【キャリこれ所長より皆さまへ vol.10】IDGs(内的成長課題)を通して世界とつながる
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2022.6.30
「キャリアの“これから”」に対する私の想い・視点・問いを、定期的に記事としてお届けしています。
*キャリこれ所長 水野みちのプロフィールはこちら
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パンデミックに続き、今は戦争という世界を身近に感じることが増えてきました。心穏やかではない方も多いのではないでしょうか。じつは私も、未来に不安を感じ、倦怠感を持ちやすくなっている気がしています。でも同時に、子供たちの笑顔や安心が奪われないことを強く願っている自分にも気がつきました。また、戦争の巻き起こす数々の哀しみと対になるように、日常のふとした幸せを、より意識するようにもなりました。
心揺さぶられる出来事は、大切な何かに気づくきっかけにもなることを実感しています。
今回の所長だよりでは、SDGsと呼応するようにスウェーデンで生まれたIDGs(Inner Development Goals:内的成長課題)についてレポートさせて頂きます。
気候変動などもそうですが、身近な日常の判断においても「複雑で解決が難しい課題」が増えています。物事には複数の見解や、お互いにとってのそれぞれの正義があるということが顕在化してきたとも言えます。そんな「複雑で解決が難しい課題」への向き合い方を考える時にIDGsの話が参考になるのではないかと感じ、取り挙げる次第です。
気候変動などもそうですが、身近な日常の判断においても「複雑で解決が難しい課題」が増えています。物事には複数の見解や、お互いにとってのそれぞれの正義があるということが顕在化してきたとも言えます。そんな「複雑で解決が難しい課題」への向き合い方を考える時にIDGsの話が参考になるのではないかと感じ、取り挙げる次第です。
■IDGsについては、去年2021年の立ち上げイベント「マインドシフトMindshift」についても、レポートを書いています。ぜひご覧ください!
レポートはこちら
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【記事 目次】 ※クリックすると各章にジャンプします
1、IDGsの新カテゴリー:5つのカテゴリーと23のサブカテゴリ―
2、IDGsサミット
3、ピーター・センゲ博士による講話
4、キャリア支援者にとってのIDGs
1、IDGsの新カテゴリー:5つのカテゴリーと23のサブカテゴリ―
2、IDGsサミット
3、ピーター・センゲ博士による講話
4、キャリア支援者にとってのIDGs
1、IDGsの新カテゴリー:5つのカテゴリーと23のサブカテゴリ―
IDGsのワーキングチームは、数か月かけて有識者の意見を集め、調査をし、2021年秋にIDGsの改訂版(完成版)を発表しました。内的成長課題は、5つのカテゴリーと23のサブカテゴリーで成り立ちます。(以下の翻訳はSoLジャパンの有志によるものです)
①ありかた~自己との関係性
1番最初に「ありかた~自己との関係性」が来ているのがとても印象的です。「ありかた」は透けて見えるものだからです。また、私たちの判断を左右するものでもあります。私たちは、不都合な真実があると、自分を偽ったり、正論のベールで取り繕ったり、ごまかしてしまうことがあります。そのありかたでは、意図せずとも問題に加担してしまうことになります。自分自身の内にある「誠実さ・正直さ」に問いかけ、探求を受け入れるオープンな姿勢であること。その大切さが強調されています。
②考えること・認知スキル
次が、認知スキル(Cognitive Skills)です。ものごとを認識する範囲や深さ、多様さです。これは、スキルとして身に付けられるものです。「本当にそうだろうか?違う考え方はないだろうか?」「相手の世界から物事を見たら何が見えるだろうか?」「ここには、どんなパターンがあるか?」「望む未来から逆算してみると、今、何をすべきだろうか?」など、考える切り口や視点を持つことで、認知スキルが高まります。
③つながりを意識する-他者と世界に関心を持ち配慮する
持続可能な社会になる上で、「つながり」を意識することはとても大切です。日本において昔ながらに食卓で言われる「ごはん一粒一粒にお百姓さんの姿を想像しながら感謝の気持ちでいただきなさい」という話に通じます。関係ないと思っていた他人事の世界を自分ごとにするということです。自分ごとの世界を広げるには、自分自身にも共感し、自分とつながることも大切だという視点が含まれています。
④協働すること-社会的スキル
大きな規模の問題に取り組む際、「協働」は不可欠です。コミュニケーション・スキルとは、単に話上手という意味ではありません。相手の話を深く聴き、対立に対しても、誠実かつ建設的な関係を育む力です。協働において、信頼関係はとても大切です。さらには、人々を動かすような「ひらめき」を与えられることも同じく大切です。人を恐れと不安で操作して動かすのではなく、共通の目的に対して「いいね!」「やってみたい!」と思って動き出したくなる気持ちから行動することです。
⑤行動すること-変化を推進する
古いパターンを打ち破るためには、行動が必要です。行動を起こすためは何が必要でしょうか?ここでは、勇気・創造性・楽観性・粘り強さが挙げられています。
いかがでしょうか。かなり項目も多いので、分かりにくいと感じた方もいたかもしれません。
又は、早々と腑に落ちた方もいるのではないでしょうか。IDGsはこれからの時代に不可欠な成長指針です。気候変動に限らず「複雑で解決が難しい課題」への向き合い方を考える時にも参考になるのではないかと思っています。例えば、「営業」対「開発」の対立が生まれた時、誰も悪意がないのに物事が悪い方向へ進んでしまう時、など。そして、このような柱を立てることで、手法などの知恵も集約されます。
又は、早々と腑に落ちた方もいるのではないでしょうか。IDGsはこれからの時代に不可欠な成長指針です。気候変動に限らず「複雑で解決が難しい課題」への向き合い方を考える時にも参考になるのではないかと思っています。例えば、「営業」対「開発」の対立が生まれた時、誰も悪意がないのに物事が悪い方向へ進んでしまう時、など。そして、このような柱を立てることで、手法などの知恵も集約されます。
2、IDGsサミット
2022年4月29日、IDGs Summitと称する世界大会(リアルとオンライン)が開催されました。
前回同様に、日本でも有名な、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン博士、ロバート・キーガン博士、MITの上級講師オットー・シャーマー博士などが講演されました。
今回は、講演だけではなく、耳や視覚を通じて心が震える音楽や、目に見えないものを見えるようにする美しく悲しい詩、アハ体験につながるワークなどが用意されており、五感も使ってIDGsのエッセンスを味わう工夫がなされていました。これこそまさに、日本ではまだなじみの薄い、「芸術を通じた学習」に触れた気がしました。人生の法則や知的なことがらを、冷たい概念としてではなく、まずはできるだけ身体で感じ、叡智に熟成させていくことを大切にしているようでした。
3、ピーター・センゲ博士による講話
今回、最後に焦点を絞ってみなさんと共有したいのは、サミット後の2022年5月25日に開催されたピーター・センゲ博士によるフォローアップ講話です。ピーター・センゲ博士は、「学習する組織」、「システム思考」などを提唱し、世界のビジネスリーダーに大きな影響を与えたMITの教授です。
ピーター・センゲ博士の講話の後半部分(22:34より)を以下に訳しました(一部、言葉に悩んで意訳も入っていますが、どうぞご了承ください。)
私たちがキャリア開発でも大切にしている、内と外、個と全体、「共に」という考えに通じる内容でした。
私たちがキャリア開発でも大切にしている、内と外、個と全体、「共に」という考えに通じる内容でした。
●IDGsの価値
私たちは今、とてつもない不均衡と課題を前にしています。気候変動は、数年で巻き戻ることはありませんし、数十年かけても難しいでしょう。だからこそ、バランスに向けた軌道修正の旅路を私たちにとってより価値あるものにすることが大切です。誰にとっても大切なことに対し、各国が共に、協働意識を持つということに価値があると思っています。
私たちは今、とてつもない不均衡と課題を前にしています。気候変動は、数年で巻き戻ることはありませんし、数十年かけても難しいでしょう。だからこそ、バランスに向けた軌道修正の旅路を私たちにとってより価値あるものにすることが大切です。誰にとっても大切なことに対し、各国が共に、協働意識を持つということに価値があると思っています。
今までどの国もこのような経験をしたことがありません。もちろん何よりも、行動を起こして気候変動改善に向けた目標数字を達成すことは大切です。しかし、IDGsは、その私たちの旅路に価値を与えてくれるものなのです。結果だけが褒美ではなく、IDGsを通して内面も豊かになることに価値があると思います。~~中略~~
23:58~
●全体性 ~内と外の境界は無い~
「綺麗な言葉が先行して広がることを良しとは思っていません。言葉が独り歩きすると意味を失います。システムチェンジとかっこよく表現して終わらせるつもりはありません。~中略~
●全体性 ~内と外の境界は無い~
「綺麗な言葉が先行して広がることを良しとは思っていません。言葉が独り歩きすると意味を失います。システムチェンジとかっこよく表現して終わらせるつもりはありません。~中略~
私の言いたいことのコアエッセンスをまとめると…私たちは、「自分たちをごまかす」のは終わりにしなければならないということです。傷口に絆創膏を貼ってごまかすのは終えましょう。私たちは今、深い課題を抱えているという事実と向き合わなければなりません。
その課題とは、今の私たちには、「共により良く生きる方法」が分からないということです。私たちには、私たちがより良く機能するための深い構造が必要です。新しい価値、新たなやり方が必要です。GDPが今後指標として残るかは分かりませんが、社会をまとめるにはクレイジーなものだということは分かっています。なぜなら、GDPは人や人々のウェルビーイングを考慮していない数値だからです。
個人にとっても集団にとっても、ウェルビーイングは重要なシステミックな概念です。 ご存知のとおり、西洋医学の世界には「健康」について合意された概念がありません。一方、伝統的な東洋医学の世界には、健康とは「自らのバランスを取り戻すこと」という発想があります。どれだけ回復できるか、なのです。これは大変よくできた健康の定義です。私たちが、どのように健康やウェルビーイングを捉えるかは、単にゴールではなく、どれだけ私たちが「回復できるか」なのです。
システム的に見るとは、ものごとを深く考え、表面上の出来事だけでなく、外側と内側が常につながっていることに意識を向けることです。「常に、つながっている」のです。
外側で起こっていることは、内側ではじまっています。内側で起こっていることは、外側の出来事によって、持続・強化されます。ある意味、内と外なんて境界は、じつはないのです。全体(Whole)があるだけとも言えます。
外側で起こっていることは、内側ではじまっています。内側で起こっていることは、外側の出来事によって、持続・強化されます。ある意味、内と外なんて境界は、じつはないのです。全体(Whole)があるだけとも言えます。
今、部屋の中、あなたの周りを見渡してみてください。あなたの周りで見えている物の中で、どこかの誰かの発想から生まれていないというものはありますか?
内側が外側をつくり、外側がまた内側に影響を与える、内側と外側はつながっているのです。v人生において、全体性からは逃げきれません。
内側が外側をつくり、外側がまた内側に影響を与える、内側と外側はつながっているのです。v人生において、全体性からは逃げきれません。
人類は、狩猟生活から、発展し、農業をはじめ、その後、都市に移り住み、生命に内在する全体性から距離を取ってきました。
生物として健康かどうかは、集合体として健康であることです。私が器用な指先を持っているか、健康な肝臓を持っているかとか、たくましい心臓を持っているなどということではないのです。
生物として健康かどうかは、集合体として健康であることです。私が器用な指先を持っているか、健康な肝臓を持っているかとか、たくましい心臓を持っているなどということではないのです。
生物の健康とウェルビーイングは、生物としての「機能」です。同じように、私たちの集合体としての健康やウェルビーイングも、家族、コミュニティ、社会の機能が大切です。
●システムズシンキング(システム思考)
システムズシンキング(システム思考)は、一歩下がって、私が言うところの「自然な考え方」に立ち戻ることを示します。私たちは、システム思考を子供たちに対し、ツールを使って教えてきた豊富な経験があります。子供たちの飲み込みは早いです。一つ問題を上げるとしたら、学校で教えると、子供の方が先生よりも早く理解するために先生が脅かされることくらいです(笑)。
システムズシンキング(システム思考)は、一歩下がって、私が言うところの「自然な考え方」に立ち戻ることを示します。私たちは、システム思考を子供たちに対し、ツールを使って教えてきた豊富な経験があります。子供たちの飲み込みは早いです。一つ問題を上げるとしたら、学校で教えると、子供の方が先生よりも早く理解するために先生が脅かされることくらいです(笑)。
子どもたちは、家族の中で育ち、公園で遊び、コミュニティの中に生きています。あらゆる場面で、システムに、自然に、さらされているのです。システム思考とは、相互関連性に目を向けることです。変化のプロセスの中で、全ては連鎖しています。
これはシステムシンキングの中での2つの柱です。つながっていて、継続的に変化する。なんと、すべての4,5歳の子供はこのことを感覚的に分かっています。この考え方は「自然」なのです。
これはシステムシンキングの中での2つの柱です。つながっていて、継続的に変化する。なんと、すべての4,5歳の子供はこのことを感覚的に分かっています。この考え方は「自然」なのです。
●気候変動とシステム思考
そして、様々な時間軸で物事を見ることが可能になります。短いスパンで気候変動やサステナビリティを見る上で、10年単位の視点が重要だったりもします。また、中期視点で2050年までを見ることも大切です。または、この先の世紀を考える必要もあります。私がここでお伝えしたいのは、システム思考を通して私たちは、複数の時間軸を同等に重要だと見ることができるのです。そして、それらがどう相互に影響し合うかどうかも。
そして、様々な時間軸で物事を見ることが可能になります。短いスパンで気候変動やサステナビリティを見る上で、10年単位の視点が重要だったりもします。また、中期視点で2050年までを見ることも大切です。または、この先の世紀を考える必要もあります。私がここでお伝えしたいのは、システム思考を通して私たちは、複数の時間軸を同等に重要だと見ることができるのです。そして、それらがどう相互に影響し合うかどうかも。
私は、もし気候変動において前進し、世界的にCO2の排出を抑えることができれば、大きなチャレンジは2030年から2050年の間だと思っています。この先、20年、30年はさらなる恐怖が訪れるでしょう、特に既得権益者にとって(既得権益者=今、恩恵受けている人たち)。今こそ、複数の時間軸に目を向け、内側と外側に注目するべき時がきています。
少し遠回りした話に聞こえたかもしれませんが、なぜ私がIDGsを大切に思っているかをお伝えしました。外側と内側は、相互に影響を及ぼし合い、相互依存関係にあり、両方大切なのです。互いがないと存在しません。そうではないという考え方は幻想です。クリエイティブな商品やサービスを生み出す組織にしようと思うなら、従業員自身がクリエイティブな組織環境に置かれ、従業員が自分たちをクリエイティブだと、貢献していると、内的にも感じられることが大切です。内側と外側はつながっているのです。
システムへのアウェアネス(認識)は、IDGsにおいて重要です。なぜなら、システムは、持続可能な未来のためにSDGsを現実的に達成させるためには、私たちのパーソナルな、そしてインターパーソナルな変化の旅が不可欠だからです。
いかがでしたでしょうか。センゲ博士の講話は、大きな課題を前に、私たちの意識をとてもクリエイティブにしてくれるものでした。
また、システム思考は自然な考え方という視点もすごく納得がいきます。ものごとは、単発で存在するなんて言う方が不自然であり、つながりの中で成り立っているのです。
また、システム思考は自然な考え方という視点もすごく納得がいきます。ものごとは、単発で存在するなんて言う方が不自然であり、つながりの中で成り立っているのです。
4、キャリア支援者にとってのIDGs
センゲ博士のメッセージは、SDGs活動家のための話だけではなく、まさにキャリア支援者にとっても大切だと思っています。キャリア支援者も、この内側と外側のつながりに意識を向けることは、不可欠な視点です。様々な次元の内側と外側がありますが、つながっているということを「認識」できるかどうかが大切です。
キャリア支援において、相談者自身が外側に向けて感じていることから、次第に内側で何を必要としているかが見えてきます。また、内側で感じていることを誇りに思えると、それを外側に実現しようという意識が生まれます。
相談関係において、キャリア支援者が目の前の相談者を「不足している」と見ている時、キャリア支援者という外側の存在によって、相談者はずっと自分を不足していると見るでしょう。一方、キャリア支援者が目の前の相談者の中に「十分な存在」を見ることが出来る時、相談者は自分への充足も得られます。そして、充足からは希望が生まれ、内と外のつながりが生まれてきます。
内と外が相互に影響を及ぼすものであると認識した際、みなさんは、どのようなあり方で目の前の人や周囲、家族や未来の子供たち、そして世界とつながりたいでしょうか?
IDGsはまだまだはじまったばかりです。ご興味ある方は、ぜひお問い合わせください。
キャリアのこれから研究所・所長、日本マンパワー・フェロー、JCDA認定スーパーバイザー・CDAインストラクター。趣味は物語づくり、いろんな人と会っておしゃべりすること。