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「これからのキャリア発達モデル~9つのテーゼ~」対話会~組織人事編~ 【前編】

調査研究

研究

2021.12.9

【記事 目次】 ※青字の部分をクリックすると、各章にジャンプします
1,「これからのキャリア発達モデル」が生まれるまで
2,対話会

3,「9つのテーゼ」の対話で見えてきた “組織でのキャリア支援課題・これからのキャリア支援の在り方”
テーゼ1 :自分の中の多様性・複雑性を大切にしよう
テーゼ2 :つながりを感じよう
テーゼ3 :年齢を超えよう
テーゼ4 :複線から伏線を育もう
■テーゼ5~9をご紹介する記事後編は、こちら

1,「これからのキャリア発達モデル」が生まれるまで

不確実で変化が激しく複雑性の高い時代。私たちは、自らのキャリアをどのように創っていくことができるでしょうか。
これは、キャリアのこれから研究所が設立以来考え続けてきた問いです。
2020年から始まったパンデミックは世界に衝撃を与え、日本国内でも、産業構造のシフトや雇用流動化の加速、DX化が進みました。これらの変化は組織や働く人に様々な影響を及ぼしています。
また、パンデミック前から、2019年経団連会長の「終身雇用の見直し」発言に象徴されるように、日本人の働き方は、新卒採用・長期雇用を前提とするメンバーシップ型雇用から変わろうとしていました。2021年3月末に国が発表した「第11次職業能力開発基本計画」にも、自律的・主体的、キャリア形成支援、キャリアコンサルタント、キャリアコンサルティングといった言葉が散見されます。
キャリアのこれから研究所では、このような変化が進む社会において、働く一人ひとりがどのように自分のキャリアと向き合い、自律的になれるのかを考えてきました。また、これまでのキャリア発達理論やキャリアモデルは、主に欧米の研究者によって提唱されたものであるため、これらが日本に生きる人々のキャリアに合ったものなのかという課題意識もありました。
そこで、日本文化や日本人の特性を鑑みた上で、日本におけるこれからの時代に適したキャリア発達モデルを研究するための研究会を2021年3月に発足、2021年9月に「これからのキャリア発達モデル~9つのテーゼ~」を発表いたしました。
「これからのキャリア発達モデル~9つのテーゼ~」は、自律的なキャリア形成において大切な9つのテーゼを提唱するものです。
■「これからのキャリア発達モデル~9つのテーゼ~」  詳細はこちら
9つのテーゼは、経営学、キャリア論、組織論、Z世代、人生100年時代のトレンド、日本マンパワーの30年以上の現場経験など様々な視点を下敷きに、研究会での議論を経て導き出したもの。今後は、調査を通じて効果を検証し、プログラムをつくり、多くのキャリア支援の現場で使っていただけるよう、発達モデルをブラッシュアップしていく予定です。
複雑で先が見通せない現代社会ではありますが、キャリアに迷い悩んだ時に、このモデルが、多くの人の脳裏に思い浮かび、キャリアを考えることが楽に、面白くなっていくことを願っています。

2,対話会

今回、企業人事部の3名にお集まりいただき、キャリこれ研究所所長の水野さんから9つのテーゼをご紹介。人事やキャリア支援の最前線にいる方々に、9つのテーゼをどう感じたのか、率直なご感想を伺いました。
【 今回対話会にお集まりいただいた3名 】
〇加藤陽介 かとうようすけ さん
(株式会社千葉興業銀行 人事部人材開発室)

〇上條昌彦 かみじょうまさひこ さん
(リコークリエイティブサービス株式会社 リコーキャリアサポート室室長)

〇Kさん (IT企業・人事本部・キャリアカウンセラー)

テーゼ1 :自分の中の多様性・複雑性を大切にしよう

「9つのテーゼ」の対話で見えてきた “組織でのキャリア支援課題・これからのキャリア支援の在り方”
ここから先は、9つのテーゼの解説(http://career-development-model.com/)も適宜参照しながら、お読みください。
加藤さん:「今は、多様性が大事にされる時代です。私も、このテーゼはその通りだと思いますし、自社の若手行員を見ても、“ダイバーシティ・アンド・インクルージョン”への理解度は高いように感じます。その一方で、若手行員の話を聴いていると、頭での理解と実際の行動にギャップがあるようです。
学生時代に気の合う仲間のみと過ごしていたため、自分と価値観の異なる人に出会うと接し方が分からず、心のシャッターが閉じてしまうという声を聞くこともあります。」
改めて、簡単なようで難しくもある、多様性と複雑性について触れて頂きました。
水野:「そうですね。確かに同じ価値観を持つ人たちの間で居心地の良さを感じる人もいると思います。一方で、“自分らしさとはこうだ”と決めつけ、いつの間にか、その呪縛から離れられなくなってしまう人も多いようです。本来、人は想像以上に多様で複雑で、かつ変化・成長していける存在です。
以前取材した玄侑宗久先生から、お経の中に“無相(むそう)の相を相として、行くも帰るも余所(よろ)ならず”という言葉があると聞きました。“私はこういう姿である”という私はない、無い姿を私として、どこへ行ってどういう私が立ち現れようと、それが面白いでしょう、という意味だそうです。
この無相の相から始まる言葉、Z世代のキャリア意識としてよく言われる「アイデンティティ・ノマド(自分のアイデンティティを1つに限定せず、多面的で良しとする)」と通じる部分を感じます。放浪者的なイメージというよりは、SNSの普及で社会との接点も多面的になった今、自分を限定せず、偽りなく本物でありたいという感覚だそうです。
また、複雑で多様な自分を感じることは、他者理解にもつながります。相手の中の多様性も認められると、年齢や性別などの一側面で人を決めつけることも減るのではないでしょうか。」

テーゼ2 :つながりを感じよう

上條さんには、コロナ禍の変化した働き方によって起きた“現場の課題感”について話して頂きました。
上條さん:「昨年入社した新入社員は入社式以降すべてオンラインで、心の準備もないままオンラインの働き方に入っています。職種によってはほぼ出社しない部署も。最近の面談では、このような働き方によるコミュニケーションの難しさ、課題感の声があがってきています。だからこそこの“つながりを感じよう”は、今直面している課題そのものだなと感じますね」
2020年から一気に各社でテレワークが加速し、働き方の模索をし続ける企業が多い中、このようなコミュニケーション課題はますます大きくなってきています。
水野:「“つながりを感じる”とは、メンタルヘルスやモチベーション、幸福感・ウェルビーイングにおいてもとても大切な要素です。自分自身を大切に感じるためには他者からアイコンタクトを受け、名前を呼ばれ、存在を受け入れてもらうという“かかわり”がとても大切になります。一方で、物理的な接点は多いのに、孤独に感じる人もいるものです。その際には、自分自身とのつながりをしっかりと取り戻す事で、他者とのつながりも感じられるようになります。

テーゼ3 :年齢を超えよう

Kさん:「年齢を超えようというテーゼと結びつくような社内制度が、当社でも始まっています」
Kさんの会社では、グループ内でさまざまな部署の求人が常に公開されている社内求人制度を導入しているとのこと。自ら手を挙げてチャレンジして異動する仕組みがあり、年齢は不問とのことですが、募集している部署側は、できれば若年層に応募してほしい、合格してほしいという本音もあるようです。
Kさん:「“年齢を超える”ということは、社員一人ひとりの意識が変わることと同様、組織内の人材採用の意思決定の権限のある社員の意識も変わっていくことが重要と考えています」
このテーゼについては、みなさんから課題感や賛同の声が挙がりました。
「年功序列がなくなっていく流れの中、この意識をどうやって持ち続けられるのかが課題ですね」
「ストレートにこのようなメッセージがあること、それがキャリアの発達モデルの中に組み込まれていることは大きいです」

テーゼ4 :複線から伏線を育もう

上條さん:「私自身、本業とは別に、地元の社会福祉協議団体のお手伝いをしたり、息子が入団したご縁で、少年サッカーチームで障がい者クラスのコーチをしたり、いくつかキャリアの複線を持っています」
ご自身がまさに複線を育んでいる上條さん。
Kさん:「複線は、上條さんのように、体験しないとわからないかもしれませんね。IT業界では、短納期で難易度の高い仕事があり、その結果、どうしても目の前の仕事に追われてしまう社員が一定数います。そのような状況でも、現業をしながら研修を受けて異なる部署の社員と話したり、他チームと一緒に仕事したりと、短時間でも“視点を変える”と、複線を感じられるかもしれないと思いました」
水野:「思いがけない異動であっても、自分の理想とした単線じゃなかったとしても、この経験を通して得られたものは何か?という視点に立てるかどうかが大切なのかもしれません。スティーブ・ジョブスの言う“コネクティング・ドット”のように、点であったものがあとから振り返ると線になって繋がっているということもありますね。
“複線”とは、自ら意識して越境経験に踏み出してみるということや、会社員以外のライフロール(人生役割)を広げるという意味もありますが、偶発的に起こった出来事からであっても、それらを自ら“伏線”へと意味づけていく意識も大切だと考えています。ご自身の状況を振り返り、それぞれの複線を伏線へ繋げて意味を育むことは、内的キャリアの充実度を高める上でも大切であることが分かっています。」
■テーゼ5~9をご紹介する記事後編は、こちら
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