。製品やサービスへの評価や意見、志望動機、離職の理由、研修後アンケートの自由回答などが該当します。主に、自由記述、面談、インタビューなどによって収集されます。

(2) キャリア開発施策においてPDCAサイクルをまわしていくには?
定量データは、客観性が高く全体像を把握しやすい反面、数値の背景にある「なぜ」が見えにくい。定性データは背景や文脈を深く理解できる反面、一部の声を過大評価する「自己選択バイアス」のリスクがあります。
そのため、定量データ・定性データの両方を組み合わせて活用することで、より精度の高い現状把握と施策立案が可能になります。
キャリア開発施策においてPDCAサイクルを回していく一例をご紹介します。
(1)現状把握 従業員エンゲージメント調査・ストレスチェックの結果など、定量データを活用
(2)仮設検討 自社の傾向と他社データの比較
(3)施策実行
(4)キャリア施策の検証 定量データだけでなく、定性データも使って仮設検証

3定量データの代表例「従業員エンゲージメント」
人的資本を考える際、「従業員エンゲージメント」は重要な要素です。代表的な指標を2つご紹介します。
(1)eNPS(Employee Net Promoter Score)
「この会社で働くことを、親しい友人にどの程度勧めたいか」を0点から10点で評価し、9~10点を「推奨者」、0~6点を「批判者」として、その差分を算出する手法です。
eNPSは業界によって傾向に差があります。NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社の調査によると、調査した10業種の平均は-62.5。製薬業界が-55.4と比較的高い一方、クレジット業界が-70.8、スーパーマーケット・GMS(小売り)が-69.8と低い傾向が見られました。
業界の平均値を知っておけば、自社の結果の位置づけをより把握しやすくなります。
出典:NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社 eNPS℠業界別分析レポート
(2)ギャラップ社 「Q12(従業員エンゲージメントを測る12の質問)」
国際的に広く使われている測定手法です。「私は仕事の上で、自分が何を期待されているかがわかっている」「仕事上で、自分の成長を後押ししてくれる人がいる」といった12の質問で、定期的に調査することでエンゲージメントの変化を把握できます。
出典:Gallup Japan株式会社 たった12問であなたの職場の従業員エンゲージメント状態が分かる(Q12)
4定量データの見方・注意点
(1)ばらつきを見る
定量データを見る際の重要なポイントは、「平均値だけでなく、ばらつきを見る」という点です。
例えば、eNPSのスコアが同じ-26点の企業が2社あったとします。一方は中立者が多く正規分布している企業、もう一方は推奨者と批判者に二極化している企業。この2社では、同じスコアでも組織の状態はまったく異なります。
ばらつきまで見ることで、「なぜそうなっているのか」「どこに課題があるのか」をつかむヒントになります。
(2)注意点:「因果関係」と「相関関係」を区別する
以前、弊社・日本マンパワーが実施したサーベイデータにおいて、「組織コミットメント」(会社に対する愛着度)が、年代が上がるほど高くなる傾向が見られました。
しかし、これは「傾向」であり「因果関係」ではありません。「組織コミットメントが高いから在職年数が長くなる」という因果関係は残念ながら証明されていません。
データは様々な要因が複雑に絡み合っているため、背景にある真の原因の特定は、注意深く行う必要があります。
5データを見る目線の違い
人的資本データを活用する上で、もう一つ重要なのが「誰の視点でデータを見るか」という点です。
経営者であれば、他社と比べてどうなのか、自社の若手の特徴はどうなのかといった俯瞰的な視点で見ています。
部門長レベルになると、自分の担当領域でどうなのかという視点になります。
現場担当者の視点になれば、より狭い範囲で見ていくという目線の違いがあります。
人材開発担当者の役割は、こうした立場による視点の違いを理解したうえで、異なる視点をつなげることです。経営者の目線で語られたことを、現場の目線ではどう見えるのかというフィードバックをすることで、経営と現場をつなぐことができます。
6人的資本データが「通知表」になっていませんか
ここで、データ活用における重要な問題点について触れておきたいと思います。それは、「データが通知表になっていないか」という点です。
経営者や事業部の担当者の立場から見て、「あなたの組織の成績はこうです」と通知表のようにデータを渡されたら、良い結果ならともかく、良くない結果なら正直見たくなくなるのではないでしょうか。
本来、人的資本の情報開示は、経営戦略に沿って人的資本の投資効果や貢献度を可視化し、その価値を高めていくためのものです。それには、データを現場の視点を踏まえて解釈し、それを施策に落とし込んでいくことが非常に大切です。普段、現場と接している人事担当者や企業内キャリアコンサルタントがデータを読み込んで検討し、それを施策に活かしていくことが重要です。
7データ活用の実践例
実際にデータを活用している企業の事例をいくつかご紹介します。
【事例1】エンゲージメント向上に向けたPDCAサイクル
ある企業では、従業員のエンゲージメント調査や年代別のキャリア研修など、様々な取り組みを行っていました。経営層から「社員の自律的成長を会社の成長につなげる」という方針が示されたことをきっかけに、これまでの施策の効果を検証し、今後3年間の取り組みを計画的に進めるため、キャリア施策に特化したデータ収集を開始しました。
重要だったのは、全体の集計結果だけでなく、年代別、男女別、さらに技術者のデータを分けて分析したことです。こうした多角的な切り口でデータを見ることで、全体平均では見えてこない具体的な傾向が明らかになりました。
これにより、「どの年代に」「どのような施策が必要か」という仮説を立て、施策実行後の効果測定まで含めたPDCAサイクルを回せる体制が整いました。
【事例2】女性管理職比率向上への取り組み
別の企業では、女性管理職の比率が低いという課題を抱えていました。また、経営層にキャリア施策を提案しても、なかなか必要性を理解してもらえないという悩みがありました。
そこで、管理職の一つ下の層の女性を対象にサーベイを実施しました。「管理職になりたいか」という質問には約4割が「なりたい」と回答した一方、約6割が「なりたくない」と回答。さらに「管理職の打診があれば引き受けるか」という質問には、約半数が「引き受けてもよい」と回答しました。
データ分析の結果、主観的パフォーマンス(自己評価)が高い人ほど管理職志向が高い傾向が見られました。これらから、「女性管理職を増やすには、上司からの働きかけがカギになる」という仮説が導き出されました。担当者の方は、このデータを見て「まずはこの層から施策を打っていきたい」と具体的な方針を立てることができました。
8人事部門における「独自データ活用」の重要性
最後に、人事部門が独自のデータを収集・保有・活用することの重要性について触れたいと思います。人事部門が独自のデータを持つことで、以下のような効果が期待できます。
①施策の具体的な打ち手が見えてくる
全社のエンゲージメント調査だけでは、「人事として何をすればいいのか」が見えにくい場合があります。人事部門独自のデータがあれば、より具体的な施策立案が可能になります。
②経営者や管理職への説得力が高まる
経営者への施策提案や、管理職の協力を得る際に、データがあることで説得力や納得感が高まります。キャリア施策は人事部門だけでは完結できず、各現場の上司の協力が不可欠です。
人事部門独自のデータの活かし方としては、例えば、研修の冒頭で受講者にサーベイ結果をフィードバックし、自社や自部署のキャリア自律の状態を知ってもらう、あるいは、管理職に対して部署ごとのデータを提供し部下支援への動機づけを行う、といった活用法が考えられます。
人事部門が独自にデータを収集・活用することで、全社的なエンゲージメント調査だけでは見えてこない具体的な課題が明確になり、より実効性の高いキャリア開発施策の立案と実行が可能になります。
「関西ここからキャリア」は今回が最終回です。
全5回を通じて、関西の企業の人事担当者の皆様に情報共有と意見交換の場をご提供してまいりました。ご参加いただいた皆様に御礼を申し上げます。
第1回~第4回のレポートは以下からご覧いただけます!
本セミナーの内容が、各社のキャリア開発施策の推進に少しでもお役に立てば幸いです。
プロモーションイベントの運営・実務を担当。趣味は読書といけばな。最近、涙もろいのが悩みです。
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