ピープルマネジメントで製造現場は強くなる~住友電装が描く、これからの現場リーダー像~
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2026.3.9
多様な人材が働く今の製造現場で、リーダーはどう人と向き合い、やりがいを支え、組織の力を高めていくのか。
現場に寄り添うリーダー育成のヒントを、住友電装 鈴鹿製作所・樋口氏の言葉から紐解きます。
―ポイントキーワード―
マネジメント改革/主任・班長育成/多様な価値観/現場起点の改革
はじめに
(1)ゲストとインタビュアー
(2)住友電装株式会社 製作所の組織体系
2「気がついたら」悪循環に陥っていた現場
(1)コミュニケーション不全はなぜ起こった?
(2)変わらないマネージャーと、変化した部下
3現場の声を聞く仕組み1
(1)キーパーソンは主任。「主任研修会」の内容を変える
(2)現場で生まれた変化
4現場の声を聞く仕組み その2
(1)現場の声を直接吸い上げる「技能系人財育成委員会」
(2)「班長になりたくない問題」にどう対応する?
5外部コンサルタントが役に立てること
6これからの製造現場に求められるマネジメント
(1)仕事の目標だけでなく、意味も伝える
(2)現場リーダーに求められる力
1はじめに
(1) ゲストとインタビュアー
(2) 住友電装株式会社 製作所の組織体系
製作所内は複数の事業部門があり、異なる製品・部品を作っている。
各事業部門は製作所の中に工場を持っている。

2「気がついたら」悪循環に陥っていた現場
(1) コミュニケーション不全はなぜ起こった?
本日はお時間をいただきありがとうございます。
まず、製造現場の人材育成やマネジメントについて、どんな課題を感じているかお聞かせいただけますか?
かつて製造現場と言えば、高卒で新卒一括採用された人が長く働き、働く人の属性も似通っていました。しかし、今では、派遣や請負といった形態で働く人や中途入社の人も増え、国籍、ジェンダー、学歴などの働く人の多様性も大きくなってきましたよね。
はい。ではまず、課題の前に、私がとてもショックを受けた出来事からお話しします。数年前、私が勤務する工場で、職業性ストレス診断の結果が異常値を記録しました。一般にハイリスクと言われる値の、なんと1.5倍の値が出たんです。
びっくりして当事者に話を聞いてみると、縦のラインでコミュニケーションがうまく取れておらず、お互いの認識にずれが起きていることがわかりました。
「コミュニケーション不全」の問題がひそかに進行し、現場で悪循環が発生していたのです。
マネジメント側の主任や班長は「メンバーの意見を聞き、能率を重視して目標を達成している」という認識でした。
ところが、現場のオペレーターや派遣社員に話を聞くと、「全然会話をしてくれない」、「提案に対するフィードバックがない」、「目標達成しかフィードバックしてくれないので、やりがいがわからなくなってきた」という声があがってきました。
主任や班長は「自分たちが育てられてきた頃と同じやり方でやっているのに」という意識だったのではと思います。しかし、部下、受け止める側は、主任や班長がオペレーターだった10~20年前から変わってきています。
(2) 変わらないマネージャーと、変化した部下
今お話しいただいた「受け止める側の変化」について、もう少し詳しく教えていただけますか?
弊社に限らないと思いますが、公私の区切りをはっきりとする人が多くなりました。
一方、今の主任や班長は、仕事が終わった後に職場のメンバーで飲みに行ったり、休日は一緒に草野球をしたりするのが当たり前、という雰囲気の中で育ってきました。
勤務時間中は業務に集中、仕事外の時間で相互理解を深め、一体感や組織文化を作ってきたのだと思います。
しかし現在は、そういう関わりを好まない人が増えています。余暇の過ごし方・職場での人づきあいの仕方は人それぞれです。これは20・30代だけでなく、それ以上の年代も同じです。全世代的に多様な価値観を重視する傾向になってきていると感じます。
こうした変化に、残念ながら、主任や班長の関わり方が追いついていません。現場の監督職のマネジメントやコミュニケーションの取り方を変える必要があると感じました。
製造現場において、上司・先輩側と部下側との間でのギャップが以前より大きくなっているというのは、色々な企業で聞かれる話です。どちらの側もベストを尽くしていても、両者からの見え方が異なっているためにズレが生じるようです。
住友電装さんのお話を伺っていても、「やっている」と思っている側と、「伝わっていない」と感じている側のギャップがあり、これが次第に大きくなっていったように感じました。
3現場の声を聞く仕組み1
(1) キーパーソンは主任。「主任研修会」の内容を変える
今まで、監督職層に向けて、どのような取り組みをされてきたのでしょうか?
弊社では、20年以上前から「主任研修会」を実施しています。
グループに分かれ、「安全文化の醸成とは?」などのテーマに取り組み、年度末に報告会で発表するアクションラーニング形式です。
期間は1年、1か月に1回。主任同士の交流の場という意味合いもあります。
また、班長向けには、半年に1回、労務管理研修や人事制度研修などを実施しています。
しかし、従来の取り組みだけでは、先ほどのコミュニケーションの課題を解決するには不十分だったんですね。
どう変えていったのでしょうか。
「主任研修会」のプログラムを見直すことにしました。従来は、研修成果を発表する報告会の資料作成に、3~4ヶ月を費やしていました。しかし、主任自身のスキルアップや、部下との関わり方を学ぶ時間を増やすことにしました。
具体的には、自分の行動特性を理解する「パーソナルアクションスタイル」の学習や、部下の話をしっかり聴く「傾聴スキル」の習得などを取り入れました。
安全や品質、生産出来高はもちろん重要ですが、それだけでなく、一人ひとりの部下と向き合い、部下の仕事のやりがいにも目を向けてもらえたらと考えました。
(2) 現場で生まれた変化
研修会内容の変更は私どももお手伝いさせていただきました。その後、現場で何か変化はあったのでしょうか?
たとえば、「部下と定期的に10分間の面談をするようになった」という話が届いています。そのなかで「部下が異動希望を持っていることを初めて知った」、「昇格に意欲が高いことがわかった」といった気づきがあるようです。
「オペレーターがどの設備を担当するかを決める際も、本人の意向を聞きながら実施できるようになった」と、手応えを感じている声もありました。
またマネージャー自身の変化として「以前よりも部下とのコミュニケーションに意欲的になった」といった感想も届いています。
良い変化の兆しを感じています。
良い変化があったとお伺いでき、とても嬉しいです!現業の監督職層に、ピープルマネジメントのついてお伝えすると、率直に職場で取り組んでくださり、アーリースモールサクセスにつながるケースが多いんです。
★「アーリースモールサクセス」とは?
「アーリー(初期の)」+「スモール(小規模な)」+「サクセス(成功)」の名の通り、最初から大きな目標を達成しようとせず、確実に成功できる部分から着手するアプローチです。
製造業の現場では、どうしてもコストや品質や納期など、モノにまつわるマネジメント指標に目がいきがちです。そこで、あらためてピープルマネジメントの重要性をお伝えしていくことが、職場や組織の変革につながっていくのではないかと思っています。
監督職層のみなさんは、すでにピープルマネジメントの重要性を認識されていることが多いのですが、考える機会や時間をあえて設けること、同じ役割の方同士でこのテーマについて対話をすることが、皆さまご自身の経験学習の促進に有効だと考えています。
4現場の声を聞く仕組み その2
(1) 現場の声を直接吸い上げる「技能系人財育成委員会」
ほかにもされているお取組みがあれば、教えてください。
今勤務している鈴鹿製作所で、2025年に「技能系人財育成委員会」を立ち上げました。人事だけでなく、現場の声を取り入れながら人材育成について考えるためです。
鈴鹿製作所は、4つの事業部に分かれていて、それぞれ作っている製品が違います。それぞれの工場のトップが工場長補佐で、現場を最もよく知っています。
彼らに毎月、委員会に参加してもらい、現場の課題を議論しています。彼らの率直な意見を聞くことで、本当に必要な施策が見えてきています。
(2) 「班長になりたくない問題」にどう対応する?
現場の声を直接吸い上げる仕組みを作られたわけですね。そこではどんな課題が出てきたのでしょうか?
そうですね、「班長向けの研修に注力してほしい」、「ミドルシニアでキャリアが停滞している社員のモチベーション維持について考えてほしい」というような声があがってきています。
最近、管理職になりたがらない若手社員も多いと聞きますが、弊社にも「班長になりたくない問題」があります。
というのも、班長は、メンバーをマネジメントしつつ、自身もオペレーター業務をこなす必要があります。また近年は、コンプライアンス、品質、安全管理など、マネジメントの項目が非常に多くなり、班長の負担感は増していると思います。
班長向けに新しい教育プログラムを実施するのか、班長の業務を見直した方がいいのか、まだ答えは出ていないのですが、委員会メンバーとよく議論しています。
5外部コンサルタントが役に立てること
弊社日本マンパワーのような外部コンサルタントに期待されることがあれば、教えてください。
日本マンパワーさんのサポートには、とても感謝しています。外注すると、パッケージで提供頂くことが多いですよね。それでも十分完成されたカリキュラムなので満足しています。でも、日本マンパワーさんは、弊社の要望を聞いて、更にアレンジを加えてくれていますよね。
最近だと、人材育成委員会で出てきた現場の声を研修内容に柔軟に取り入れていただいたり…。
弊社の状況を理解し、一緒に問題を解決しようという姿勢で取り組んでもらえるのは本当に心強いですね。
ありがとうございます。受講者の方や組織の課題感というのは、100社100様なので、そこをしっかりとお伺いしてからご提案するようにしています。現場で何が起きているのか、どこを目指していきたいのか、そのためには何が課題だと考えられるのかというのを、一緒にお話ししながらクリアにしてくことが本当に大事だと思っています。こうしたディスカッションをして頂けていること、改めて感謝申し上げたいと思います。
6これからの製造現場に求められるマネジメント
(1) 仕事の目標だけでなく、意味も伝える
今後さらに取り組んでいきたいことは何ですか?
メンバーが困っていることを吸い上げて問題を解決していくこと、そして会社全体、組織全体の方針をメンバーにしっかりと浸透させること。この両方をさらに強化したいと考えています。
現場のオペレーターに話を聞くと、自分の仕事はしっかりやっているのですが、掛の目標や、工場全体の目標を知らない人もいるんですね。
主任や班長から、工場全体の目標や、会社の中期経営計画などをしっかり伝えて、引っ張っていってほしいと思っています。
「皆さんがやっていることは、こういうことにつながっているんだよ。こういう目標を達成しようと思ってやっているんだよ」と仕事の意味を伝えていくということですね。
はい。今までこういったマネジメントの部分に十分に踏み込めていなかったのですが強化していきたいんです。
この「仕事の意味」については、私がとても好きな話があります。城づくりの現場で石を運んでいる人に「何をしているのですか?」と尋ねると、ある人は「石を運んでいます」と答え、別の人は「大阪城を作っています」と答える。
同じ作業でも、その意味づけができているかどうかで、働く意欲は大きく変わると思うのです。
日常的に、主任や班長が、自分の言葉で仕事の意味や目的を伝えられるようになれば、現場のメンバーが、よりやりがいを持って働けるようになると思っています。
(2) 現場リーダーに求められる力
これからの現場のリーダーには、どのような力が求められるとお考えですか?
弊社では、人事の方針として、「チャレンジする人を応援します」とずっと掲げてきました。
現場のリーダーには、ぜひこの言葉を体現してほしいです。まず、リーダー自身が、成長に意欲を持ち続けてほしい。
また、部下のチャレンジを応援するには、しっかりとメンバーの話を聴くことがやはり基本だと思います。班長を目指したい人もいれば、生産技術の仕事を極めたいと考えている人、しばらく育児を優先したい人、一人ひとり状況は違います。
一人ひとりの話をしっかり聴き、部下に寄り添うマネジメントをしていくことが何より大切で、工場全体を良くすることにつながると確信しています。
住友電装さんの取り組みは、時間をかけて現場を理解し、課題を丁寧に整理したうえで進められています。主任研修については、1年近くにわたって、短時間ながら毎月のようにみなさんが顔を合わせながら進めていくという、変革にかかる時間を意識した進め方になっていると思います。
こうした“地に足の着いた取り組み方”こそが、製造現場の変革に必要不可欠なのではないでしょうか。
これからも伴走しながら、現場のリーダーの皆さんが自信を持ってメンバーに向き合える環境づくりに貢献したいと思っています。
日本マンパワー 黒田
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