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キャリこれ

「デザイン態度」が個人と組織に創造性をもたらす

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2026.4.30


いま、広がりを見せているEX(従業員体験・経験)というメガネを通じて「働き方のこれから」「キャリアのこれから」「人事のこれから」「社会のこれから」を見通していく本連載。

 

第7回は、「サービスデザイン」を事業領域とする株式会社コンセントの大﨑優さんにお話をお聞きしました。

いま、EXの取り組みを導入するために、人事とデザインが協働する事例が増えています。

その背景や意味を、先だって開催された人事とデザインの交流プログラム「HRとEXのデザイン研究会」でご講演いただいた内容を振り返りながらお話しくださいました。

大﨑優様

武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。デザイン経営支援、事業開発支援、ブランディング支援、ビジュアルコミュニケーションデザインなどを行う。

2012年にコンセント社内にサービスデザイン事業部を立ち上げ、主幹事業に拡大。
2024年より、デザインによる人材育成や組織開発に関する事業部を管掌する。

特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構(HCD-Net)評議委員。社会人のための“未来の学校体験”「Xデザイン学校(X DESIGN ACADEMY)」アドバイザー・講師(2017年度〜)。
著書に『デザイナーのビジネススキル キャリア5年目からの「壁」の越え方』(翔泳社)がある。

1コンセントとは:経営・事業・組織までを支援するデザイン会社

Q1:まず、コンセントさんについて教えていただけますか?

 

大﨑氏(以下敬称略):デザイン会社です。 と申し上げると、広告などのグラフィックデザインやウェブデザインを想起されるかと思いますが、私たちは企業経営や事業戦略、あるいは組織づくりも含めて、デザインの力を使って幅広く支援を差し上げている会社です。

 

株式会社コンセントの事業領域

2大﨑さんの役割:デザインストラテジスト/サービスデザイナー

Q2:大﨑さんの現在のお仕事についてお話しいただけますか?

 

大﨑:私は「デザインストラテジスト」「サービスデザイナー」という肩書きです。
「 デザインストラテジスト」というのは、企業の中でデザインをどう活用するかを戦略的に考え、継続的に成長させる仕事です。

金融やメーカー、省庁などの幅広い業態のデザイン部門で、デザインの価値が組織に最大限発揮されるように動きます。

「サービスデザイナー」は、事業開発に向けてクライアント企業様を支援するような役割です。

 

コンセントでは役員を務めており、事業運営や人材育成といった企業経営に関わること全般を横断して担当しています。

3サービスデザインの全体像:CX/UXとEX(従業員体験)の接続

Q3: 「サービスデザイン」とは、どのようなものですか?

 

大﨑:わかりやすくいうと「事業のデザイン」です。

 

サービスデザイン=顧客体験とそれを継続的に提供するための事業や組織のデザイン

(講演資料より。Jamin Hegeman: How I Learned to Stop Worrying and Give Service Design Awayを参考にコンセントで作成)

 

デジタルやリアルにおける個別の顧客体験だけでなく、全体の体験設計や、それを継続的に提供するためにシステムやビジネスモデル、組織、戦略なども合わせてデザインしていくのが「サービスデザイン」です。顧客起点で構想・設計していくアプローチとなりますが、一連の体験を提供する従業員の体験もデザインの対象です。

Q4:では、大﨑さんのこれまでのキャリアについてお話しいただけますか?

 

大﨑:武蔵野美術大学でビジュアルコミュニケーションデザインを専攻して、2004年にコンセントに入社しました。当初は、エディトリアルデザイン(本や雑誌の編集的なデザイン)を担当していましたが、2010年代初頭にサービスデザインの事業部を社内で立ち上げました。

 

当時は、社会全体で新規事業開発が活況で、イノベーションやデザイン思考といった言葉が広まってきた時代。

クライアント企業の中でデジタルサービスを立ち上げる仕事も増えていきました。そうした中で、サービスデザインのアプローチで、企業の事業開発やブランディングの支援を担当することが多くなっていきました。

 

デザインの普及活動にも取り組んでおり、最近では「デザイナーのビジネススキル」という本も執筆しました。

デザイナーのビジネススキル キャリア5年目からの「壁」の越え方 (大﨑優氏執筆)

 

デザイナーは、デザインの勉強には熱心に取り組むものの、それを事業の中でいかに役立てるかというビジネススキルに関しては、属人的な対応に任せるばかりで、それが業界全体の課題になっていました。

そのようなスキルが体系的に語られていないことが問題なので、本を書いて普及させたいという思いで書かせていただきました。

4なぜ今、人事に「創造性」と「共創」が要るのか

Q5:デザイナーの役割がすごく変化していると思います。

改めて、職業デザイナーの役割の変化とは、どういう背景で、どのように変わってきているのでしょうか?

 

大﨑:20年ほど前までは、物理的なモノやビジュアルを作ることがデザイナーの中心的な仕事でした。その後、デジタル化の流れから「モノ売り」ではなくて「コト売り」中心になってくると、「体験をいかにデザインするか」にデザイナーの仕事が移っていきました。

 

この「体験」というのは、顧客体験だけではなくて、従業員体験も含まれます。

優れた顧客体験を実現するためには、優れた従業員体験を構想しなければいけません。サービスを提供した時に、お客様がどのような価値として受け取っているか、どういう反応があるから、どのように自分の仕事や事業そのものを変更しなければいけないかを従業員自身が考える。

このような枠組みをデザインの視点で設計するのです。

 

職業デザイナーの役割の変化

(講演資料より)

 

従業員体験という視点でいかに考えて動くかが事業の競争優位を築くことになります。

最近では、企業組織の柔軟性や開発力を高めるためにも「従業員がいかに創造的な思考を持って取り組めるか」「いかに事業に対して当事者意識を持って取り掛かれるか」を考える時代になっていると思っています。

 

これは少子化の影響もあり、単純に業務オペレーションを回すだけではなくて「自分をどう変えることができるか」というキャリア開発の面も含めて、デザインのフォーカスが広がってきた背景もあります。

例えば、不確実なものや曖昧なものを受け入れるなど「デザイン態度」と体系化された姿勢を身につけた上で、単純にサービスを提供するだけではなく“価値提供主体”として活躍できるような人材開発に私たちは取り組んでいます。

 

したがって、これまでのデザインは事業や広告・広報といった領域が中心だったのですが、最近は人事の枠組みの中で仕事をすることも増えてきています。

Q6:最近は、富士通さんのように人事の中にデザイナーの方が入られたり、先だってインタビューさせていただいたマネーフォワードの金井さんのようにデザイナーから人事をリードされたりするような事例が徐々に生まれています。

その要因は何だと思いますか?

 

大﨑:やはり人事にも創造性が求められる、ということに尽きると思います。

単純に人事施策を一方的に提供するだけではなくて、従業員と一緒に共創する必要性も増しています。従業員って「揺れ動く存在」というか、ライフステージが変わったり価値観も変わったりするからこそ、固定的な対応を繰り返すのではなく、従業員を価値提案の対象として捉え、弾力的に共創していくことが必要になると思います。

 

人事の方々にもデザイナー的な思考や、何かを作り上げていくというスタンスやスキルが求められる時代になっていくと思います。逆にデザイナーも人事的なスタンスやスキルが必要なのですが。

 

*EXというメガネ4 正論ではなく「共感」で人の心を動かす~Money ForwardのEX事例~

5「人は誰でもデザイナー」:創造性を引き出す環境設計

Q7:「人は誰でもデザイナーである」ということをおっしゃっていますが、少し詳しく教えていただけますか?

 

大﨑:デザインとは「意味ある状態を創り上げる」ということです。自分の原体験としては、サービスデザイナーとして、ある建設業界の企業様と新規事業をつくるプロジェクトがあります。
プロジェクトに参画されたクライアント担当者はイノベーションやマーケティングといった領域とは遠いお仕事をされている方々でした。しかし、一緒にデザインのプロセスを協働していくと、だんだんと“デザイナー”になってくるんですね。例えば自分から「こんなリサーチをしよう」「こんな画面デザインが良いのでは」という提案をされるなど、どんどんデザイナー体質・クリエイティブ体質になっていきました。その体験から誰でも創造性があり、それは環境のきっかけさえあれば発現するものだ、という確信が自分の中で生まれました。加えて、そのような変化の中で、クライアントの皆さんが自分の本来の仕事に誇りを持って、価値提供の当事者として振る舞われている場面を見ることが増えていったんです。その体験から「人は誰でもデザイナーなんだ」ということを実感しました。

6制度ではなく体験設計へ:EXの原体験とナラティブ

Q8:では、EXの話の方に入っていきたいと思いますが、大﨑さんご自身がEXというものを実感されるような体験はありましたか?

大﨑:これは、二つあります。
一つはメンバー/プレイヤーとして。もう一つが経営者としてです。
まず、メンバー/プレイヤーとしては10年ほど前に感じました。コンセントには、例えば知識を広げたり新たな視座を得るために書籍購入やイベント参加費用を会社で負担するといったように、探究心を阻害しない仕組みが多いんです。そして、そういった仕組みや制度があるのは、根底に従業員体験を大事にしていることがあるからだな、と感じたことがあります。それは単なる福利厚生的な制度ではなく、従業員が持つべきプロとしての姿勢を実感するための体験設計だとも感じました。会社のお金でインプットするなら、それ以上のアウトプットを生まねばならないという責任の表明としての体験。仕組みや制度やルールをシステマチックに作ることも大事ですが、まず従業員体験やそこから生まれる感情を考えることで、多様なアプローチが可能になると思ったことがありました。
経営者としての体験は、数年前に行動指針を新しくした時の出来事です。役員として社員に新しい行動指針について説明をする機会が多くありました。今後の事業成長を見据えた上で行動指針をリニューアルしたのですが、社員目線ではなかなか深い共感にはならない、従業員のナラティブにつながっていかない、という感覚がありました。そんな中、社員が自発的に行動指針について対話する場を作ってくれたり、ポスターにしてそれをもとにコミュニケーションをしたりするような動きが生まれたんです。

 

行動指針 対話会の様子

(講演資料より。行動指針 対話会の様子)

 

社内のデザイナーが制作した行動指針ポスター

(社内のデザイナーが制作した行動指針ポスター)

 

その体験を通じて、仕組みそのもの以上に、デザイナーとして「相手の視点に立つ」「相手のナラティブに共振させる」ことをもっと考えるべきなのかもしれない、ということを教えられました。それが、自分の中でEXデザインという言葉に通底するものだと思っています。

 

7EX(従業員体験)を進める実践フレーム

(1) 未知化:従業員を「知らない」モードに切り替える

Q9:お話を聞いて、デザイン会社さんの強みというのは、人事という形のない領域であってもポスターのような形ですぐに可視化できることだと思いましたし、「人事」というものをワクワクするようなものにしていることが素晴らしいなと感じました。
さて、先だっての研究会では、EXを4つの言葉(未知化、概念化と具象化、価値共創、デザイン態度)でご紹介くださいました。 この流れに沿ってお話をお聞きしたいと思います。まず「未知化」についてお話しいただけますか?

 

従業員を未知化する

(講演資料より)

 

大﨑:これは、デザイナーとしてすごく大事にしている言葉です。もともとは、デザイナーの原研哉さんが提唱されていた思考の手法です。例えば「椅子をデザインして欲しい」と言われた時に、椅子というものを「四本足があって、座面があって」みたいな記号化されたパターンでデザインを始めることもあるかと思います。決して悪いことではないのですが、さらに自分たちの創造性を高めるためには「椅子を一旦忘れる」ことが大事になってきます。

例えば人はそもそもその空間の中でどういう振る舞いをするんだろうか、「腰掛ける」というのはどういう動作なんだろうか、その空間における「腰掛ける」ことの意味はなんだろうか、といったように意識的に対象を知らない状態にし、問いを設定することがすごく大事なんです。

それを人事に当てはめるとしたら「従業員を知らないものとする」ということになると思います。 人事の方は(個人情報も含めて)情報を持っているし、いろいろなサーベイをして数値化もできているので、知っている状態、知りすぎている状態でスタートしてしまうと思います。しかし、知らない状態から問いを設定していかないと社員との関わりや、社員の成長を創造的にデザインできない。もっというと「相手をすでに知っている」という姿勢ではどうしても上から目線の物言いになりがちで、対等な対話が生まれづらいとも思います。知らない人であれば「じゃあどういうふうにしようか」という意欲や探究心が生まれるでしょうし、虚心坦懐に物事を聞けるようになると思います。人事担当者も、「知っている」状態から状況に応じて「知らない」モードに切り替える心構えが必要なのです。

デザインリサーチの世界で「師匠と弟子モデル」と呼ばれるものがあります。ユーザーやお客様を師匠として、自分たちを弟子として位置づける調査手法です。自分の考えが及ばない未知の存在である「師匠」の考え方を理解しようとし、行動を一生懸命になって観察して、そこから示唆を得る方法です。そういうスタンスではないと本当のニーズは引き出せません。それが「未知化」ということです。

(2) 概念化と具象化:可視化→対話→言葉を磨く

Q10:次に「概念化と具象化の往復」についてお教えください。

 

概念化と具象化

(講演資料より)

 

大﨑:デザインの基本的な考え方です。抽象的でとらえどころのない概念を、具体的な形に具象化してみる。具象化されたものを起点に対話を行い、そこから概念的なものを引き出すことが「概念化と具象化」です。そこでは、往復することが大事です。

例えば「社員の自律的な成長」というような抽象概念だけでは、社員はそこに意見を挟むことが難しい。ポジティブな言葉なので「まあ、そうだよね」という程度の感想しか生まれず対話も起こりづらい。でも、そこにその企業ならではの「社員の自律的な成長」の像が可視化されたら、「ここは共感できる」「ここは自分とは合わない」という発話が生まれる。形にしてみると、それに対してみんなが意見を言えるようになります。そして、その意見の中から、その企業の社員のナラティブに寄り添った「社員の自律的な成長」に向けた新しいキーメッセージが生まれ、概念化が進んでいく。

さきほどご紹介した行動指針の例では、言葉だとなかなか伝わらないけれどもポスターなどの形になってみると、誰でも何か感想を言うことができるようになり対話のハードルがどんどん下がっていきました。

人事側が発するものが「テキスト」であれば、そこへの反応は、ともすれば反発や抵抗のようにも受け取られます。一方でそれがビジュアル化したポスターであれば、絵には解釈の余白がありますので、社員それぞれが持論を展開できます。感情にも働きかけます。あと、ポスターは空間そのものに働きかけますので、企業のメッセージを周囲の反応も含めて肌感で感知できるのも良かったですね。

 

Q11:抽象化と具象化を反復できるようになるプロセスはありますか?

 

大﨑:今は 生成AI がありますが、何かしら生成した上で対話をしてみることが大事だと思います。コンセントでは美大ではない一般大学出身の社員に「作ってみる」体験をしてもらっています。そのプロセスの中では、絵作りが下手でも問題ありません。その人なりの作りたかった狙いや思いは自然と外部化されますが、その成果物を通じて、自分が何を思ったのかを感じてもらい、それを持って対話を進める経験をしてもらっています。

 

「自分でつくって、人に見せる」ってちょっと恥ずかしい気持ちもあったりしますよね。ダサいと思われるかもしれない。でも、単純に形にするだけではなくて、自分の思いが結晶化されるがゆえのそうした感情も含めて必要な体験だと捉えてもらっています。

 

人事側のメッセージを可視化するとしても、いきなり外部のプロに依頼して綺麗にかっこよくビジュアライズして完成させるのではなく、その課程で、人事部担当者が拙くとも自分なりに可視化したビジュアルで対話を進めてみる。一見、不格好なアウトプットだとしても、そこにはその人事担当者の当事者性が映し出される。対話の矢面に自分の成果物を差し出す覚悟をまとう。人と人とを深いところで結びつけ、そこから生まれる概念化は、鋭くエッジが立ったものになる。そう思います。

(3) 提案価値:フィードバックで施策を育てる

Q12: 次に「提供価値と提案価値」というお話をされましたが、これについてもお話しいただけますか?

 

提供価値と提案価値

(講演資料より)

 

大﨑:「提供価値と提案価値」は、サービスデザインの考え方です。提供価値は「一方的に与える価値」になります。しかし、環境変化が激しいいま、ほとんどのビジネスでは顧客が感じる価値がどんどん変化します。一方的に価値を提供するスタンスだと、市場に受け入れられるかはわかりません。価値を提案した上でお客様がどう反応するかを見て往復運動を繰り返しながら価値を作り上げていくのが、「提案価値」という考え方になります。

人事の方も提案価値的な感覚を持つと良いのではないか、と思っています。情報を「提供する」とか社内の施策を「提供する」とか、福利厚生を「提供する」といったときにも、まず提案したものに対してフィードバックを得た上で、どんどん良くしていくような感覚を持つことが、基本的なサービスデザインの考え方だと思います。

「提案する」姿勢をもってみる。サービスデザイナーは設計者でもありますが、それ以上にファシリテーターでもあります。アイデアを投げかけるだけでなく、相手の理解促進や合意形成、意思決定までを仕事とします。提供して終わりではないんです。

(4) コ・デザイン:人事施策は「未完成」が前提

Q13:最近「コ・デザイン」という考え方も広まってきていますね。

大﨑:「 コ・デザイン」での重要な視点は、「みんなで作り続ける」ことだと思っています。 例えば施策をつくったままでとどめておくのではなくて、どんどん改善し、作り続ける。コ・デザインの一つ重要な概念は「終わりがない」ということなんです。
人事の施策も基本的に流動的であり常に未完成であると考えることではないでしょうか。

 

Q14:コンセントさんの EX でも「コ・デザイン」の考え方を活かしていらっしゃいますか?

大﨑:そうですね。 例えば評価制度や社員のスキルを可視化したスキルマップも社内アンケートや対話イベントなどをしながら毎年どんどんブラッシュアップをしています。

8変化を前提に組織を育てる

(1) 文化の可視化(人的資本経営):施策に文化を宿す

Q15:人的資本経営でも企業文化が重要な指標になっていますが、コ・デザインやコ・クリエーション(共創)をする中で、企業文化という抽象的なものが具象化されていきましたか?

大﨑:企業文化というもの自体が言葉としては抽象的で無形なものですよね。
一個一個の施策に文化を宿す感覚をもつ方が、従業員体験としてわかりやすく、自分たちがそこにいる実感が持ちやすくなると思っています。なので、文化という極めてわかりづらくて可視化されないものを可視化した上で、そこに社員みんなが参画する仕組みをつくることが大事だと思っています。

(2) デザイン態度×キャリア自律:学ぶ行動を組織に実装する

Q16:さきほどお話に出た「デザイン態度」については、人材や組織開発の仕事を通じて、どのように思われていますか?

大﨑:まず、デザイン思考は「デザイナーの思考プロセス」のことなのですが、世の中に広まったために、「デザイン」への理解が「デザイン思考」とイコールになってしまった、という感覚があります。
一方で、デザイン思考プロセスを実行したとしても、その実行者の態度や振る舞いに問題があるがゆえに成果が出ない、という指摘も増えてきました。そうした状況を反映して、弊社でもイノベーション部門や DX部門の方たちにデザイン態度の育成をするプロジェクトも増えています。

この傾向は、企業視点だけでなく、従業員の「個人のキャリア自律」の点でもすごく大事な変化だと思っています。デザインの思考や態度には、現代のビジネスパーソンに必要な「学ぶ」行動へのエッセンスが詰まっているからです。

自分の存在を商品やサービスだと仮定した場合、活躍できる場所はどこなのかを探し出し、その領域を学ぶ。これは正にリサーチだと思いますし「自分が解決しうる課題は何か」を可視化して試してみて、どういったビジネス領域で活躍できるかを検証するようなこと。

このアクションを義務的あるいは苦痛を伴ったものではなくて「楽しみながらやること」がデザインでは大事だと思っています。

(3) 揺らぎと指標:変数と向き合い、創造性×生産性を両立する

Q17:もう一つキーワードとして企業、個人、社会の関係の「揺らぎ」ということをおっしゃっていました。

これは、どのような意味で使われたのでしょうか。

大﨑:対象が細かく変化し運動しているような状態です。例えば人はライフステージやその日の体調によって変わる中で、個人の存在自体が揺らいでいる、ある意味で弱い存在とも言えます。さらには「市場が揺らいでいる中で自分たちの事業をどうすべきか、業績によってどう動こうか」といったように組織自体も、大波に揉まれるように揺らいでいます。そういった常に揺らいでいる状態を前提に考えることが必要だと思っています。

そして、これまでは企業が社会に価値を提供して、個人がその企業の内面で活躍している構図だったと思います。一方で、今は個人が必ずしも一企業の中で完全に内包される会社員として存在しているだけではなくなっています。弊社でも社員はリモートワークを活用して各地方に点在しています。それぞれの社員には、東京とは別の世界のネットワークがありますし、副業しているメンバーもいます。個人と企業と社会の関係性は、これまでの完全に包含関係的なものから変わってきています。そういった意味での揺らぎの中でも、企業が何をすべきかを考えるべきだと思っています。

Q18:「揺らぎ」はキャリアの領域でも重要な概念でもあるので興味深いですね。
コンセントさんは 2019年に全社で生産性指標を入れられましたよね。創造性を体現されている事業だと思いますけど、生産性指標を取り入れた背景はどのようなものですか?

大﨑:デザイン会社の一つの特徴は、社員みんなが良いデザインをしたいので、クライアントワークの中でも、必要以上に時間をかけてしまう傾向が普遍的に存在していることです。品質を追求する姿勢として、ある一面で称賛すべきものですが、その仕事の仕方では事業としては成り立ちません。

当初は、生産性指標は経営指標なので、従業員にとって少し違和感があり反発もありました。ただ、その次のフェーズでは逆に生産性を守りすぎる保守的な傾向も生まれました。その傾向の中で、お客様が期待する価値以上の高みを目指すにはどういったデザインをすべきなのか、もしくは、社会全体を視野に入れ、より発展的な仕事をするにはどうしたらいいか、という視野が欠けてくるようになってしまいました。

 

ですから、生産性自体についてもみんなで考えたり議論したりする場をつくり、導入の背景をストーリーも含めて理解をしてもらった上で、自分たちなりにどのように生産性指標を「手なずけていくか」を体質化する動きをしてきました。

Q19:創造性と生産性は二項対立するようなものですが、そのバランスを取るポイントはどのようなものなんでしょうか?と言いますのも、多くの企業は生産性を問われているわけですが、今後は一人ひとりが創造性を発揮しなくてはならない中で、創造性と生産性のバランスの問題が出て来る、と思いまして。

大﨑:創造性を二つのレイヤーで考えることが私は大事だと思っています。一つ目のレイヤーは個別プロジェクトの創造性、もう一つは事業全体の創造性です。
プロジェクトの創造性だけを考えていると、生産性と創造性がトレードオフになってバランスを取りづらいものになると思います。

 

そこでプロジェクト固有の発想から抜け出し、いろんなプロジェクトを相対的に見て事業全体の創造性をいかに上げるかという視点で考えていく。個々のプロジェクトの中では創造性と生産性の葛藤があっても、より広い視野と高い視座で考えると、そこに自然と折り合いがついてくるものです。

事業全体の創造性の部分に、従業員みんなで思いを馳せることが大事だと思っています。

 

Q20:最後の質問になりますが。大﨑さんにとって EXとはどういうものだと思われますか?

大﨑:これまで顧客に向けていたデザインの手法を、従業員側に向けて愚直に実行していくことだと思います。UX/CX領域の、カスタマージャーニーマップやペルソナ手法といった体系化された知見があるので、それをEXデザインという形にデザイナーとして体系化しなければいけないと思っています。
また、さきほど「揺らぎ」という言葉がありましたが、CXやUXにおける最大の揺らぎ(変数)は、市場の変化なんですね。 いろいろな市場の変化が起こり変数が揺らいでいく中で、体系化された仕組みをいかに保っていくか、あるいは変えていくかが、CXやUXデザインの基本的な考え方です。 そして、EXデザインの場合、その揺らぎは、従業員の揺らぎになります。

先ほど申し上げたライフステージや価値観や働き方の変化といった揺らぎ(変数)や市場変化という変数に応えてきたUXデザインの手法を、従業員の変化やEXデザインに適用させるかが、デザインの腕の見せ所になっていくと思っています。

9インタビューを終えて

冒頭にご紹介した人事とデザインの共創が決して偶然ではないことを、本インタビューを通じてご理解いただけたと思います。

デザイン思考だけではなく「デザイン態度」を人事(メンバー)が身につけることによって、社員を「未知化(知らないものと考えてみる)」し、「概念化と具象化」の往復運動を繰り返しながら、社員との共創を通じた「提案価値」の創出につながるのではないでしょうか。

それによって個人にも組織全体にも創造性が育まれていくに違いない。

そんな明るい未来を感じさせていただいた時間となりました。

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