MENU

キャリこれ

ここから自ら気づき、学び、実践するリーダーが生まれる-鹿島 KX-LABの挑戦-(前編)

PICK UP

連載記事

2023.3.5

社会人や企業人の学びの潮流を俯瞰すると共に、新たな学びに挑戦する現場をレポートすることで、これからの働き方やキャリアの道筋を描く上で本質的に考えるべきことの解明を目指すシリーズ「学びのこれから」。
第6回は、鹿島建設株式会社(鹿島)が次世代リーダー育成を主な目的として立ち上げた施設「KX-LAB」(ケーエックスラボ)についてご紹介します。この施設は、近隣社宅在住の子女に約60年間教育を行ってきた「鹿島児童館」を改装して2020年にオープンしました。
KX-LABの企画に携わっている同社人事部の北野正一郎さんに、KX-LABへの想い・今後の展望などをお聞きました!
●鹿島人事部 北野正一郎さんのプロフィールこちら
アップ時は末尾へのリンクを実装
●目次 サイトアップ時、目次から各章へのリンクを実装
【前編】
1.鹿島の人材育成・キャリア体系について
2.KX-LAB 構想やプログラムについて
3.KX-LAB 効果と課題感

【後編】こちら
4.KX-LABと人的資本経営
5.KX-LAB 今後の展望等
6.KX-LABのプログラム企画にも活かされている北野さんの留学時の気づき
1.鹿島の人材育成・キャリア体系について

Q1:まず、御社の人材育成やキャリア体系について教えてください。

取材時、1つ1つの質問にわかりやすく答えてくださった北野さん
当社では、毎年250~300人程度を総合職として新卒採用しています。土木、建築の施工や設計、不動産開発など、職種別に採用しているのが特徴です。また、入社してから10年程度の時間をかけ、職種ごとの専門性をきちんと高めて「一人前」になろう、という育成方針があります。
専門分野に関する人材育成は基本的に各部門が担当しています。どの部門も年次ごとの育成体系を作っていて、この年次までにこれぐらいのレベルはできてほしい、という基準を作っています。
例えば建築技術(施工)系の場合、建設現場の所長になることを目指そうという形で、職場でのOJTを主体としながらOff JTとして集合研修を行っています。併せて、一級建築士資格の取得も強く推奨しています。
建設プロジェクトは、非常に時間がかかります。一つのビルの建設でも2年程度かかるものはざらですし、土木の場合は5年から10年かかるものもあります。プロジェクトの最初から最後までひと通り経験しないとわからない部分もあって、どうしても「10年ぐらいで一人前」といった具合に育成に長い時間がかかります。
もちろん技術の見える化等に取り組み、なるべく早期に一人前になってもらうようにしているのですが、現場所長になるのが40歳ぐらいになるのは、やむを得ない部分もある、と思います。

Q2: 現場でのDX(デジタルトランスフォーメーション)など習得すべき技術も変わっているでしょうか?

まさにリスキリングですね。そこも課題です。当社では数年前から、業務DXの観点に立ち電子回覧システムやRPA等の導入を進めるとともに、DX担当者向けの研修を実施したり、マニュアルの整備を進めてきたところです。
さらに、最近はAIやプログラミング等のメニューを拡充するとともに、門戸も広く開放した結果、累計で既に2,000~3,000人が研修を受けています。まずはそのような機会を提供するところに、集中して取り組んできました。

Q3: 御社は理念として「人道主義」というものを掲げていらっしゃいますね。

建設現場では毎回つくるものが異なります。土地の形も用途規制も全部違う中で、全部オーダーメイドでつくっていくわけです。必然的に、一人ひとりのエンジニアの能力・資質に拠る部分が大きくなります。
当社は経営理念の中で「科学的合理性と人道主義に基づく創造的な進歩と発展を図る」とうたっており、伝統的に社員を大事にしてきたと思いますが、人材育成にも労力も時間もかけてきた方かと思います。

Q4: 「キャリア」の面では、どのような取り組みをされているのでしょうか?

これまでの会社のスタンスは、社員を「一人前」に育てることに注力してきたと言えます。中堅から経営幹部層に対する研修は、若手向けに比べ少なかったといえます。
しかしVUCAと言われ経営環境の先行きが極めて不透明な時代になり、かつ「人生100年」時代となった今、会社として「一人前」になった後の世代に対しても、何らかの手を打つことが必要ではないかと考えました。また、そういった次世代のリーダー達が自己研鑽のために集まる場が必要ではないか、という意識がKX-LABの設立に繋がっています。
●KX-LABのコンセプト
KX-LABのコンセプトとして、「気づき」「学び」「実践」のループを回すことを掲げています。ともすれば研修というと「学び」にばかり目が行きがちですが、そもそも「学ぶ」とは何なのか。最近は、学ぶ気になれば、インターネット上にもコンテンツはいくらでもありますよね。それを会社が内製するというのは、ちょっと違うんじゃないか。むしろ学ぼうという原動力としての「気づき」こそが大事なのではないか、と考えたわけです。
それと共に、学んだ後にどう実践に活かすか、そして実践の中から新たな気づきを得るか、という点も重要です。つまり、「気づき」と「学び」と「実践」という3者をトータルで考える必要があります。そういった意味で、会社としてやるべきなのは、「学び」のための「気づき」を促すような仕掛けではないかと思ったわけです。
今までは学びの場というと、正解やロールモデルがあって、それに向かって効率的にスキルやノウハウを教える。つまり、先生の教えを生徒が受動的に学ぶようなイメージが強かったと思うのですが、そういったやり方だけでよいのか、とも考えました。
しかも会社が上から目線で「これをやれ」と強制的に気づかせるのではなく、個々のリーダーが自分で気づくような仕掛けをどうするか。我々もまだ、正解を持ち合わせているわけではないので、日々試行錯誤をしています。
社員が「一人前」になり、リーダー層になっていく段階で、これだけ世の中や環境が変わっているということをきちんと認識した上で、自分が変わり、職場も変えていく。リーダー層に期待されるものは変わってきています。そのため、様々な変化に気づく場が求められていると思います。
*気づきにつながる仕組み
KX-LABのラウンジには、来館者が自由に読める本が多数置かれていました!
2.KX-LAB 構想やプログラムについて

Q5: KX-LABの構想はいつ頃から始まったのでしょうか?

2016年頃です。鹿島児童館を数年後に閉園することが決まり、その後の有効活用を検討することとなりました、若手向けの研修場所が足りないので整備したいという話がありました。一方で、集合研修のための「箱」だけなら、社外でも会場は確保できるのでは、という指摘もありました。そういった議論を経て、そもそも、今後の人材育成において何が本当の課題なのか、もう1回考え直そうということになりました。
この場所を生かすとしたら、単に教室を作ることではないのではないか。鹿島として、この場所の歴史も引き継ぎながら将来を考える場にしていこう、これまでの若手向けとは一線を画した、次世代のリーダーを育成する場にしよう、ということが固まり、それにふさわしいしつらえを考えていきました。
コンセプト的には「サードプレイス」として、インタラクティブにできる場所にしよう、さらにホスピタリティあふれるサービスも提供する必要があるだろう、といったビジョンを描き準備していきました。

Q6:先ほどQ4でも少し触れていただきましたが、KX-LABで育成されるこれからのリーダー像とは、どのようなものですか?

自分自身の内省をしっかりしつつ、周りをリードしていけるリーダーが色々な分野で活躍していくことを期待したいです。そうしたリーダー同士が孤立せずに交流するような場として、KX-LABが機能していくとよいですね。
ともすれば専門性、効率性を高めるあまり、横の繋がりが希薄になりがちになるので、交流を促進する仕掛けが重要になると考えています。

Q7: 多くの業界がそうであるように、御社でも社内外での横断的な取り組みやコラボレーションが増えていくのでしょうか?

はい、増えていくと思います。KX-LABでもそれを意識し、各部門から選抜したメンバーが、連携しながら数か月間に渡ってプロジェクトに取り組むプログラムなどを行っています。
また、社外の方々にも参加頂く異業種交流的なプログラムも去年から試行しています。

Q8: KX-LABの隣にKX-SQUAREという施設がありますが、こちらはもともと両建てで構想されていたのでしょうか?

KX-LABに隣接し、2022年5月にKX-SQUAREというサテライトオフィス兼交流スペースを開設しました。こちらは寮・社宅居住者を中心に、社員であれば誰でも使えるスペースとして整備したものです。KX-LABと比べカジュアルな雰囲気とし、自由に使ってもらうこと、また、それを通じ社員同士のコラボレーションが生まれることを願っています。
順番としてはまずKX-LABの構想があり、その後、隣接地に新たな社員寮の整備を進める中でKX-SQUAREを構想していきました。
KX-LABは次世代リーダーのための施設なので、若手社員が誰でも入ることはできません。それに対しKX-SQUAREは、先程述べたように、社員同士の交流の場として、誰もが気軽に立ち寄れるような場所にしようという考えに基づいています。近くに独身寮や社宅があり、多くの社員が住んでいますので、サテライトオフィスとしても使えるような場をつくりたいと考えました。

Q9: KX-LABでは、さまざまなプログラムを計画していらっしゃるそうですね。

これまでの2年間、澤円さん(元日本マイクロソフト業務執行役員)などゲストスピーカーの講演・対話を、7-8回開催しました。社外取締役とのディスカッションも行っています。
世の中の動きを知ってもらうためにも、普段業務であまり接することのない方との対話による「気づき」は必要だと考えています。
*カンファレンスホール横の本棚には、これまでの講演者の著作も並んでいます

Q10: プログラムはどのように計画されてらっしゃいますか?

人事部がメインで企画しています。日本マンパワーさんには、キャリア関係のワークショップや「KX CAREER TALKS(以下、キャリアトークス)」という社内イベントの実施にご協力頂きましたね。

Q11: 「キャリアトークス」は、どういうきっかけで開催することになったのでしょうか?

コロナ禍にも直面し、ますます各自の「キャリア自律」が重要になるという認識で企画しました。特にキャリアに関しては、社外の方の話を聞くよりも、具体的な社員のキャリアを発信する場が必要だと考えました。
当社は部門ごとの専門性が高いこともあってキャリアが部門内で完結している面もあり、他の部門の人たちと共有する場が少ないと感じています。そこで2年前に第1弾として、発足したばかりのデジタル推進室のメンバーに登壇してもらうところから開催しはじめました。
そもそもデジタル推進室って何?といった仕事紹介的な内容も盛り込みながら、どのような人がそこで働いているのか、抱負も交え話してもらいました。その後も各部署から登壇してもらっていますが、参加した社員からは「自分が知らなかった部署のことも知ることができて良かった」といった声が多く寄せられています。

Q12: そういった場で、部門人事(HRBP)の方々と本社人事あるいはHQ(Head Quarter)人事の方々との交流も生まれているのですね?

もちろん普段から繋がってはいますが、これから連携がますます必要になってくると思います。
3.KX-LAB 効果と課題感

Q13: これまでのKX-LABの効果と課題とはどのようなものだと思われますか?

本社の会議室とは異なり、やや非日常的でリラックスできる雰囲気の中、半日単位で滞在し、じっくり議論をしたり考えたりすることができる、という施設ができたことは、社内的にインパクトはあったと思います。ただし、都心からKX-LABへの移動に小1時間かかることへの抵抗感は、まだまだあると思っています。一度訪れてもらうと、リピーター的に何度も利用してもらうことが多いのですが。
また、「学び」の場として研修やワークショップを行う以外にも、「気づき」や「実践」の場として使える、ということをアピールしていくことも課題ですね。
KX-LAB内打合せスペース
このほかに、鹿島児童館の備品をあえて残した打合せスペースもありました!

Q14: 離れているからこそ、通常業務から切り離されるメリットがありますよね?

そうなんです。例えば、KX-LABから1時間程度離れた場所にある技術研究所のチームは、環境を変えるためにあえてKX-LABに来てワークショップをやりたいと、繰り返し利用しています。都心のオフィスの近くでは、どうしても途中で呼び出されたり休憩中自席に戻ったり、ということから逃れられませんからね。
課題といえば、コロナの影響によって研修は急速にオンラインに移行しましたが、今後、どのように対面型プログラムを効果的に組み合わせていくかも課題ですね。KX-LABをスタジオのように使い、オンラインイベントを発信することもありますが、対面とオンラインのハイブリッドでやるのはハードルがあるのも確かです。

Q15: コロナも収まってきましたし、今年はKX-LABを利用される方が増えそうですね。社内的な発信はどのようにされているのでしょうか?

イントラネットでの告知がメインですが、タレントマネジメントシステムに登録された情報を用い、イベントに興味関心がありそうな社員に優先的に案内することも試みています。
例えば、最近、KX-SQUAREに導入している立体音響システムの試聴体験会を実施した際は、音楽に興味があるとシステムに登録している社員に最初に声をかけました。また、先ほどお話しした「キャリアトークス」でも、デジタル推進室の回では、デジタル分野への関心が高い社員を優先案内しています。
●後編は、こちら
鹿島建設株式会社
人事部 北野正一郎さんプロフィール
1990年代半ば、鹿島に入社。最初の数年は現場の事務管理を担当、その後、人事部や不動産開発部門に在籍した後、40歳を過ぎてから海外留学しMBAを取得。帰国後は、本社で戦略を企画立案するチームに所属、主にヒトに関するテーマや課題に取り組む中で、KX-LABのプロジェクトに関わり始める。数年前から人事部で企画グループ長を務めている。