(後編)アメリカにおけるキャリア支援の最新情報~NCDA2025グローバルカンファレンス参加報告~
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2026.1.15
2025年6月、米国アトランタで全米キャリア開発協会(以下「NCDA」という)の年次大会「グローバルカンファレンス2025」が開催されました。
日本マンパワーからはキャリアのこれから研究所所長の水野みちが参加。2025年9月27日(土)には、大会参加報告会をオンラインで開催。米国のキャリア支援の現場や最新の理論、テクノロジーの活用事例、グローバルな視点などをご紹介しました。本記事では、大会参加報告会の後半パートについてお伝えいたします。
前編は下記からご覧いただけます。※別ページに遷移します。
5ダイバーシティ推進にまつわる議論
水野:ダイバーシティやDEI(多様性・公平性・インクルージョン)などに関しては、過去に私も記事を書いていますのでご参照ください。
水野:最近、米国ではDEIにBelonging(安心できる居場所、心理的な所属感・一体感)とAccessibility(利用しやすさ、使いやすさなどのアクセスしやすさ)が追加されています。ここではそれらを総称して「DEIBA」(ディーバ)と呼びます。
NCDA2025グローバルカンファレンスでも、いくつかのチャレンジングなテーマでプレゼンテーションが行われていました。主要なテーマを挙げると以下のようになります。
【DEIBAの主要テーマ】
- 構造的課題へのチャレンジ
・「職場におけるホワイト・スプレマシー(白人至上主義)をどう打ち破るか」
→カウンセラーや教育者へのトレーニング方法、支援実践への含意を議論
・「障害を持つ学生やクライアントを支えるための包括的な実践」
→バリアを取り除き、支援をよりアクセスしやすくする工夫を紹介
・「キャリア発達は個人だけのものではなく、コミュニティ・文化・社会的ネットワークの中で形成される」
→Black Womenの労働実践やコミュニティケアを次世代のキャリア支援に応用する取り組み
- 人種・文化・ジェンダーに関する支援
・ラテン系(Latine)の人々のキャリア体験と「希望・コミュニティ」の役割
・黒人女性のキャリア開発とウェルネスを支える包括的なライフプランニング
・国際学生(特にインドからの留学生)や移民のキャリア支援に文化的に応答する方法
・女性リーダーシップとDEI――教育やビジネス現場での機会拡大
- 公平性・アクセスの拡大
・障害のある学生に対するメンタリングやトレーニングでの公平な機会創出
・低所得層・経済的に疎外された労働者へのキャリア支援
・AIと格差の関係(AIが誰に利益をもたらし、誰を置き去りにするのか)もDEIの文脈で語られていた
水野:また、ニューロダイバーシティについてもお伝えしておきます。NCDAでは、ニューロダイバーシティのテーマも積極的に取り上げられています。これは「神経多様性」という意で、日本では発達障害という枠組みで語られることが多いかもしれません。たとえばADHD(注意欠如・多動症)やOCD(強迫性障害)などは障がいや病気ではなく、一つの才能や個性として捉え、「ニューロダイバーシティ」という表現でキャリアの世界の中でも市民権を得ていこうという動きも出ています。
6佐久間淳成様からの報告
佐久間氏:私は8年前にキャリアコンサルタントになり、その翌年に初めてNCDAグローバルカンファレンスに参加しました。以降、コロナ禍を除いて毎年参加しています。2025年大会については水野さんから全体像を詳しくお話しいただきましたので、私からは印象に残っていることを3点お話しいたします。
1つ目は、水野さんも触れていたMarty Apodacaプレジデントのあいさつの直後のことです。国立公民権人権センターの広報担当者が、危ぶまれるDEIの推進に向けてスピーチをしました。この方は大手企業での職歴があったとのことですが、次のような旨を発言され、それが非常に印象的でした。
「私たちはどこかの組織や会社のために働いているのではなく、誰もが社会の中で安心して働いていけるように活動しているんだ」
2つ目は大会のテーマに関してです。「Autonomy to Change」というテーマに、「Evolving and Adapting Career Development in Revolutionary Times」という副題が付いていました。水野さんは「変革の時代におけるキャリア開発の進化と適応」と和訳されていました。私が気になったのは、末尾の「Revolutionary Times」という表現です。「Revolution:革命」という表現にどのような意味合いがあるのでしょうか。
革命というと、フランス革命や産業革命などが思い浮かびます。そのイメージは、革命の最中には争いごとがあるかもしれないけれど、革命後には新しい世の中が開けている、という感じでしょうか。私は「革命」という言葉に、「今はものすごくたいへんかもしれないけれど、この先には新しい希望が見えてくる」という意味合いがあるように感じました。
3つ目は、AIに関するラウンドテーブルでの経験です。ラウンドテーブルとは10~20名くらいの少人数で車座になって、それぞれの課題や相談事を発表して対話をする場です。私は最終日に「AIを実際にどう使っているか」をテーマにしたラウンドテーブルに参加しました。
参加者の大半は、大学のキャリアセンターで学生の就職支援している人たちでした。皆さん、すでに日常的にChatGPTなどのAIを使って学生と面談しています。具体的には、学生との面談中に一緒にパソコンの前に座り、AIに質問したり、履歴書の書き方を聞いたり、面接対策を教えてもらったりしているとのことです。そして、「AIはこのように答えているけれど、それに対してあなたはどう思う?」などと話し合っているようです。
このことだけでも興味深かったのですが、さらに印象に残ったのは「プライバシー」と「倫理」に注意を払っていることです。たとえば、ChatGPTなどに質問する際には、学生の個人を特定するような、氏名、生年月日、連絡先などを書き込まないなどです。その工夫などについて、「私はこうやっているけれど、皆さんはどうしている?」「こういうことで困っているけれど、アドバイスしてもらえますか?」などの対話に発展するケースもあり、「現場でAIをどう使っていくか」に向けて非常に参考になりました。
7質疑応答
AI活用についての議論で、実際にカウンセリングで活用した話はありましたか? また、否定的な意見、肯定的な意見が聞かれていたら、それらもご紹介ください。
カウンセリングでのAI活用事例について、デモンストレーションで見せてくれましたが、学生の就職活動支援に使っているという印象が強いようにお見受けしました。ただ、画像認識AIを使って「AIと面談トレーニングをする」という手法もすでに取り入れられていて、実際の活用が進んでいる印象を受けました。
就活では、学生側でも企業側でも進んでいると思います。たとえば、「うちのAI面接官はこれだけ優れている」などと売り込み、一次面接はAIにさせるなどの取り組みをしている会社がおそらく多く出てきているのではないでしょうか。
ただ一方で、それが倫理的にどこまで許されるかは混沌としています。NCDAの倫理綱領(太字にする)では、倫理的課題や懸念について具体的に指針を示してくれています。
そのほか、以下のようなご質問をいただきました。
○「今回のNCDA大会には、日本から何名くらい参加されたのでしょうか?」
→毎回10名ほどの方々が参加されています。
○AI活用に関して、日本のキャリアコンサルタント向けガイドラインの策定などを検討されていますでしょうか?
→まだ検討段階ですが、必要性があることは認識しています。
○「DEIのバックラッシュというお話がありましたが、宗教による影響もあるのではないでしょうか?」
→それもあるかもしれませんが、より複雑な権力にまつわる話が強そうです。
8まとめ
水野:今年の大会は、「変化の時代におけるキャリア自律」を軸に、DEI・AI・レジリエンス・教育実践を柱に展開されていました。特に、米国内で起こっているバックラッシュの逆風に負けず、社会正義や多様性の推進を打ち出し、AIを含むテクノロジーとの共生が強調されていました。
また、従来の「職業ガイド」から「人と社会の可能性を広げるキャリア開発」へシフトしてきているNCDAの状況が顕著でした。
ぜひ皆さんも参加されて、情報を収集したり言葉を残したりして活用されると、支援の幅が広がるのではないか思います。
(前編)アメリカにおけるキャリア支援の最新情報~NCDA2025グローバルカンファレンス参加報告~
前編はこちらプロモーションイベントの運営・実務を担当。趣味は読書といけばな。最近、涙もろいのが悩みです。
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