やりちらかす中で、新しいキャリアの芽が育つ【後編】
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2023.3.31
大きな社会的テーマとなって久しいミドルシニアの働き方。定年や役職定年・・・そんな既成のルールを軽々を超えた、一人ひとりの働き方やキャリアが生み出されてこそ、組織や社会はもっとイキイキしたものになる。そんな「三方よし」の実現を目指してキャリアのこれから研究所が立ち上げた「超年齢プロジェクト」。その理念を体現されている方々にインタビューさせて頂くシリーズがスタートしました。
第1回は、キリングループの企業内大学キリアンアカデミアの事務局メンバーとして精力的に活躍されている森美江さんです。男女雇用機会均等法第一世代としてのご苦労を乗り越えた「したたかな」キャリア戦略をぶっちゃけて頂きました。
40歳の時にキャリア研修を受けて自分に突出しているものがないと感じた森さん。「このままでは定年まで働けない」とショックを受けたといいます。そこからさまざまな学びや行動を開始しました。
ここから後編をお届けします。
目次
■執筆
酒井 章(キャリアのこれから研究所プロデューサー)
緒方 雪絵(株式会社日本マンパワー マーケティング部)
酒井 章(キャリアのこれから研究所プロデューサー)
緒方 雪絵(株式会社日本マンパワー マーケティング部)
4.大きな成功は狙わずに「信頼貯金」を増やしていく
(定年後のキャリアに不安があるなど)同じような想いを抱きながら、なかなか行動できない人と、森さんを分けるものは何でしょうか?
「バッターボックスに立てるか」だと思います。私は、キリンアカデミア(キリングループの企業内大学)で、ミドル社員向けのセミナーを企画・開催しているのですが、参加者の方は、皆さん真剣に聞いてくださいます。また、アンケートでも「すごく参考になりました」と書いてくださいます。ただ、実際にどこまで一歩が踏み出せているのかな?という疑問はあります。
同期社員や年齢の近い社員と話をする中で感じたのですが、心の中に「失敗したらどうしよう・・・」という不安があるんだと思います。また、プライドもあるのかもしれません。
「部長や課長の自分にふさわしいセカンドキャリアがあるはず」とか、「副業をしたら、周囲からどう思われるだろう」と他人の評価を気にしている人が多い気もします。自分が好きなら、何でもやればいいと思うんですけれども・・・。
最初から大きな成功を狙わなくてもいいと思うんです。まずは誰かの役にたつことを考えてどんどん「信頼貯金」を増やしていくのも1つの在り方(戦略)だと思います。
基本、頼まれたら断りません。コミュニティやつながりは大事にしています。アカデミアの活動について「そんな一銭にもならないことをよくやるね」とか「忙しいのに何のメリットあるの」と言われることもあります。人がいいからでは決してなく、やって良かったと思えることがほとんどだと経験上分かっているからです。
人との窓口になってご縁ができると、後々、アカデミアでの企画になったり個人的にも良い繋がりが生まれたりするんです。結局、一番得しているのは私だなという自負はあります。そういう意味では腹黒いと思っています(笑)
5.企業内大学キリンアカデミアで若手との活動が生み出したもの
面白いですね。境界を超えて人と人や組織同士を結びつける「バウンダリースパナー」がこれからの望ましい人材となる、という話を思い出しました。
アカデミアに参加される時に、若手の中に飛び込むことができた理由は何だったと思われますか?
最初は、アカデミアを立ち上げた若手メンバーが関西風に言うと「イキっている(偉ぶっている、調子に乗っている)」ようにも見えて、ちょっと苦手意識がありました。
ある時、「片付けパパ」という、家電メーカーに勤めながら副業として片付けをテーマにキャリアの話をされる方と知り合って、「大手企業のサラリーマンがこんなことができるのはすごいな」と感銘を受けました。
機会があったらキリンでもセミナーをして頂きたいと思ったのですが、イケイケなアカデミアの人たちに頼めないな、と尻込みしていました。そのような時、副業で活躍している同期とキャリアについて話す機会があったんです。
「森さんは何がやりたいの?」と聞かれて「シニア版アカデミアのようなキャリアセミナーを定期的にやりたい」と話したら、「それならまずはアカデミアのメンバーにセミナーの立ち上げ方を教えてもらったらいいよ」とアドバイスしてくれました。
そこで、一番優しそうで相談にのってくれそうなメンバーに連絡したら、すぐ「1回話しましょう」という返信をくれました。その彼が、「せっかく自分達が苦労して立ち上げた場があるのだから、一緒にやりませんか。森さんが再度苦労して立ち上げる必要はないと思います。」といってくれたんです。そして、持ち込み企画としてキリンアカデミアで「片付けパパ」のセミナーを実施したら300人近い申し込みがあり思いのほか好評でした。事後アンケートで「こんな話が聞きたかった」という声を複数いただき、調子に乗ってキャリアセミナーをシリーズ化していきました。
若い方々もミドルやシニアを巻き込みたいというニーズがあったんでしょうか?
あったようです。キリンアカデミアは2015年入社の4名が2019年に「キリンで挑戦風土を作りたい」というビジョンを掲げて活動していました。その様子を面白く思っていなかったミドル社員から「とんがって会社を変えようとしているのはわかるけど、そのうち君たちも俺たちみたいに丸くなっていくんだよ」と言われてショックだったようです。
また、私が定期的にミドルシニア向けのセミナーを開催するようになって、周囲のミドルシニアから「キリンアカデミアのセミナーに申し込んだら面白かったよ」と言ってくれるようになり、自分たちへの風当たりが弱くなったと感謝されました。
昨年のキリンアカデミアの参加者について、2000年以前の入社社員が46%と半数近くを占め、参加者の入社年次の1位2位が1991年と1992年入社です。若手が若手社員のために立ち上げたキリンアカデミアですが、気がつけばボリュームゾーンのミドルシニア社員も参加できる企業内大学に育っています。
アカデミアの中で若手の皆さんとミドルの皆さんが交流したことで何が生まれましたか?
一番の成果は、昨年開催された「ONE JAPAN」の有志活動総選挙で優勝したことです。「ONE JAPAN」は、パナソニック、トヨタ、NTTグループなど55の大手企業の有志団体が集う実践コミュニティで、この1年間の活動内容を共有し審査するのですが、トップの評価をいただき、私については個人部門で「MVP」をいただきました。
有志活動というと若手社員のイメージがあるなか、50代の社員が一緒に活動していたことに驚かれました。巻き込んでくれたメンバーに感謝しかありません。
またアカデミアをきっかけに、キリングループ社員が自主的にキャリアコンサルタントの資格に挑戦しており、現在20名以上のキャリアコンサルタントが誕生しています。ミドルシニアだけでなく、「部下を持った時に備えて」と20代・30代の申し込みもあります。
「実はアカデミアをきっかけにキャリコンの資格を取得しました」と報告してくださることがあり、本当に嬉しく、やりがいを感じます。
後輩世代と交流する秘訣は何だと思いますか?
実は、よくわからないんです(笑)。去年、彼らから一緒にアカデミアの事務局を手伝ってくれませんか、と声をかけられました。それまでは、事務局に企画を持ち込んでいました。
彼らも多分本業が忙しくて手が足りないんだと思うんです。私としても対外的には事務局の肩書があった方がセミナーの交渉をやりやすいと思い、利害が一致しました。
「一応50代後半だけどいいですか?」とメールを送ったら「僕は25歳ですけど年齢なんて関係ありません」という返事が来て。息子みたいな感じです(笑)。事務局メンバーになってからは毎月打ち合わせに参加しています。みんな、すごく会社を変えたい、もっと風通しを良くしたいという想いに溢れています。事務局メンバーが取り組むテーマはそれぞれ違います。新規事業を中心にやっている人もいれば、後輩や新入社員が職場に早く溶け込めるようにとメンタリングのマッチングをやっている人もいます。営業職の女性メンバーは、もっと女性が営業に興味を持って働ける環境づくりに取り組んでいます。有志活動なので、メンバー各自の想いを大切に活動しています。
6.「やり散らかす」ことで自分がやりたいことに近づく
森さんのアクションし続ける力は、どこから生まれてくるんでしょうか?
失敗を失敗とは思っていないことでしょうか。続かないものは、ご縁がなかったと思って「じゃあ、次はこっちに行こう」みたいな感じです。
キャリアに悩んでいる、モヤモヤしているミドルシニアの方々へのメッセージをお願いします。
「やり散らかしてみませんか!小さな失敗も沢山あると思いますが、気にしなくていいんですよ。」と自分の体験から伝えたいです。
きっと、失敗を繰り返し、やり散らかすことで、取捨選択が進み自分がやりたいことに近づいていくんだと思います。
より正確に言うと、「失敗」でもなくて、芽が出る(自分のやりたいことが分かってできるようになる)までには当然時間もかかるし、どこから芽が出るかもわかりません。だから「やり散らかした方がいいよ!」って言いたいんです。社会の変化のスピードが激しいので「決めたことだから」とやり続ける方がむしろ危険だと思います。
私が今までチャレンジしたものの中にも、上手くいっていないものもたくさんあります。タネは撒いて、芽が出るのを待っているものもあります。
年初に「今年はこんなことやりたい」と10個目標を立てたのですが、既に辞めたものもあるし、新たに企画して副業申請したものもあります。10個のうち、形になるものは1個か2個ですね。常時5つくらい構想をあたためています。
今年の新たなチャレンジの目玉は、研修会社が運営する「昼スナック」で月1ママとしてカウンターに立つことです。自分に集客力があるのか、定期的にお客様が来てくれるのか、不安しかないですが、まずは副業で試してみたいと考えています。
話してみて感じられたことはありますか?
本当に気持ちよく喋らせていただいてすいません(笑)。社員がやりたいことを後押ししてくれるいい会社です。
【編集後記】
森さんは、私にとって「こうなりたい」と思うロールモデルの一人です。
というのも、森さんは、私が社会人になって以降、初めて出会った同じ大学同じ学部出身の先輩で、かつ、同じキャリアコンサルタント有資格者。お会いできる機会は多くないものの、心の中で勝手にロールモデルにしていました 笑)。
今回、取材に同席し、森さんのキャリアヒストリーやチャレンジの源泉にあるものを伺えて本当に良かったです!
特に印象に残ったのは、森さんが40歳時のキャリア研修で「キャリアアンカーが見つからなかった」というエピソードです。
●変化の激しい現代における キャリアアンカー理論の限界
ご存じの方もいらっしゃると思いますが、実は最近、キャリアアンカー理論(1978年、シャイン博士が提唱)の限界が言われているんです。変化の激しい現代、キャリアアンカーに固執しすぎると、考えや行動が制限され、キャリアの可能性を逆に狭めてしまうと。
近年、「偶然に対してポジティブなスタンスでいる方がキャリアアップにつながる」というプランド・ハップンスタンス理論(1999年、クルンボルツ博士等が提唱)が改めて注目されています。
プランド・ハップンスタンスとは、日本語に訳すと「計画された偶然」。好奇心、持続性、柔軟性、楽観性、冒険心という5つのスキルを身につけることで、偶然をキャリアの機会として利用できるとする理論です。
●森さんが実践されている5つのスキル
森さんのキャリアヒストリーを伺い、森さんは、まさに偶然をキャリアの機会にする5つのスキルを十全に発揮され、「計画された偶然」を沢山手にされているように思いました。
例)
・持続性:学びを習慣づけている。セミナーの企画を通じて人と人を結び続け、信頼貯金を殖やしている
・柔軟性:説明会で講座が満席と言われたら、別のルート(会社の営業担当)を探してみる。入りやすそうな入口(優しそうな人)に、まずアプローチする
・持続性:学びを習慣づけている。セミナーの企画を通じて人と人を結び続け、信頼貯金を殖やしている
・柔軟性:説明会で講座が満席と言われたら、別のルート(会社の営業担当)を探してみる。入りやすそうな入口(優しそうな人)に、まずアプローチする
「人と関わる仕事がしたい」という軸を大事にし、そこを起点に、色々な分野に好奇心や冒険心をもってチャレンジされている森さん。
一方、私はと言えば、「失敗したらどうしよう」となかなか新しいチャレンジができず、計画が崩れて何かイレギュラーが起こると、その場で固まり動けなくなってしまうことが、いまだによくあります(笑)。でも、そんな時、森さんが実践されている「別ルートを探す」「入りやすい入口を探す」を、ちょっとやってみようと思いました。
さて、最後までお付き合いくださり、ありがとうございます!今回の超年齢プロジェクト インタビューシリーズでは、年齢の枠にとらわれずイキイキ活躍されている個人の方に焦点を当てて、これからも記事をお届けします。
「これ、私にも当てはまるし、参考になったな」とか、「あ、これ、私もやってみようかな」と思えるような記事をお届けできるよう今後も頑張ります!
長らくキャリアカウンセリング・CDAの広報として活動、現在はコーポレートサイトのリニューアルに挑戦中。集いと人文社会学と仏像巡りを好む。